2012年09月24日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第6回 若手の離職率を下げるために、人事が今すぐ工夫するべきこと

 


常見陽平  つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

 皆さん、若手の離職に悩んでいませんか? 新卒の若者は3年で3割辞めるという法則はあまりに有名です。今回は、早期離職を防ぐためにはどうすればいいかを考えることにしましょう。なお、早期離職対策は入社前の採用活動から始まっているというのが私の考えなのですが、今回は、入社後にするべき対策を中心にご紹介します。

■若手の離職はみんなの責任

 「会社を辞めることにしました…」
 若手社員がこんなことを突然言い出して、びっくりしたことはないでしょうか。いや、ちゃんとあいさつに来るならいいです。突然、会社に来なくなったり、行方不明になったり…。「都市伝説じゃないか?」「根拠のない若者批判だ」と思われるかもしれません。しかし、世の中全体での件数は集計されていないものの、私が仕事上よく見聞きする話です。
 こんな話があるたびに、採用担当者には社内から批判の声が集中します。
 「なんであんなやつ、採ったんだ」
 「もっとメンタルが強いやつを採れ」
 「人事の眼は節穴か?」
 気持ちは分かりますが、ちょっと待ってください。彼らを選んだのは誰ですか? 若手社員が辞めるときに、いつも人事がやり玉に挙げられますが、現場の部長、課長、係長くらいは採用活動に参加しているはずです。もちろん、自分の部署で採用するわけではないので、やや無責任なジャッジになることはありますが…。
 ミスマッチ解消などのために、採用活動は進化していますし、企業の悪いところもさらけ出す採用になってきています。とはいえ、採用活動だけで全ては決まりません。入社してからのほうがもっと長いのです。若手社員の退職に際してありがちなのが、「やる気がない」「自己実現志向が強すぎだ」など、彼らが悪者になるパターン、もう一つが、採用担当者がやり玉に挙げられるパターンですが、それだけでしょうか。これでは問題の真因がつかめていません。実は管理職のマネジメントスキル、組織風土、仕事の任せ方などにも問題があると言えます。
 若手社員が辞めると言い出す、この現象自体を深く捉えたいところです。この手の話は、客観的に捉えるのが難しいものですが、まず、ウチの会社の若手社員は、なぜ辞めるのか? 一般論として語られることではなく、自社の事情を詳しく把握する必要があります。本人だけでなく、上司や先輩、同期入社の社員などにもヒアリングをしてみましょう。

■「若手社員は元気に働いているのか?」アンテナを敏感にする

 前提として言うなら、若手社員の退職は、何でもかんでも止めればいいというわけではありません。互いに合わないのであれば、早めに決断するのも手ではあります。ただ、前述したとおり、若手社員が退職するのは、企業に何かの問題があるシグナルでもあります。放置しておくと、職場の問題はずっと解決できません。
 まずは、若手社員、いや、それに限らず、みんなは元気に働いているのかについて、アンテナを張るべきです。部署単位で情報を集めて、そこで何が起こっているのかを常に把握しておきましょう。人事部というだけで相手が構えてしまう部分はあるかと思いますが、各部をブラブラする、他部署に仲間をつくることで対応したいところです。
 若手社員、特に新人には、人事部との面談を設定します。入社から半年~1年くらいのときに、職場でのことや、今後のキャリアについて相談できる場をつくるとよいでしょう。このような場があれば、ある日突然、退職宣言をされてびっくりということがなくなります。危険な兆候を早期に察知することができるからです。なお、考えが甘い場合は、張り手をかますのも手です。もちろん、殴ったり怒鳴ったりしたら本当に問題になるので、やんわりとした言葉の張り手でいきましょう。
 情報が入ってきやすい体制、相談しやすい体制をまずはつくっておくのが大切です。

■研修でつながりをつくる

 もう一つ、早期離職を避けるための手段は、研修です。ビジネススキル系の研修、キャリアの振り返り研修、新人によるプロジェクト型研修などさまざまな種類があります。
 まず言えるのは、取り組んでもらうことは何であれ、研修というものを通じて、同期や近い期で集まるという行為に意義があるということです。ここで“つながり”をつくることに意味があるのです。何か困ったときに相談・愚痴を言う相手がすぐ見つかる効果があります。
 そして、何と言っても、他部署の仲間がそれぞれのステージで悩みを抱えつつも頑張っているという事実が伝わると効果的です。
 離職率が高いことで悩んでいたある流通企業では、同期で集まり、登山とBBQを行いました。この取り組みにより、他部署の同期とのつながりができ、すぐに辞めずに踏みとどまるようになったとか。まあ、離職率が高い根本的な原因を探し、つぶすことが先決だと思いますが、短期的には成果が出た部分は評価するべきだと思います。
 このようなつながりを自社ではどうつくるか。考えてみましょう。

■すごい仕事を与える

 最後に。中には、与えられた仕事が楽勝すぎて、物足りなくて、やりがいを感じられず辞めていく人たちがいます。ここを止めることができるのは、仕事そのものの面白さです。ずばり、若いうちから大胆に大きな仕事を任せることによって、企業に残ってもらうとともに、次世代リーダーとして育成させるのです。
 例えば、サイバーエージェントでは、若手社員を大胆に関連会社の社長や役員として抜てきしています。入社1年目の社長まで登場し話題になりました。これはまさに離職率の低下と、次世代リーダーの育成の両方を狙っているわけです。

 若手社員の離職は別に、彼らだけが悪いわけではありません。職場の問題が悪影響を及ぼしていることも十分に考えられます。組織の課題をあぶり出し、真摯に向き合って解決していきましょう。辞めない若手育成、辞めたくならない職場醸成――どちらも大切です。

 

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)