2012年05月15日掲載

採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ - ケース2:採用面接で「聞くべきこと」と「聞いてはいけないこと」


採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ(2)
中尾ゆうすけ(人材育成研究所 代表)
採用実務の現場から具体的なケース(事例)を切り取り、担当者を悩ませる原因となっている問題点を多角的に抽出した上で、その有効な対策を提示していく本連載。第2回となる今回は、一次面接でのやり取りを題材に、面接の基本的な留意点を見ていきます。
前回、試行錯誤しながらも何とか採用応募者を集め、書類選考を行ってきた佐藤さん。採用担当者として初めて新卒採用を任されていますが、前任者は十分な引き継ぎもないまま退職をしてしまったため、採用実務のノウハウに通じているわけではありません。そんな中、いよいよ一次面接が始まります。

<ケース2>一次面接(面接の基本)

 労政株式会社の人事部で勤務する入社5年目の佐藤さん。今年始めて採用担当者を任され、手探りながら地道な採用活動を続けた結果、100名の応募者の中から、書類選考を行い60名の採用候補者を選び出しました。
「さて、高橋部長からは、面接の人員を絞るように指示されていたな。もう少し絞らないと、面接官をお願いする幹部のスケジュールも押さえられないし……」
 考えた末に、佐藤さんは高橋部長の許可をもらい、一次面接を自ら行うことにしました。
 5月20日 いよいよ、佐藤さんの面接官としてのデビューです。この日は、初めてということもあり、自身がよく知っている職種である、人事部を希望する学生3名の面接をアレンジしました。

~1人目~
「A大学4年、陣住(ジンジュウ)留衣(ルイ)です。本日はよろしくお願いします!」
 明るく元気な好青年のようです。
 ――私は本日面接を担当します。人事部の佐藤です。よろしくお願いします。
   えーっと……“ジンジュウ”さんですね。珍しいお名前ですね。ご出身地はどちらなんですか?
 すると先ほどまで明るかったジンジュウさん、急に表情が曇り、小さな声で答えました。
「……○○県です」
 その後も、淡々と面接は行われましたが、最初の元気はどこに行ったのか、終始おとなしいまま面接は終わりました。佐藤さんは「ちょっと人事希望者としては物足りないなぁ」そう感じたのでした。

~2人目~
「B大学……よっ4年、中田です。あっ、すみません、中田裕美です。ほっほ……本日は、よっよろしくお願いします」
 どうやら中田さんはかなり緊張している様子です。
 ――私は本日面接を担当します。人事部の佐藤です。よろしくお願いします。
   それでは早速ですが、当社を希望する理由をお聞かせください。
「はっはい、御社は業界の中でも……」
 その後も、いくつかの質問をしましたが最後まで、ガチガチのまま、中田さんは本来の力を発揮できず、面接は終了してしまいました。佐藤さんは「全然、ダメだったな」そう感じたのでした。

~3人目~
「C大学4年、前川昌彦です。本日は、よろしくお願いします」
 ――はい、私は本日面接を担当します人事部の佐藤です。よろしくお願いします。
   まずは当社への志望動機をお聞かせください。
「はい、私は法学部で、労働法など中心に学んでおり、人事の仕事をしたいと思っています。御社の人事制度は業界の中でも独特のものがあると聞いており、非常に興味を持っております。
 また、技術や営業など、さまざまな人材が社内にいる中でどのような制度を考えたり、運用しているのかとても興味があり、希望いたしました」
 ――なるほど、では、学生時代にもっとも力を入れてきたことは何ですか?
「はい、コンビニエンスストアでのアルバイトです。そこでは仕入れから、品出し、接客など一通りのことを任せていただき、店長がいない時には店長代理として、数名のアルバイトをまとめる役割を任されていました」
 ――なるほど、では、サークル活動は……。
 その後もいくつかの質問に的確に答えた前川さん。佐藤さんの印象も非常に好印象です。

 面接終了後、佐藤さんは早速高橋部長に報告に行きました。
「前川さんはかなり良さそうです」
「ほう……どんな学生だったんだい?」履歴書等の資料を渡し、面接の様子を説明しました。―――佐藤さんが一通り説明すると高橋部長はこう言いました。
「おいおい、今の話は、履歴書やエントリーシートに書いてある通りじゃないか。そこに書かれていないことを聞きたいんだよ。それじゃあ本当に良い人材かどうか分からないじゃないか」
 そう言われて、佐藤さんは困ってしまい「すみません」と返すのがやっとでした。

 その翌日、佐藤さんは高橋部長に呼ばれました。
「おい、佐藤くん、昨日の面接のことと思われるようなことがネットに書き込まれているぞ」
佐藤さんはびっくりして就活サイトの掲示板を見ると、そこには……。

【面接で出身地を聞かれた。別にいいんだけど、ここの会社の人事担当者はなんとなく信用できないからもし面接受かっても辞退しようと思う】
【面接ダメだったぁ~(T_T) 緊張して何にも話せなかったorz 面接官の方は、緊張しているこちらにはおかまいなしに立て続けに質問してて、ちょっと怖かったかも(>_<) 第一志望だったので残念!】

 佐藤さんは、すぐに陣住さんと中田さんによる書き込みだと分かりましたが、いったい自分の何がいけなかったのか悩んでしまいました。

 まず、この事例から、三つの問題点を抽出してみましょう。

<問題点>

問題-1 出身地を確認している
 面接で出身地や戸籍を確認してはいけません。そのほかにも本人に責任のない事項や本来自由であるべき事項など、選考に直接関係ない情報の収集を行ってはいけません。

