2012年12月19日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第9回 ロープレに企画100本ノック ベタな現場人材育成を再評価しよう

 


常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

 今回は、現場での人材育成について考えることにしましょう。特に営業、企画担当の若手が経験する「ロープレ」と「企画100本ノック」にスポットを当てます。ベタな手法ですが、その効果を再評価することにしましょう。

■人材は、現場で育成される

 私が採用担当者をしていた00年代半ば、就活を始めたばかりの学生からよく聞かれたのは、「御社の人材育成はどのようになっていますか?」というものでした。ただ、ここでいう「人材育成」という言葉ですが、学生と社会人ではイメージするものがまるで違います。学生は職場を離れて行う「研修」のことを想起しますが、社会人は現場でのOJTや、昇進・昇格、異動などを含む仕事の任せ方のことを想起することでしょう。実際のところ、企業における人材育成とは、特に現場での取り組みが中心です。
 そう、ここは改めて確認しておきたいところです。人材育成は、現場で行われているのです。今年、最終作が公開された『踊る大捜査線』の名セリフに「事件は会議室で起こっているのではない。現場で起こっているんだ!」というものがありましたが、まさにそうなのです。
 ただ、問題はその現場主導の人材育成が、現場任せの人材育成――さらに言えば「単なる放置プレイ」になっていないかということなのです。無理もありません。人を育てることができる人材がいない、育てる時間がない、お金もない、さらには育て方のルールも変わっている……。これが日本の現場で起きていることです。
 ただ、会社員をしていると、研修をしている時間よりも、仕事をしている時間の方が圧倒的に長いわけです。ここで人材を育てない手はありません。また、人を育てるために教えることは、教育担当をも育てます。また、若手が育つと上司や先輩も育ちます。これこそが育てる連鎖です。
 このような、育てる連鎖の復活こそ日本の職場の課題です。これを実現するために、若手向けの、古典的であっても効果的な人材育成を見直すべきだと思うのです。

■ロープレは、営業力を劇的に高める

 今回は、営業、企画それぞれの古典的でありつつも、有効な手法を取り上げてみたいと思います。営業担当者向けの育成手法の一つが「ロープレ」です。ロールプレイングの略です。つまり、役割を演じるということですね。
 営業役とお客さん役に分かれて、行います。何人か、観察者がいるとより効果的ですね。お客さん役はある顧客を演じます。実在する企業のデータをもとにして行うとより効果的です。ビデオで撮影すると、より効果的でしょう。

 

 アイスブレーキング(初対面の緊張感、抵抗感をなくすために行うコミュニケーション)から課題のヒアリング、商品・サービスの紹介からクロージング(契約をお願いすること)まで、一連のやり取りを行います。
 この過程で、商品知識、課題ヒアリングなどひと通りのスキルを確認することができます。これは顧客ニーズについて仮説を立案する訓練としても有効です。若手社員だけでなく、先輩・上司にも勉強になります。ビジネスマナーなど基礎スキルの確認にももちろん役立ちます。
 やや手間がかかりますが、有効な手段ではあります。若手を集めてロープレ大会をしてしまう手もありますね。営業部全体で取り組みたい企画です。

■企画100本ノックは企画マンの通らざるを得ない課題

 今度は企画担当者向けの人材育成手法を見てみましょう。ずばり、「企画100本ノック」です。期間を区切って、あるテーマについて100本の企画を立ててもらうのです。A4で1枚、いや、そこまでいかなくてもメモ帳に1枚、あるいは1行というレベルでも構いません。とにかく1週間や10日という一定の期間で100本、企画を書かせるのです。
 はっきり言って辛(つら)いです。でも、それを乗り越えたところに、振り切れたアイデアが生まれます。アイデアは湧いてくるものでもありますが、創るものでもあります。
 極限まで自分を追い込むことにより、振り切れたアイデアが生まれるのです。
 ピュアな若手の企画は、大ヒット企画に化けることも。実際、ここから生まれた大ヒット商品もあります。また、若手の出した企画を評価し、いいところと悪いところを適切に指摘することは、先輩や上司にとっても貴重な成長機会になります。
 繰り返しますが、アイデアは自然と生まれる(湧いてくる)ものではないのです。創るものなのです。このように自分を追い込むことも時には大事です。

 いかがでしょうか? あまりにベタですが、このような現場での、具体的なトレーニングが大事です。組織の一体感を生み出す企画でもあります。若手に「放置プレイされている」と思わせないためにも有効です。バカにせずに、時間をつくってぜひ取り組んでみましょう。

 

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)『「意識高い系」という病』(ベスト新書)『女子と就活』(白河桃子氏との共著 中公新書ラクレ)『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)