2012年08月23日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第5回 若手社員を育てるインターンシップ

 


常見陽平  つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

 夏です。インターンシップの季節です。皆さんの職場にも学生さんがやってきていますか? このインターンシップ、学生だけのものではありません。若手社員を育成するのにも、有効なのです。今回は、若手人材育成のためのインターンシップ運営術をご紹介したいと思います。

■インターンシップはすっかり定着?

 本論に入る前に、インターンシップの現状について、整理してみましょう。
 まず、インターンシップを実施している企業はどれくらいあるのでしょうか。HR総合調査研究所の調べによると、2013年度採用においてインターンシップを実施した企業は全体の36%でした。従業員数が増えるほど実施する傾向になっていて、300名以下の企業では31%なのに対し、301~1000名の企業では36%、1001名以上の企業では52%となっています。
 インターンシップの期間については、「1週間程度」と「2週間程度」が多く、全体の約27%。2013年度採用から、経団連の倫理憲章で、「インターンシップは5日以上の職場体験型とすること」という方針が打ち出されたことも影響していると考えられます。
 学生の側はどうでしょうか。2013年卒でインターンシップを体験した学生の割合は、文系で33%、理系が31%でした。2012年卒はそれぞれ47%、45%ですから、それぞれちょうど14ポイントダウンしています。あくまで推測ではありますが、背景としては、前述した倫理憲章によりインターンシップの在り方が見直され、1DAYインターンシップが減ったことで気軽に参加しにくくなったこと、同じく就活の広報スタート時期が12月1日と、ややゆっくりになったこと、そして震災により採用活動が後ろ倒しになりインターンシップの準備も遅れたことなどが挙げられるでしょう。
 なお、インターンシップ体験率を学校層別で見てみると、旧帝大クラス44%、早慶クラス43%に対し、上位国公立大クラスは27%、上位私大クラスは34%と、参加率に大きく差がついていると言えます。「インターンシップは旧帝大、早慶中心の文化」と言われますが、データでもはっきり現れています。もっとも、これはインターンシップというものが、これらの上位校の学生に早期にアプローチするための手段と化していることを証明しているとも言えますが。
 倫理憲章見直しにより、インターンシップは10年くらい前の、上位校を中心に受け入れ型で行っていた時代に戻りました。一時のお祭り騒ぎのような状態は脱したと言えるでしょう。とはいえ、学生の経験率、知名度は高く、それなりに浸透した状態になっていると言えます。

■学生からの満足度が高いインターンシップとは?

 では、学生からはどのようなインターンシップが人気があるのでしょうか? 就職情報会社ジョブウェブは、2013年卒の学生に「参加して良かった!後輩にオススメしたいインターンシップ」に関する調査を行いました(http://www.jobweb.co.jp/company/column/honne/12877/)。
 147社が挙げられた中での、ベスト5は
 1位 ワークスアプリケーションズ
 2位 三井住友海上火災保険
 3位 アチーブメント
 4位 VOYAGE GROUP
 5位 三井住友銀行
――という結果に。誰もが知っていそうな大手金融機関と、ベンチャー企業が混在しているのが興味深いですね。企業としての規模、知名度だけでなく、内容で支持されるのだということがよく分かる結果です。
 では、どのような点が支持されているのでしょうか。「やりがいのある課題と、それをやり切ったことから来る達成感」、「社員からのアドバイスやフィードバックがあること」、「優秀な学生や意欲的な学生と作業できたこと」などが評価されているようです。

 学生にヒアリングしていて印象的だったエピソードを紹介しましょう。外資系消費財メーカーでインターンをした学生はこう語ります。
「1日目の終わりに、メンターの社員さんにいきなり叱られて、目が覚めました」
 彼は、ゼミやサークルなどでも目立つタイプ。初日のディスカッションでリーダーシップを発揮すべく、打ち合わせをやや強引に仕切り始めました。本人は仕切ることができたと思い、自信満々で初日を終えました。しかし、ミーティング終了後の社員からのフィードバックでは、本人は仕切りきれたつもりでも、そうではなく、他の学生がまるで納得していなかった点などを指摘されました。よい言葉の張り手だったようです。それ以来、他のメンバーの意見を聞くことを意識し、インターンの日程を過ごしました。
 このフィードバックがあまりに好印象だったこともあり、彼はその企業を受けることを決意。結果として内定しました。
 逆に、企業側からすると、このように、真剣にフィードバックをする、社員が熱心に対応することが、好印象につながり、結果として採用につながると言えそうですね。

■インターンシップが若手社員を育てる?

 そもそも、企業はなぜインターンシップを実施するのでしょうか? よく「職場体験の機会を提供する、社会貢献活動だ」という美談が語られますが、そんなわけはありません。立派な採用活動の一環です。早期に優秀な学生に接触したい、学生への認知度を上げたい、今年の学生はどうなのかリサーチしたいという下心がもちろんあるわけです。
 このことは、学生も企業もある程度認識しているでしょう。しかし、インターンシップのメリットは採用面だけでしょうか? 実はインターンシップには若手人材の育成、職場の活性化という意味もあるのです。

 インターンシップでやってきた学生の教育担当を若手社員に任せることによって、彼らは、上司の視点を体感することになり、上司の立場からみて、されると嫌なことがひと通り分かります。つまり、人に教えることが、自分の仕事を見直す機会につながるのです。普段と違う立場から自分の仕事を振り返ることにより、自分の分からないこと、できないことも明らかになります。
 また、いつも学生から見られる体験をするので、適度な緊張感もあるでしょう。もちろん、泣き言や甘えを言っている場合ではありません。通常業務をこなしながら、学生の前ではデキる先輩を演じ続けなくてはならないので、タイムマネジメントも上手になりますし、仕事の質を高めようという意欲もわきます。
 ある消費財メーカーの事例です。その企業では、学生が参加する新規事業開発プロジェクトについて、5人の若手社員を投入しました。そのうちの1人は入社1年目の若手社員です。彼は頭が切れ、仕事もできるのですが、「生意気」なことでも有名でした。上司や先輩から「あいつはなんだ…」と言われるような存在です。しかし、彼はインターンシップで教育担当をすることにより、上司の視界を体感。リーダーシップならぬ、フォロワーシップを学ぶことができました。これをきっかけにチームで働くこと、人を巻き込むことに目覚め、仕事で頭角を現し始めたのです。結果として同期トップ出世を実現しました。

 インターンシップで若手人材を育成する際のコツは、それぞれメンターとして担当する学生を決めてしまうことです。どの学生が最も成長するか、これをメンター同士で競わせるのです。また、プログラム作りにも彼らを巻き込むと良いでしょう。採用を成功させるという意味においては、インターンシップ終了後、彼らをリクルーターとし、応募した学生をフォローさせるという方法もあります。採用成功につながる一手です。

 インターンシップは学生のためだけにあるのではありません。ぜひ、若手社員育成に有効活用しましょう。

 

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『大学生のための「学ぶ」技術』(主婦の友社)『就活難民にならないための大学生活30のルール』(主婦の友社)『就活の神さま』(WAVE出版)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)