問題-2 緊張したままでは、本来の人材像の見極めはできない
 どんな学生でも面接は緊張するものです。緊張を和らげ、学生本来の力を引き出せるかも面接官の力量の一つです。

問題-3 一問一答形式で広く浅い質問では人物像は見えない
 ほとんどの学生は想定問答に対する回答を準備しています。広く浅い質問は、覚えてきた答えをきちんと言えるか、言えないかの確認になってしまい、学生の人材像は見極められません。

では、それぞれの問題点について、どのような対策を取ればよいのでしょうか。

<対策>

対策-1

 厚生労働省が「採用のためのチェックポイント~公正な採用選考について」という啓発冊子を作成しています(この内容は、記事下に示した厚生労働省HPでも読むことができます)。公正な採用を実現するためには、応募者の基本的人権を尊重した上で、本人が持つ能力、適性以外の事項を採用の条件としないことが必要です。選考に必要のない情報は確認しないようにしましょう。

≪本人に責任のない事項の把握≫
・本籍・出生地に関すること(「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることもこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境等に関すること

≪本来自由であるべき事項の把握≫
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合・学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること

 また、職業安定法に基づく指針(注)において、個人情報の収集をしてはならないものとして次のようなものを定めています。

・人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地そのほか、社会的差別の原因となるおそれのある事項
・思想および信条
・労働組合への加入状況

[注]「職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示等に関して適切に対処するための指針」(平11.11.17 労働省告示141 号)を参照。

対策-2

 最初はあいさつから始め、簡単な質問から入り、徐々に具体的な質問をするようにしましょう。簡単な質問とは「YES/NO」等で答えられるようないわゆるクローズドクエスチョンです。

 例えば、「緊張されてますか?」「はい」、「面接は何社目ですか?」「2社目です」――という具合に、簡単で答えやすい質問で、テンポ良くコミュニケーションがとれると緊張がほぐれてきます。
 また、学生は「緊張してはいけない」という感情を持っていますから、「緊張していても大丈夫ですよ」「みなさん緊張してますから安心してください」「一度深呼吸してみようか」――などと、緊張した相手を受容してあげると学生も安心して落ち着くことができます。
 入社した新入社員が毎日緊張したまま何も話せず、何年もたつということはあり得ません。一時の緊張で、その人の評価を決定してしまうと、良い人材を見落とす可能性があります。

 また、一般的に言われる「雑談から入る」というのは、手法としては有効な場合もありますが、限られた面接時間をムダに使うことになるので、お勧めはしません。ただし、雑談の中から有益な情報が得られるのであれば方法としては良いでしょう。例えば、「就活は順調ですか?」「はい、すでに内定を二ついただいています」など、雑談のようですが、実は重要な情報収集になるようなケースもあります。

対策-3

  面接資料は事前に読み込んで、学生の人物像はイメージしておきましょう。履歴書やエントリーシートの内容を確認すると同時に、その内容の真偽や、具体性を、質問しながら確認するようにします。特に志望動機などはしっかり台本を作りこんでくる学生が多いので、具体的に確認をしていきます。
 また、学生時代のエピソードはかなり美化されているケースや、自分の話ではないエピソードが語られる場合さえあります。「具体的にはどういうことですか?」「その時何をしたのですか?」「なぜそうしたのですか?」「その根拠は何だったのですか?」――このようにより具体的に掘り下げていくと、人物像が見えてきますし、作り話などはボロがでてきます。

 3人目の前川さんの例で言えば、「労働法のどのような点に興味を持っていますか?」「どのような問題意識を持っていますか?」「当社の人事制度が独特というのは他社とどう違うと認識していますか?」「店長代理としてアルバイトをどのようにまとめていましたか?」「その時一番苦労したのは何ですか?」「問題が起きた時にどのように解決していきましたか?」――等、これらの具体的質問の回答に対しさらに具体的に聞いていきます。
 浅く広く質問するよりも、狭く深く質問する方が人物像はより鮮明に見えてきます。

 このように、採用面接では「聞くべきこと」と「聞いてはいけないこと」をしっかりと認識しておく必要があります。次回も引き続き、採用面接をテーマに事例分析をしていきます。

・厚生労働省「採用のためのチェックポイント」
http://www2.mhlw.go.jp/topics/topics/saiyo/saiyo.htm

中尾ゆうすけ Profile
人材育成研究所 代表
 技術・製造現場等を経験後、一部上場企業の人事屋として、人材開発、人材採用、各種制度設計などを手がける。理論や理屈だけではない、現場目線から「人材戦略」や「人材育成」の重要性とその方法を日々説いている。2003年より日本メンタルヘルス協会・衛藤信之氏に師事、公認カウンセラーとなり、コミュニケーションを中心と(または重視)した指導・育成は「成果につながる」と受講者やその上司からの信頼も厚い。その他、一般向けセミナーの実施、執筆・講演活動など、幅広く活躍中。
 著書に『欲しい人材を逃さない採用の教科書』『人材育成の教科書』(ともにこう書房)、『これだけ!OJT』(すばる舎リンケージ)などがあり、人事専門誌等への執筆、連載記事の執筆実績も豊富。