2014年07月11日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2014年7月


HRプロ株式会社/HR総研
代表 寺澤康介
(調査・編集: 主任研究員 松岡 仁)


 HRプロ代表の寺澤です。
 2014 FIFA ワールドカップブラジル大会は4強が決まり、本稿執筆時点ではいよいよ準決勝、3位決定戦、決勝を残すのみとなりました。ブラジル、ドイツ、アルゼンチン、オランダのどこが優勝してもおかしくないチームが、順当に勝ち上がったと言えます。ただ、決勝トーナメントに入ってからのこれまでの試合経過では、延長戦に突入した試合が全12試合中の半数の6試合もあり、さらにその半分の3試合はPK戦にまでもつれ込む混戦となっています。残り4試合、まだまだ寝不足は続きそうですね。
 さて、前回に引き続き、今回も4月下旬にHR総研が実施した調査データをもとに、2015年新卒採用の現状を報告いたします。今回のテーマは、「内定」です。

内定出しは2014卒採用よりもさらに前倒しに

 4月下旬時点での企業の採用計画数に対する内定者数の割合(内定充足率)を、過去2年間の同時期と比較してみました[図表1]
 まず見ていただきたいのは「0%」の割合です。2013年卒採用と比較して、2014年卒採用では53%から38%へと15ポイントも減少しましたが、2015年卒採用ではさらに3ポイント減少し、4月末の段階で内定者がゼロの企業の割合は35%にとどまりました。「1~10%」の割合も前年よりも減少しており、それ以上の内定充足率の企業の割合が増えていることになります。選考スピードと内定出しが早くなったと言われた昨年よりも、さらに前倒しが進んでいることが分かります。

[図表1] 4月下旬時点での内定充足率(3年比較)


 資料出所:HRプロ・HR総研調べ([図表]2~6も同じ)

 内定充足率を企業規模別に見てみましょう[図表2]。1001名以上の大企業では、「0%」の企業はわずか13%しかありません。逆に言えば、9割近い企業が内定出しを始めていることになります。一方、中堅・中小企業では内定出しを始めている企業は6割前後にとどまります。ただし、「91%以上」の割合を見ると、大企業18%、中堅企業17%、中小企業15%と、企業規模による差はそれほどないようです。

[図表2]4月下旬時点での内定充足率(企業規模別)

3月までに内定出しピークの企業が増加

 今度は内定出しのピーク時期を見てみましょう。
 まずは文系ですが、「4月後半」までのほぼすべての時期で過去2年間よりも高いポイントとなっています[図表3]。「3月後半」までの累計ポイントで見てみると、2014年卒採用では4%に過ぎませんでしたが、2015年卒採用では11%と7ポイントも高くなっています。さらに、「4月後半」までの累計で見ると、2014年卒採用が36%だったのに対して、2015年卒採用では44%と8ポイント高くなっています。ちなみに、2013年卒採用では「4月後半」までの累計は31%でした。
 「4月後半」までのポイントが高くなった分、「5月前半」「5月後半」をピークとする企業割合が減っています。「6月以降」をピークとする企業は昨年と同程度です。

[図表3] 文系学生への内定出しピーク(3年比較)

「4月前半」が突出した理系採用

 続いて理系の内定出しピークを見てみましょうす[図表4]。3月までのピークについても過去2年間より高い数値ではありますが、注目すべきは「4月前半」の集中度合いです。2013年卒採用 10%→2014年卒採用 14%と伸びていましたが、今年はさらに23%と一気に9ポイントも高くなっています。ほぼ4社に1社は「4月前半」が内定出しのピークであったことになります。「4月前半」までの累計では、2014年卒採用で23%であったものが、2015年卒採用では33%にもなっています。理系については、面接回数の削減など選考スケジュール自体の短縮が図られたものと推測されます。

[図表4] 理系学生への内定出しピーク(3年比較)

内定出しは進むも終了時期はそれほど変わらない

 企業の内定出しのペースは昨年を上回るものの、採用活動の終了時期の見込みを尋ねてみると、それほど早くはならないようです[図表5]。それどころかかえって遅くなるとする企業が増えています。「ほぼ選考は終了した」は14%で変わらないものの、「5月終了」「6月終了」「7月終了」はいずれも昨年よりも減少し、「8月終了」「9月以降終了」が増えています。

