常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員
突然ですが、皆さんは部下や後輩を上手に叱ることができますか?
「叱る」ことのできない上司。これでは若手は育ちません。実はこれ、「いま」職場で起こっている深刻な問題です。上手な叱り方、これを組織的に強化する工夫について考えてみましょう。
■叱るのが上手な上司なんて、いるのか?
「部下のパフォーマンスに満足していないのだけど、どうも上手に叱れない…」
そんな悩みを抱えている方、いませんか? 「叱れない上司」これは、日本の職場にとって、いま、そこにある課題です。若手社員の扱い方が苦手、嫌われるのが怖い、パワハラ扱いされるのが怖い、若手の頃に頭ごなしに叱られた経験がトラウマで自分はそうしたくないと思っている…。叱らない、叱れない理由は実にさまざまです。
日経電子版の読者アンケート(2012年9月3日公表)「パワハラ扱いが怖い…職場で叱れますか(女と男のいい分イーブン)」が興味深いです(サンプル数が開示されていない調査ではありますが)。「最近、あなたは職場の部下や若手を叱ったことがありますか」という問いに対して、「必要なら叱っている」は39%で4割弱という結果になっていました。「以前は叱ったが、最近は叱らない」11.1%、「叱るより、指導を重視している」38.7%、「叱らず、あまり指導もしていない」8.7%、「その他」2.4%でした。
では、「パワハラ」が怖くて叱っていない人はどれくらいいるのでしょう。同調査では、「『パワハラ』という言葉の浸透で、職場の人間関係が難しくなったと感じますか。皆さんの体験や部下の対処法などもコメントしてください」と質問していますが、「とても難しくなった」17.7%、「やや難しくなった」33.9%と、合わせて51.6%の方が「難しくなった」と考えています。劇的に多いわけではないですが、半数が「難しくなった」と思っていることは体感値と近いのではないでしょうか。
一方、叱るのが下手な上司が多いのもどうやら事実のようです。株式会社ミュゼによる「職場内コミュニケーション調査2011」では、61.7%の部下は「自分の上司は叱り下手」と回答。一方で、79.5%の上司は「自分は叱り下手」と回答しています。自分の上司が叱り下手だと、部下も気づき始めていて、当の上司も自分の叱り下手を認識しているというのは興味深い事実です。
「叱り下手」が日本の職場の問題であることは間違いないです。
■「素敵な叱り方」を思い出してみよう
では、上手な叱り方ができる上司になるためには、どうすればいいでしょうか。一つのヒントは、自分のこれまでの人生における、上手な叱り方を思い出してみることです。社会人になってからに限らず、幼い頃の親とのやり取りや、中高生時代の部活動における監督の叱り方、大学時代の先輩の叱り方…。叱り方において参考になるものはたくさんあります。スポーツの指導者の叱り方などは、よくビジネスパーソンが参考にしているものですよね。
私の場合で言うと、自分の母親、中学校時代のバレー部の顧問、大学時代の指導教官、会社員時代のMBAホルダーの上司、トヨタ自動車出身の現場管理監督者の叱り方の参考にしています。
母親は、自由と規律のバランスが絶妙でした。自由にしつつも、締めるところは締める、と。特にプロセスとアウトプットにおける基準が高かったです。あるべき姿にこだわり、甘やかさない姿勢が参考になりました。中学校時代のバレー部の顧問は、「褒める」と「叱る」のバランスが絶妙でした。大学時代の指導教官は、笑顔で厳しいことを言うこと、論拠を示して叱ることが大変に上手でした。会社員時代のMBAホルダーの上司は腰を低く、具体的にアドバイスすること、事実をもとに叱ること、相手の尊厳を守ることが参考になりました。トヨタ自動車出身の方は、叱ることとフォローのバランスが上手でした。決めたことをやらせる、守らせることの徹底ぶり、一方で叱ったあとにちゃんと相手を励ますことが参考になりました。
あなたの「叱る」の先生は誰ですか?
■「叱る」を効果的に行うための三つのポイント
では、効果的な叱り方とは何でしょうか? 先ほどの、私が参考にしている例をもとにしつつ話すと…。
1.相手の尊厳を守る
叱られる側の尊厳を傷つけてはいけません。例えば、人前で、大声をあげて叱るなどは、その人が救われませんよね。もちろん、周りに緊張感を持たせるという意味ではこれも効果的ではありますが。
その人の尊厳を傷つけないように、フロアの端の打ち合わせスペース、会議室、会社の外など場所を選びましょう。また、感情的に怒鳴るのもやめた方がいいですね。
2.叱り方は「具体性」と証拠が大事
特に今の若い人には、漠然と叱っても伝わりません。何が悪いのかを具体的に指摘しましょう。またその際には証拠の提示も大事ですね。いつの、どの言動がまずかったのかなど、状況を示しながら伝えましょう。
3.「叱る」と「フォロー」はセット
叱ったあとは、別の機会にちゃんと褒める。何かあったときにフォローしましょう。
この3点にまずこだわりたいところです。
■組織的叱り力の強化を
最後に…。この手のことは人事が頑張るだけではダメです。むしろ、現場での人材マネジメントそのものと言えるでしょう。組織的に強化に取り組まなければなりません。管理職研修などに取り入れたいところです。
さらに、みんなが叱ると職場もギスギスします。組織内で叱り役、褒め役などの役割分担も考えたいですね。
上手な叱り方ができる組織にしましょう。
常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)