2012年04月25日掲載

採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ - ケース1:100人の採用応募者から、面接への通過者を選ぶには


[新連載]採用実務の悩みどころ・多角分析ケーススタディ(1)
中尾ゆうすけ(人材育成研究所 代表)

 新卒採用の実務においては、さまざまな悩み、問題が日々発生していきます。近年の採用市場におけるルール、応募者や採用・広報手法、そして企業が求める人材要件など、状況は日々変わっていきます。
 そこで本連載では、採用実務の現場から具体的なケース(事例)を切り取り、担当者を悩ませる原因となっている問題点を多角的に抽出した上で、その具体的な対策を提示していきます。採用実務の進展を全般的に押さえ、基本レベルから応用までをカバーしていきます。
 第1回となる今回は、面接前の書類選考をテーマとしました。さまざまな就職ナビの進化によって、従来よりもまとまった数のエントリーを集めることができるようになりましたが、採用担当者にとっては、新たな悩みも発生しているようです。

<事例-1:書類選考>100人の採用応募者から、面接への通過者を選ぶには

 労政株式会社の人事部で勤務する入社5年目の佐藤さんは、昨年10月に上司から新卒採用の担当者に任命されたものの、採用という業務は未経験であり、それ以来悪戦苦闘の日々が続いている。
 実は前任者が、急遽(きゅうきょ)退職することになり、大まかなスケジュール感の引き継ぎはされたものの、具体的な実務においては十分な引き継ぎもないままであったのだ。幸い大手就職ナビの登録の準備まではしてあり、致命的な状態になることだけは避けられた。
 上司の高橋部長からは次のような指示があった。
 「まずは、しっかりと学生を集めて、来月からの面接ができるようにしておくこと」
 労政株式会社は業界では中堅ではあるが、学生からの知名度はほとんどない。佐藤さんは、エントリー者を集めることから苦労はしたが、就職ナビの営業担当者からの情報収集やアドバイス、各種セミナー等に参加し、少しずつ勉強をしていったことや、昨今の就職難もあり、4月時点で、会社説明会を実施し、なんとか100人の応募者を集めることができた。大手の採用活動が一段落する、5月の連休明けから、本格的に面接を始めていく予定だ。
 佐藤さんは、意気揚々と上司の高橋部長に「100名の応募者を集めましたので、面接をお願いしたいのですが……」と相談したところ――。
 「おい、おい、そんなに面接できる時間があるわけないだろう。書類の段階で優秀な人材だけに絞っておいてくれよ」
 佐藤さんは目の前にある履歴書とエントリーシートを眺めた。しかし会ってもいない学生の良し悪(あ)しを、どんな基準をもって判断すべきか、何人面接をするべきか……。悩んだまま時間ばかりが過ぎていった。

 まず、この事例から、三つの問題点を抽出してみましょう。

<問題点>

問題-1 ノウハウが組織に蓄積されていない
 採用のノウハウが個人(前任者)にあり、組織として蓄積されていなければ、退職や異動のたびに後任者が苦労することになります。

問題-2 採用人数が不明
 採用人数が計画されていなければ、何人面接をする必要があるのか? そのために応募者はどれぐらい必要か、さらには、母集団(エントリー数)がどれだけ必要か?
 計画が立てられなければ、「100人」というのが多いのか少ないのかさえ判断ができません。

問題-3 求める人材像が不明
 求める人材像がなければ、合否の判断ができません。これは面接だけではなく、書類選考においても同じです。
 では、それぞれの問題点について、どのような対策を取ればよいのでしょうか。

