代表 寺澤康介
(調査・編集: 主任研究員 松岡 仁)
HRプロ代表の寺澤です。
1月20日、文部科学省および厚生労働省より2015年3月卒業予定者の昨年12月1日現在の就職内定率が発表されました。それによると、大学の就職内定率は80.3%で前年同期比では3.7ポイント増とのこと。この数字は、リーマン・ショックが起きた2008年の12月1日現在の80.5%にほぼ匹敵する数字です。リーマン・ショックは同年9月15日に当時米国4位の投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したことに端を発していますが、この年の新卒採用活動はすでに終盤戦に差し掛かっており、その影響は軽微にとどまりました。リーマン・ショックの影響が新卒採用に大きく影響を及ぼしたのは、その翌年以降となります。
リーマン・ショックが起きる直前まで、日本は平成バブルと呼ばれていましたが、前年12月1日時点の就職内定率でも81.6%でしたから、2015年3月卒業予定者の就職内定率はかなり高いと言えます。2016年3月卒業予定者の求人倍率は前年よりも高くなることが予想されており、就職内定率は平成になってからの最高を記録する可能性が大きいと思われます。
さて、今回も採用担当者を対象に昨年末に実施した「2016年新卒採用動向調査」の結果を基に、各企業の動きを見ていきたいと思います。
2016年新卒採用の「より重要な施策」は「学内企業セミナー」「自社セミナー・説明会」
「2016年新卒採用でより重要になると思われる施策」を聞いてみました[図表1]。「学内企業セミナー」(63%)と「自社セミナー・説明会」(62%)の二つが、他の施策を大きく引き離す結果となりました。採用スケジュールの変更を受けて1年前にも同様の質問をしましたが、その時のトップは「自社セミナー・説明会」(42%)で、「学内企業セミナー」は40%で2位でした。
[図表1]2016年新卒採用でより重要になると思われる施策(複数回答)
順位の入れ替わりもさることながら、注目すべきはポイント(選択した企業の割合)の変化です。いずれも20ポイント以上も高くなっています。企業は、よりリアルなコミュニケーションを重視する傾向にあることを伺い知ることができます。
「学内企業セミナー」だけでなく、「キャリアセンターとの関係強化」が43%で3位に入るなど、「大学対策」が重要なキーワードとなっていることは間違いありません。
学内企業セミナー参加校は「増加傾向」
学内企業セミナーに参加する予定の学校数については、前年と「変わらない」とする企業が42%と大半を占めるものの、「増やす」と回答した企業34%に対して、「減らす」と回答した企業はわずか2%であり、全体的には増加傾向となっています[図表2]。ターゲット校の範囲を広げるというよりは、これまで参加できていなかったターゲット校への参加を着実に増やしていこうとしているようです。
[図表2]学内企業セミナーの参加大学数の増減
企業規模別に見てみると、「1001名以上」「301~1000名」の企業での回答比率は大きく変わりませんが、「300名以下」の企業では「増やす」企業は26%と比較的少なく、30%の企業は「参加しない」と回答しています。学内企業セミナーは、参加を希望すれば受け入れられるものではなく、これまでのOB/OGの入社実績等を勘案して、大学ごとに判断されます。比較的、大手企業や準大手企業が優先される傾向が強く、「300名以下」の企業では受け入れ大学が多くないこともありますが、人事担当者のマンパワー的に参加が難しい企業も少なくありません。
結果、「300名以下」の企業の学内企業セミナー参加学校数は、8割以上が「1~10校」にとどまります[図表3]。「1001名以上」の大企業では、「1~10校」が36%で最も多いものの、「11~20校」が24%、「21~30校」が28%と、それ以上の学校数も多くなっています。中には「101校以上」という企業もわずかながらあるようです。
[図表3]学内企業セミナーの参加大学数
推薦確保に向けて理系研究室訪問を強化
キャリアセンターと並んで大学対策の窓口となるのが「理系研究室」です。かつてメーカーへの就職が主流だった時代には、理系の就職方法といえば、大学推薦・教授推薦などの「推薦応募」によるものが一般的でした。その後、大学研究室とのパイプが希薄なソフトウェア産業をはじめとする非メーカーの理系採用が拡大される中、徐々に文系同様の「自由応募」が増え始め、メーカーにおいても推薦応募と自由応募を並行して取り扱うようになり、近年では自由応募の方が多い企業も少なくありません。ただ、2016年卒採用では少し状況が異なるようです。
まずは理系研究室訪問の実施状況を見てみましょう[図表4]。メーカーでは半数以上(51%)の企業が「実施した(する予定)」と回答しています。うち、今年から新たに実施する企業が11%にも上っています。理系採用に苦戦する中で、推薦による応募者確保に向けた動きが強まっていると言えます。それともう一つ、面接選考開始が8月1日になったことに鑑み、大手企業の中には、理系の選考期間の短縮化を狙う動きがあります。理系学生の卒業研究のことを考えると、夏場に理系学生を選考のために長期間(複数回)拘束することは極力避けたいところ。そこで、理系学生の選考に要する日数(面接回数)を減少すべく、推薦応募の学生割合を増やしたいというものです。推薦応募の場合には、選考が1日で終わることも珍しくありません。一般的に、推薦応募の場合には掛け持ち受験は禁止されていますので、入社意思の確認に時間を割く必要がないためです。
[図表4]理系研究室訪問の実施状況
メーカーだけを抽出して、理系学生の応募経路についての結果を見てみましょう[図表5]。「昨年と変わらない」とする企業が企業規模に関係なく最も多くなっていますが、「1001名以上」では「推薦比率を高めたい」とする企業が3割近くあります。前述の選考期間の短縮化を裏付けるデータとなっています。
[図表5]理系学生の応募経路
理系研究室訪問は半数の企業が12月までに実施
理系研究室訪問は、半数の企業が12月までにスタートしています[図表6]。年内における実施に注目して見ると、2015年卒では12月の採用活動解禁を意識してか、「12月に開始」とした企業が20%と多くありましたが、2016年卒では開始時期が各月に分散していることが分かります。「12月」が2015年卒では20%ありましたが、2016年卒では12%にとどまるのに対して、「10月」は2015年卒の9%から13%へと伸びています。残りの月については、2015年卒と2016年卒では大きな差異は見られません。
[図表6]理系研究室訪問の実施時期
今年も「マイナビ」が掲載社数トップ
最後に、2016年卒採用で利用する予定の就職ナビを聞いたところ、「マイナビ」が52%、「リクナビ」が47%と、前年に続き「マイナビ」が掲載社数でトップとなる見込みです[図表7]。掲載社数において「マイナビ」が「リクナビ」を超えたのは前年の2015年卒向けサイトが初めてです。
[図表7]利用予定の就職ナビ(上位3サイト比較・複数回答)
なお、2015年卒向けサイトにおいて掲載社数でトップの座を「マイナビ」に譲りながらも、「リクナビ」は1000名以上の大手企業の掲載数では依然トップを維持してきました。2015年卒向けサイトを見ると、1000名以上の大手企業の掲載数は2月8日現在で、「リクナビ」が2459社に対して、「マイナビ」は2171社。ところが今回の調査では、大手企業においても「マイナビ」(75%)が「リクナビ」(66%)に大きく水をあけています。2016年卒向け就職ナビは、採用広報解禁日の3月1日に正式オープンしますが、大手企業の掲載社数においても「マイナビ」が「リクナビ」を逆転する可能性が出てきました。3月1日に注目してみたいと思います。

HRプロ株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(現HRプロ)を設立、代表取締役に就任。約20年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ株式会社)。 http://www.hrpro.co.jp/