[図表5] 採用活動の終了予定時期

 企業側の採用意欲の高まりは、企業からしてみれば採用競争の激化を意味しており、思うようにエントリー者が集まらない企業や、後述するように内定辞退者が増えている企業を生んでいるわけです。一部の人気企業は昨年よりも速いペースで採用活動を進める一方、多くの企業は採用活動の苦戦を覚悟しているようです。

一部の学生に内定が集中し、内定辞退者が増加

 これまでの内定辞退者の数を昨年同時期と比較してもらったデータが[図表6]です。2013年卒採用から2014年卒採用にかけては、「昨年よりも少ない」(「かなり」+「やや」の合計)とする企業が22%から33%へと大きく増えたのに対して、今年は一転しています。「昨年よりも少ない」とする企業が33%から23%と10ポイントも減少したのに対して、逆に「昨年よりも多い」とする企業が2014年卒採用の14%から29%へと倍増しているのです。

[図表6] 内定辞退者数の増減

 昨年よりも速いペースでの内定出しが行われたため、昨年であればもう少し後に内定辞退していた層が今年はすでに辞退しているということも考えられますが、選考スケジュールの短期化が一部の学生への内定の集中を招いたことが予想されます。後述する学生データも参照してください。

未内定者が昨年より減少

 ここからは学生の状況を見てみます。学生調査は、楽天「みんなの就職活動日記」の協力の下に実施しています。ここでは、就職意識の高い学生が回答者の多くを占めているため、一般的な調査よりも内定取得率が高めに出ていることをお断りしておきます。ただし、経年比較や大学クラス別比較では影響はありません。
 [図表7]は、文系学生の4月末時点での内定保有社数を尋ねたデータです。2014年卒文系と2015年卒文系のグラフを比較してみると、減少しているのは「0社」と「1社」で、増えているのは「2社」「3社」「4~6社」「7~9社」です。つまり、未内定学生と1社だけの内定保有者が減少し、複数の会社から内定を取得している学生の割合が増えているのです。未内定者は47%から43%へ、1社だけの内定保有者は30%から28%へそれぞれ減少し、2社以上の内定保有者は、2014年卒では23%だったものが2015年卒では30%となっています。内定保有者の半数以上は複数内定を持っていることになります。
※内定保有者に占める複数内定保有者率 2013年卒 44.1%→2014年卒43.4%→2015年卒52.6%

[図表7] 文系学生の4月下旬時点での内定保有社数(3年比較)


 資料出所:HRプロ・HR総研/楽天「みんなの就職活動日記」調べ(以下図表も同じ)

 

大学クラスにより内定状況は大きく異なる

 文系学生について内定者保有社数を大学層別に見ると、内定取得者(「0社」以外)の割合が大学層により明らかに異なるのが分かります[図表8]。内定取得者の割合(以降、内定率)を見ると、「旧帝大クラス」75%、「早慶クラス」79%と極めて高いのに対して、「中堅私大クラス」51%、「その他私大」39%とかなりの開きがあります。
 また、内定社数にも注目してください。「早慶クラス」では実に49%が複数社の内定を保有しています。「旧帝大クラス」「上位国公立大クラス」「上位私大クラス」も37~39%と極めて高い割合になっています。内定者における複数内定保有率で見ると、「早慶クラス」はなんと62.4%にもなります。内定を持っている学生の3人に2人近くは複数企業の内定を持っているということになります。同様に、「上位私大クラス」62%、「上位国公立大クラス」59.5%と極めて高い割合になっています。

[図表8] 文系学生の4月下旬時点での内定保有社数(大学クラス別)

 内定保有者に、内定した企業の従業員規模を尋ねたデータが[図表9]です。「1001~5000名」「5001名以上」の大企業の割合で比べてみましょう。「旧帝クラス」は76%、つまり4人に3人は大企業から内定を取得しているのに対して、「その他私立大学」では32%にとどまります。大学クラスにより、内定保有社数だけでなく、どんな企業から内定を取得しているのかが全く異なることが分かります。

