2013年01月21日掲載

会社を伸ばす「すごい若手」の育て方 - 第10回 部下のシグナルに敏感になる すべての言動には理由がある

 


常見陽平 つねみ ようへい
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

 2013年、最初のコラムです。今年もよろしくお願いします。今回は、若手を育てるための「観察力」について考えることにします。若手の言動にはすべて理由があります。若手の危険なシグナルを察知し、トラブルを未然に防ぐコツをお届けしましょう。

■「管理が行き届いていない職場」には法則がある

 私のリクルート時代の思い出です。2002年から2004年にかけて2年間、トヨタ自動車との合弁会社オージェイティー・ソリューションズの立ち上げに参加し、2年間出向しました。トヨタのものづくり現場で約40年間活躍した管理監督者を顧客企業に送り込み、一緒に改善プロジェクトに取り組みつつ、現場リーダーを育成するというソリューションビジネスでした。私はマーケティング、広報の担当者として出向しましたが、たくさんのプロジェクトを覗(のぞ)き、現場が変わり、人が成長する姿を見てきました。人材育成に関するノウハウの多くはこの時期に学びました。
 ここで学んだことがあります。それは、現場の状態というものは、どんな細かいことであってもその現場の実態を物語っているという法則です。例えば、現場が汚い、何かと物が散らかっているという状態は、管理が行き届いていないことの何よりの証拠です。「別にそれでも仕事ができたらいいじゃないか」という話になるかと思いますが、違います。やはり散らかった現場は働く社員の動作に支障をきたすわけで、生産性が落ちますし、問題の隠蔽(いんぺい)が行われていることすらあります。
 もう一つ特徴的なのは、従業員の発言がいちいち曖昧な職場です。例えば、データについて質問した時に漠然と「多い」「少ない」という答えが返ってくる場合はデータの把握が実にいい加減に行われています。語尾が「だったはず」「だと思う」などいちいち曖昧な場合もそうです。やはりこのような職場も管理が行き届いていない、そもそも上司が管理ということに目覚めていないということが言えます。
 だから、大げさではなく1時間くらい、現場をぶらぶらして観察し、働いている方に声をかけると、その職場の課題はだいたい把握できるものです。
 どんな細かい事象でも、その現場や人物を物語っているのです。

■若手社員の言動にアンテナを

 若手社員の育成にも同じことが言えます。現場の管理職、および人事担当者などに期待されるのは、若手社員の「何でもないようで、確実に危うい状態を表している」シグナルにアンテナを張ることです。中には、職場に関係ないこと、プライベートのことでも、業務に影響を与える場合があるので状況の把握に務めるべきです。



 例えば、経費の精算をやたらと細かい頻度で行う部下がいたら、「ひょっとしてお金に困っているのではないか?」ということを察するべきです。「まさか」と思うかもしれませんが、そういう人に限って、カードの支払いに追われていたり、キャッシングなどでお金を借りまくっているかもしれません。やや人を疑いすぎかもしれませんが、経費の着服などにつながる可能性だってあります。さらに言うならば、その手の行動に走ってしまうのは、職場のストレスからきていることもあるわけです。
 今の例は、やや極端な事例でしたが、普段の営業活動においても、語尾が明確ではない報告を繰り返している場合などは要注意です。ビジネス・スキルが高い状態とは言えないですし、一方で、物事を隠蔽する癖が定着してしまっているということも。
 業務中にやたらと携帯を持って廊下などに出てプライベートの電話をしている場合もそうです。単純に「もっと仕事に集中しろ」という話なのですが、この事象自体、何かプライベートで問題を抱えていないか、実は転職活動をしているのではないか……など、さまざまなことを物語っています。
 もちろん、職場の上司や人事がプライベートに介入しすぎてはいけませんが、会社外で陥っている状況によって仕事のパフォーマンスが落ちてしまったり、仕事での重大なミス、トラブルにつながってもよくないのです。

 では、どうすればいいか。管理職にしろ、人事担当者にしろ、相談しやすい雰囲気づくりは大事です。積極的に声をかける、面談を制度化するなどの工夫が必要でしょう。特に週に1回はミーティングかランチをするなどの工夫は地味なようで効果的です。
 細かい言動は何かの兆しです。スルーせずにウォッチしましょう。

 

常見陽平(つねみ ようへい)Profile
株式会社クオリティ・オブ・ライフ フェロー
HR総合調査研究所 客員研究員

北海道出身。一橋大学卒業後、株式会社リクルート入社。大手メーカーで新卒採用を担当後、株式会社クオリティ・オブ・ライフに参加。その後、退社し、フェローに。著書に『僕たちはガンダムのジムである』(ヴィレッジブックス)『「意識高い系」という病』(ベスト新書)『女子と就活』(白河桃子氏との共著 中公新書ラクレ)『「キャリアアップ」のバカヤロー』(講談社+α新書)『くたばれ!就職氷河期』(角川SSC新書)