2012年11月19日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第8回 若手社員の仕事におせっかいになろう

 


常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

 今回は、若手社員の仕事の質をどうマネジメントするかについて考えます。社員は一人ひとりが会社の看板です。仕事の質は一定以上にしなければなりません。

■先輩はなぜ「お前と同じ社名の名刺を持ちたくない」と言ったのか?

 私の若手社員時代の話をしましょう。希望外の配属で営業になった私は、まったく仕事ができず、営業目標の未達成が続いていましたし、仕事はミスだらけ。やる気もありませんでした。
 そんなある日、飲みの席で先輩に説教をされました。
 「俺は、お前と同じ社名の名刺を持ちたくない」
 非常に厳しい一言でした。どういう意味でしょうか? それは、同じ会社の看板を背負っているのに、顧客に対する提供価値がまるで違う。先輩のほうが提供価値が高いのはしょうがないにしろ、果たすべき役割を果たしていないということを指摘されたのです。グサッときた一言ですが、身に染みました。
 そう、若手社員であろうとベテランであろうと、その企業の名刺を持った瞬間に、企業の代表選手なのですね。ミスがあった場合には、「◯◯社の営業の常見さんは最低だった」という言い方ではなく、「◯◯社の人間は最低だ」と言われるようになってしまいます。
 やや余談ですが、以前、宿泊予約サイトの仕事をしていた時のことです。ある観光地でセミナーをした際に、参加者の宿泊施設の担当者がこう言っていました。
 「このセミナーが終わった後、◯◯湯の女将さんにあやまりに行くんだ」と。
 なんでも、その旅館で宿泊客に対する粗相があったそうなのです。これは温泉街全体の信用に関わる問題だということで、そのエリアの有力者である、名門旅館の女将に謝罪に行くというわけですね。そう、先ほどの営業マンの事例同様、「常見旅館は最低だ」というふうに個別の旅館の批判にはならず、「◯◯温泉は最低だ」というように、そのエリア全体の評判が落ちてしまいます。
 「みんなが会社の看板だ」という意識を持ちたいところです。特に若手社員はまだまだ成長途中である一方で、「若いのにしっかりしている」社員は好印象です。若手社員の仕事の質アップに、力を入れたいですね。

■若手社員の仕事、見ていますか?

 またまた私の失敗体験です。エンターテインメント企業で採用担当をしていた頃の話です。
 当時、同じチームに新人が配属されました。他の社員が産休に入ったり、異動や退職などがあったりしたこともあり、新人ではあるものの、彼女にはそれ以上の仕事を期待していたのです。もともと、優秀だと感じていた彼女。私には、楽勝で仕事をこなしているかのように見えました。
 しかし、ある日のことです。彼女の出身校で会社説明会があった際、私も同行したのですが、リハーサルをしている時にあることに気づきました。たしかに彼女は、新人以上の仕事はしていたものの、その内容はまだまだというレベルだったのです。そして、彼女がこんなことを言い出しました。
 「私、仕事の仕方を、一度も教えてもらったことがないのです…」
 ショックでした。この人は黙っていてもできると思っていたのですが、気付けば放置していただけだったのです。彼女は、仕事のやり方を知らないまま、悩みながら日々を過ごしていました。私は、仕事の質もマネジメントできていなかったのです。

 

 皆さんの部下はいかがでしょうか? このコラムを読んでいる方は人事部で研修や採用を担当している方が多いかと思いますが、「うちの子に限って…」なんて思ってはいけません。職業柄、就職情報会社が運営する合同説明会や、大学で各社の若手採用担当者とご一緒する機会があるわけですが、「大丈夫か?」と思う瞬間がよくあります。服装がだらしない上に若者言葉。企業説明も聞いていてよく分かりません。プロジェクターの台形補正ができていないなど、ブースの設営状況、運営もイマイチです。しかも、学生に説明会の開催時間を伝えたのに、その時間にやってきた学生に「今日はもうやめましたから」と言う始末。人事担当者は学生にとって最初に会う大人なのです。見られていることを意識したいものです。どれも上司、先輩が少し教育すればよいことなのですが。
 最近の採用では自ら学び続ける人材である「独習人材」が求められていますし、自分から聞いて、勝手に育つ人材が評価されています。ただ、学び続ける姿勢を持っていることと、実際に、適切に成長するかどうかは別問題です。「自ら学ぶ」にしても、適切な方向に向かっているかどうか、実際にできるかどうか、質が高いかどうかが問われます。気を付けないと、顧客に対する提供価値が下がってしまいます。
 若手社員の仕事の質を高めるためには、先輩から積極的に関わることが期待されるのです。

■まずは仕事を丁寧に見て、ツッコミを入れる

 では、具体的にどうすればいいでしょうか。まずは、若手社員の仕事を丁寧に見るところから始めるべきでしょう。以前の私のように、完全に放置にして、仕事をちゃんと見ていない状態になっていないでしょうか?
 営業の場合で言うと、同行が最も有効です。若手のアポに同行し、どのように商談を進めているかを見るところから始めましょう。アポの目的を聞いた上で、先方との関係性に問題がないか、適切なヒアリングができているかをみます。この際、質問や提案をする様子を見せると効果的です。終わった後は、振り返りを一緒にしましょう。
 ややパワーがかかるものの、効果的なのは、同行アポの際に会話のログをすべて取らせることです。つまり、やり取りをメモさせるということですね。
 企画担当の場合は、会議に一緒に参加し、そのあとに、やさしくフィードバックをすることを続けることをオススメします。文書の作成法は適切か、発言は適切だったかなどです。
 営業にしろ、企画にしろ、大事なのは具体的に指導することです。どの言動が適切で、どれがそうじゃなかったのか、具体例をもとに伝えましょう。これがないと納得しないものです。
 このような指導を実現させるためには、実は上司や先輩がまず変わらなければいけないのですけどね。
 「勝手に育つ」は美談ですし、もちろん、あえて放置することによって育つこともあるのですが、企業として仕事の質は守るべきです。後輩に関心を持つところから始めてみませんか?

 

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)