[図表9] 文系学生の内定先企業規模(大学クラス別)

理系でも複数内定保有者が昨年よりも増える

 続いて理系について見てみましょう[図表10]
 「0社」の割合は前年とさほど変わらないものの、「1社」の学生割合は41%から33%に減少し、「2社」「3社」「4~6社」「7~9社」がいずれも増えています。文系と同様、複数社から内定を取得している学生が増えているのが分かります(27%→35%)。
 理系の全体割合では、未内定32%、1社だけ内定33%、2社以上内定35%となっており、文系と同様、内定者の過半数は複数内定を持っている状況となっています。
※内定保有者に占める複数内定保有者率 2013年卒 43.2%→2014年卒39.7%→2015年卒51.5%

[図表10] 理系学生の4月下旬時点での内定保有社数(3年比較)

早慶クラスの6割は複数社の内定を取得

 内定保有社数を大学層別に見ると、こちらも内定取得者の割合が大学層により明らかに異なるのが分かります[図表11]。「早慶クラス」では88%が内定を取得しており、複数内定の保有者も6割近くに上っています。一方、「その他私大」では内定保有者は45%と5割を切っているとともに、複数内定の割合も26%にとどまります。推薦制度の利用者の多い「旧帝大クラス」や「上位国立大クラス」では、「1社」のみ内定保有者の割合が4割前後と高くなっています。
 内定保有者に占める複数内定保有者率で見てみると、「上位私大クラス」は71.9%と7割を超え、「早慶クラス」も66.7%と高くなっています。「上位国公立大クラス」では、複数内定保有者率は45.0%にとどまります。内定者の中では、1社のみの内定を保有している学生が55%と過半数になります。

[図表11] 理系学生の4月下旬時点での内定保有社数(大学クラス別)

 内定保有者に、内定した企業の従業員規模を尋ねたデータが[図表12]です。「1001~5000名」「5001名以上」の大企業の割合で比べてみると、「旧帝クラス」の73%に対して、最も割合が低い「中堅私大クラス」でも44%と、差はあるものの文系ほどの開きはありません。理系学生の内定先の多くはメーカーであり、現業職までを含めた企業規模では大企業に分類されるメーカーの割合が多いことや、求人ニーズの高い理系の方が大企業から内定を取得しやすいことが考えられます。

[図表12] 理系学生の内定先企業規模(大学クラス別)

依然として厳しい既卒者の就職活動

 政府は卒業後3年以内の既卒者を新卒枠で応募受付し、新卒学生と同様に選考することを求めていますが、その実態はどうでしょうか。過去3年間の状況をまとめたものが[図表13]です。
 2013年卒と2014年卒の比較では「内定者が出た」割合が大きく伸びていますが、これは単に選考スケジュールの前倒しによるものになります。2013年卒では「選考中または未選考」が21%もありましたが、選考の前倒しが図られた2014年卒では「選考中または未選考」は9%しかありません。要は選考の結果が出た企業が多く、「内定者が出た」6%→14%、「内定には至らなかった」13%→17%と増えているわけです。「内定者が出た」「内定には至らなかった」「選考中または未選考」の企業、つまり「新卒枠で受け付け、新卒枠で選考する」企業の割合は、過去3年間ほぼ4割で変化はありません。また、「内定者が出た」企業は、今年も昨年と同じく14%にとどまります。

[図表13] 既卒者の選考・内定状況(3年比較)

 各企業の求人意欲が高まり、企業にとっては採用難になってきているというのに、既卒者をめぐる環境には変化がないようです。「今年がだめでも来年があるさ」という甘い考えを学生が持たないよう、大学の強い指導力が望まれるところです。

110506terazawa_pic.jpgのサムネール画像 寺澤 康介 てらざわ こうすけ
HRプロ株式会社 代表取締役/HR総研 所長

86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(現HRプロ)を設立、代表取締役に就任。約20年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ株式会社)。  http://www.hrpro.co.jp/