2012年08月09日掲載

採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ - ケース5:二次面接・最終面接~人数の確保を優先して、合格基準を落としてしまうと…?


採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ(5)
中尾ゆうすけ(人材育成研究所 代表)

 今年初めて採用担当者となった、労政株式会社人事部で勤務する佐藤さん。前任者の急な退職により、右も左も分からないままスタートした採用活動でしたが、たくさんの失敗の中から自分なりのノウハウを蓄積してきました。現在、なんとか母集団形成から一次面接までを行い、応募者の絞り込みを進めている段階です。
 採用実務の現場から具体的なケース(事例)を切り取り、担当者を悩ませる原因となっている問題点を多角的に抽出した上で、その有効な対策を提示していく本連載。今回は、選考の最終段階に当たる二次面接最終面接を題材に、悩みどころの分析を行っていきます。

<ケース5>二次面接~最終面接

 今日もまた3人の面接をアレンジしています。 今年度の採用予定者数は、15人を予定しており、採用予定の職種は以下の通りです。
 ・技術職…………………………… 3人
 ・営業職……………………………10人
 ・企画職(人事・経理)………… 2人
 このような状況の中で、現在一次面接合格者は30人。理系学生と文系学生が半々です。
 佐藤さんの見込みでは、ここから少なくとも、二次面接で20人は合格し、最終面接では、少なくとも予定の15人は確保できると見込んでいます。
 まずまずの人数を確保できたことに、自分なりに合格点を出していました。

 そして、いよいよ二次面接が始まります。
 二次面接は、人事部長である高橋部長と、配属予定の部門長である陸田技術部長、海野営業部長、大空経理部長が職種別に面接を行うことになりました。

 面接予定日の2日前の朝、佐藤さんは、高橋部長に呼ばれました。

「佐藤君、明後日の面接資料だけど準備はできているかな?」
 ――はい、今準備中です
「いつごろになるかな?」
 ――今日中には用意します
「なるべく早く頼むよ。海野部長からもさっき、資料はまだか、と問い合わせがあったぞ」
 ――はっ、はい!!

 佐藤さんは急いで資料を集め、履歴書等の応募書類、適性検査の結果などを準備し、なんとか午前中に用意ができました。

 ――高橋部長、遅くなって申し訳ございません。こちらが二次面接のメンバーの資料です
「おっ、30人分全部かな……?」
 ――はい
「でも、肝心なものがないな」
 ――肝心なものですか……?

 佐藤さんは「何だろう?」と考えていると、ちょうど電話がかかってきました。

「佐藤さん、外線に中林さんという学生からお電話です!」
 ――あっ、はい!

 中林さんは先日の一次面接で好印象だった学生ですが、中林さんからの電話は、辞退の連絡でした。
 その後、翌日にも2人、当日になってさらに2人の辞退者が出てしまいました。結局30人いた二次面接者は25人となってしまいました。
 二次面接の合格者は15人、最終の役員面接でさらに辞退者が3人、不採用者が3人となり、結局最終面接の合格者は10人という結果となりました。計画人数を大幅にマイナスしている状態です。
 あわてた佐藤さんは、再度募集活動(母集団形成)から、一次面接の計画を始めました。

 今回のようなことがないよう、多少多めの人数を確保するために書類選考や一次面接の合格基準を下げることにしました。

<問題点>

問題-1 二次面接者への一次面接時における申し送りがない
 佐藤さんは、自ら行った一次面接の内容を二次面接官へ伝えるための資料を用意していませんでした。
 一次面接での内容を申し送り事項として二次面接官に伝えないことによって、同じ質問をしてしまうようなことになると、応募者・面接者ともに限られた時間をムダに使うことになります。

問題-2 学生の就活状況を把握していない
 佐藤さんは、学生の就活の状況を把握していませんでした。
 どのような会社を受験しているのか、面接の進み具合や、合格の可能性など何も把握していないため、単純に人数をそろえることで安心してしまいました。
 その結果、辞退者が続出してしまったことは、佐藤さんには想定外の出来事になってしまいました。

問題-3 合格者のレベルよりも人数を優先している
 佐藤さんは、人数確保するために、一次面接の合格水準を落とそうとしています。しかし、合格水準を落とすと、ムダな二次面接を行う必要が出てきてしまい、想定していたよりも工程がかさんで効率が落ちます。
 仮に最終面接まで合格して入社した場合、能力不足等による職場の不活性化、会社が求める人材像とのミスマッチ等のリスクもあります。

<対策>

対策-1
 二次面接以降は、一次面接等の情報をまとめ、次の面接官へきちんと伝えておく必要があります。
 その応募者は何が良くて何に注意が必要か? 一次面接で確認しきれなかったことや気になる点は何か? ――など、次の面接官へ申し送りをし、的確な人物判断ができるようにサポートするのも採用担当者の役目です。
 それによって、同じ内容の質問をしたりするムダもなくなり、限られた面接時間を人物評価のために有効に使うことができます。
 また、事前に他社の受験状況や、内定の取得の状況なども確認しておけば、役職者からの動機付けをすることも可能です(対策-2を行うことが前提)。

対策-2
 自社で採用したいと思う学生の就活の状況は把握しておくことが大事です

 自社以外にどのような会社を受験しているのか、選考はどの程度進んでいて、合格の可能性はどのくらいか? 内定は何社出ているのか?
 あるいは、競合している会社の採用スケジュールまで把握していると、今回のようなケースを避けるための対策が打てます。

 また、応募者の状況を具体的に把握することで、辞退の可能性まで想定できていれば、辞退が多くなりそうなときに次の母集団形成を早く始めることができます。
 大手企業が内定を出し始める5月以降になると、自社の求める人材レベルを満たす学生を母集団形成するのは遅くなればなるほど困難になっていくのです。

対策-3
 合格者のレベルは下げないことが重要です
。自社で求める人材レベルを確保するには、あらかじめ人数とレベルの優先順位を決めておく必要があります。
 特に昨今のように多くの企業で事業環境が厳しい中、求める人材レベルに満たない新入社員を抱えるのは企業にとって大きなリスクになります。
 もちろん、新入社員教育やOJTの仕組みが十分にあり、育成でカバーすることも可能です。それを踏まえて、合格のレベルを設定します。
 どのような知識や経験、行動や実績、人間性など数値や言葉で表せるものから、感覚的な部分(適性検査等で見ることができます)まで、自社の求める人材レベルを明確にしておくことが重要です。

中尾ゆうすけ Profile
人材育成研究所 代表
 技術・製造現場等を経験後、一部上場企業の人事屋として、人材開発、人材採用、各種制度設計などを手がける。理論や理屈だけではない、現場目線から「人材戦略」や「人材育成」の重要性とその方法を日々説いている。2003年より日本メンタルヘルス協会・衛藤信之氏に師事、公認カウンセラーとなり、コミュニケーションを中心と(または重視)した指導・育成は「成果につながる」と受講者やその上司からの信頼も厚い。その他、一般向けセミナーの実施、執筆・講演活動など、幅広く活躍中。
 著書に『欲しい人材を逃さない採用の教科書』『人材育成の教科書』(ともにこう書房)、『これだけ!OJT』(すばる舎リンケージ)などがあり、人事専門誌等への執筆、連載記事の執筆実績も豊富。