<対 策>

対策-1

 採用活動には年間の大まかなスケジュールがあります。2012年卒業の新卒採用までは、10月が、採用の開始時期であり、学生にとっては就職活動の開始時期でした。しかし経団連や大学側の要請もあり、2013年卒業の新卒採用からは、採用活動の開始時期が12月からとなり、より短期間での対応が必要になりました。
 12月から始まり、母集団を集め、会社説明をし、応募者から書類選考をし、面接等で最終決定するまでの一連の流れと時期を組織としてマニュアル化しておくことで、誰が採用担当者になっても「何から始めればよいのかわからない」ということは避けることができます。
 マニュアルの内容は、どのように行うのかだけではなく、何のために行うのか、何を基準に行うのかなど、いつ、どこで、誰が、なぜ、何を、どのようにして行うのか、いわゆる「5W1H」を押さえておくことが、組織としてのノウハウを蓄積することになります。

対策-2

 まず、採用人数は採用活動を始める段階で計画しておく必要があります。これは、採用活動を始める前ですから、10月~12月までには計画を立てたいところです。しかし、実際に入社するのはその翌々年の春ですから、環境変化の激しい時代に、そこまで人員計画を立てるのは難しい企業も少なくないのが実情です。この段階では、最終決定でなくとも、当面の計画で構いません。
 社内各部門の今後の事業展開(予測)、予算計画――などから、どれだけの人員が必要かを計画し、全社で、どのような人員を何名必要かを計画します。例えば、技術者を何人、営業を何人……という具合です。
 採用人数を決めたら、前年実績等を参考にして、そこから必要なエントリー数を逆算していきます。

 例えば採用人数10人で、選考は適性検査+面接3回とした場合、前年の合格率や参加率をもとに計算します。
 次のような条件を想定してみます(キャンセル率や辞退率をすべて含めて考えます)。

エントリーから会社説明会参加率   30%
会社説明会から、選考へ進む率    80%
適性検査合格率           30%
一次面接合格率           40%
二次面接合格率           50%
最終面接合格率           60%
10人÷(0.3×0.8×0.3×0.4×0.5×0.6)=1157人

 ――最低でもこれだけのエントリーが必要となります。また、当然ですが前年同様とは限りません。採用市場自体が「売り手市場」であるか「買い手市場」であるかなどは、景気にも大きく影響されます。余裕をもって母集団形成をするなら、2000人は欲しいところです。

対策-3

 「求める人材像」とは、選考の合否を決めるための判断基準です。それは、書類選考、論文、グループディスカッション、面接……どのような選考場面においても、共通の基準として決めておかなければ、選考者によって好き嫌いで決めてしまうことになりかねません。
 ただし、求める人材像は一律とは限りません。
 例えば、営業であれば、明るく元気で物おじせず前に進むタイプが必要かもしれませんが、研究者であれば、コツコツと失敗してもあきらめずに続ける忍耐力が必要かもしれません。事務職の中でも経理であれば数字に強い人材が必要ですし、人事や法務には法律知識が必要でしょう。求める人材像によって学生の学部学科も選考基準になるかもしれません。
 つまり、どのような人材をどのような基準で選考するかを決めた上で、選考を行うのです。これは、人材募集の段階から決めておくことで、募集の仕方も変わり、効率よく採用活動を進めることができるのです。

(第2回)以降は、面接をテーマに事例分析をしていきます。

中尾ゆうすけ Profile
人材育成研究所 代表
 技術・製造現場等を経験後、一部上場企業の人事屋として、人材開発、人材採用、各種制度設計などを手がける。理論や理屈だけではない、現場目線から「人材戦略」や「人材育成」の重要性とその方法を日々説いている。2003年より日本メンタルヘルス協会・衛藤信之氏に師事、公認カウンセラーとなり、コミュニケーションを中心と(または重視)した指導・育成は「成果につながる」と受講者やその上司からの信頼も厚い。その他、一般向けセミナーの実施、執筆・講演活動など、幅広く活躍中。
 著書に『欲しい人材を逃さない採用の教科書』『人材育成の教科書』(ともにこう書房)、『これだけ!OJT』(すばる舎リンケージ)などがあり、人事専門誌等への執筆、連載記事の執筆実績も豊富。