採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ(4)
中尾ゆうすけ(人材育成研究所 代表)
採用実務の現場から具体的なケース(事例)を切り取り、担当者を悩ませる原因となっている問題点を多角的に抽出した上で、その有効な対策を提示していく本連載。新任採用担当者、佐藤さんが行ってきた採用一次面接を例にとり、担当者として留意すべき勘所を確認してきました。
<ケース4>一次面接(人物像を引き出す質問とは)
前回に引き続き一次面接を行なう佐藤さん。前回は十分な準備をせずにたくさんの失敗をしてしまいました。しかし、失敗を重ねるうちに佐藤さんも少しずつですが面接スキルが上がってきたようです。
今日もまた3人の面接をアレンジしています。
~1人目~ 市川さんのケース
――先日受けていただいた適性検査の結果によれば、市川さんは、決断は早い方ですが慎重さに欠けるとありますが、実際はどうですか?
「そうですね、決断は早い方だと思います。かといって、判断を誤らないようにしたいと思いますので慎重さに欠けるとは思いません」
――それではもしも、目の前に山のような資料があり、それを基に判断を迫られた場合、回答を急がれたらどうしますか?
「そういう場合は一人の力では難しいので、仲間と協力して資料を確認し、決断をすると思います」
――なるほど、決断納期を守りつつ、その判断を誤らない方法をとるというわけですね。
「はい」
その後もさまざまな質問をしましたが、市川さんはなかなかしっかりとした考えを持っていると佐藤さんも好印象でした。
~2人目~町田さんのケース
――それでは町田さんが現在、もっとも関心のあることは何ですか?
「私はゼミで、環境について学んでいます。例えば、現在日本では割り箸(ばし)が年間250億本消費されています。これは全国民一人ひとりが、平日のランチで必ず1本使っているのと同じ量です。そのほとんどが中国からの輸入で、毎日毎日中国では森林伐採が行われ、たくさんの森林資源が失われています。その結果温暖化や黄砂などさまざまな影響が地球に出ています……」
――かなり具体的に研究されてますね。
「これから先、資源はどんどん失われ、将来地球がどうなるのか真剣に考えないといけないと思っています」
熱意ある町田さんの回答に専門外の佐藤さんはすっかり感心してしまいました。
~3人目~村山さんのケース
――村山さんが学生時代に得た成功体験は何ですか?
「はい、学園祭で行った喫茶店が大繁盛したことです」
――どのように成功したのですか?
「はい、最終的な利益が30万円以上になり、その後打ち上げを行ったときに、サークルメンバー全員分の費用が足りました。メンバーみんなで大成功の祝杯をあげました」
――30万円というのはすごいですね。
「他のサークルでは赤字のところもあり、周囲からも『すごい!』と言われました」
――何が良かったのだと思いますか?
「メンバーみんなが一丸となって一つのことに取り組んだことだと思います。お互いを尊重し、意見を否定せず議論を重ねた結果です」
――なるほど。
村山さんが見事なチームワークで得た学生時代の成功体験は社会でも使えそうだと、佐藤さんも好印象です。
佐藤さんは早速高橋部長に報告に行きました。すると……。
「君の報告だとみんな良い人材みたいだね。この調子だと、全員一次面接で合格してしまいそうだな……」
言われてみれば確かに……と佐藤さんはまた新たな悩みを抱えてしまいました。
<問題点>
問題-1 個人の考えかたや理想、未来の話を聞いても本当の姿は見えない
理想と現実は別です。机上の空論か、現実を見極めなければ、理論ばかりで行動が伴わない学生を高く評価してしまう可能性があります。
問題-2 何を学んだかよりも、それによって何をするかが重要
どんな学生でも、学んでいることは優秀です。ただし、その学んだことをどう生かすのか?――が重要です。インプットはできてもアウトプットができなければ、社会人としては通用しません。
問題-3 成果は誰の力なのかがあいまいで、ラッキーパンチの可能性もある
チーム活動の成功体験を語る学生は多いですが、本人がその中でどのような関わりを持っていたのかが重要です。他人の成果を自身の成果として話すケースもあります。
<対策>
対策-1
市川さんのケースの場合、考えではなく、行動を聞く必要があります。同様に未来の話ではなく、過去の話を聞くことがポイントです。
頭の良い学生ほど理想は高く立派な考えを披露しますが、行動が伴うかどうかは別です。このような評論家タイプは実際の仕事の中でアウトプットが出にくい可能性があります。
適性検査で、「大きな目標を持ち競争心も高い」と出ている一方で「じっとしてることを好む」という結果が出てくるような学生は、特に要注意です。
面接では「そのときどうしたのですか?」「なぜそうしたのですか?」など事実を確認していくことが必要です。
対策-2
インプットした情報を確認するのではなく、その情報から何をアウトプットしているかを確認する必要があります。
学校で学んでいる内容を聞く場合、たいていの学生はインプットされる情報のレベルは一定水準を超えています。ましてすでに書類選考を通過しているのであればなおさらです。面接官は、その情報に感心しているだけでは学生を正しく見極めることはできません。
面接では、応募書類に書かれていることの行間をいかに読み取るか(質問によって確認するか)が重要です。
例えば、町田さんのケースであれば、「それでは町田さんは日常生活の中でどのようなことを心がけ実践していますか?」という具合です。
それに対し「私はいつもマイ箸を携帯しています。家族にも持ってほしいと思い、父の誕生日にマイ箸をプレゼントしました」というような、自身のインプットに対するアウトプットがある学生は、仕事の中でもその実践力が生きてきます。
対策―3
チームの成果は必ずしも個人の成果とは限りません。「甲子園で優勝しました」と言っても、自分が野球部でなければその成果はまったく個人の評価とは別なのです。
何か誇れる実績があるのであれば、定量的に確認し、その中で自身の役割は何で、何をどのようにしたのか、そのプロセスと、行動や判断の根拠を確認することで、体験が事実なのか、どこまでが自身の体験なのかを明確になります。
例えば村山さんの場合、本人から「私たちの目標は利益20万円でした。そのためにコーヒー1杯を300円とした場合、原価を幾らに抑え、何杯売ればよいかなど目標を立てました。同じようにジュースやサンドイッチなども目標を立て、計画的に利益を上げられる仕組みを考えました。私はその中で原価の計算と材料調達における価格交渉を行いました。価格交渉のときは複数のお店を訪問し、根気よく交渉を続けた結果予定していた原価よりも安く抑えることができ、最終的な利益に大きく貢献しました。とても苦労はしましたが、その過程で得たものは……」
――これぐらい具体的な回答を引き出せるような質問ができると、その学生の人物像がかなり明確に見えてきます。
面接官は、「どのように利益を上げたのですか」「その中でどんな役割を担当しましたか」「どんな苦労がありましたか」「社会に出たときにどのように役立つことができますか」など学生を見極めるためにより具体的に質問をしていくことが重要です。もちろん答えられない学生は、残念ながら縁はなかったと不採用となるでしょう。
面接では、四つの「実」を確認していくことが大切です。四つの実とは、「事実」「現実」「誠実」「真実」です。
面接で話される内容は、往々にして「似実」(事実に似せたニセモノ)、「幻実」(現実から離れた理想)、「製実」(作られた話)であるケースが見受けられます。もし「おかしいな?」と感じたら具体的に確認しましょう。
「真実」を引き出す質問ができるか、できないかは面接官の力量次第というわけです。
中尾ゆうすけ Profile
人材育成研究所 代表
技術・製造現場等を経験後、一部上場企業の人事屋として、人材開発、人材採用、各種制度設計などを手がける。理論や理屈だけではない、現場目線から「人材戦略」や「人材育成」の重要性とその方法を日々説いている。2003年より日本メンタルヘルス協会・衛藤信之氏に師事、公認カウンセラーとなり、コミュニケーションを中心と(または重視)した指導・育成は「成果につながる」と受講者やその上司からの信頼も厚い。その他、一般向けセミナーの実施、執筆・講演活動など、幅広く活躍中。
著書に『欲しい人材を逃さない採用の教科書』『人材育成の教科書』(ともにこう書房)、『これだけ!OJT』(すばる舎リンケージ)などがあり、人事専門誌等への執筆、連載記事の執筆実績も豊富。