2012年03月01日掲載

人材育成の基礎知識 - 階層別教育と課題教育


 「階層別教育」と「課題教育」も、その内容を押さえておけば、教育企画を立てる際に幅が出てきます(図表29)
 大抵の企業では、給与水準と連動した等級を持っていると思いますが、階層別教育とは、そうした等級区分を利用して実施しようというタイプのものです。等級によって給与水準などの処遇上の差を設けるならば、等級ごとにその要求水準が違わなければなりません。その違いをよく理解してもらうのが、階層別教育の基本的なスタンスです。
 日本企業の等級には、等級ごとに要求したい内容にあわせて、主に「職能等級」「役割等級」「職務等級」の3つのタイプがあります。職能等級では、等級ごとに要求する職務遂行能力の水準を提示していますし、役割等級では等級ごとに要求される期待役割の水準を、職務等級では等級ごとに担当すべき職務の水準を提示しています。どれくらい丁寧にその内容を記しているかは各企業の事情によりますが、いずれにせ

よ、それなりの要求水準が書かれているわけです。

①認識ぞろえのためか、知識習得のためか
 階層別教育は、昇格時に行われることが比較的多いでしょう。いろいろな意味で新鮮な気持ちになれる昇格というタイミングに、これから求められる職務遂行能力や期待役割、職務などについての認識を統一する趣旨で行われます。昇格に伴い、今までよりも意識をさらに高く持って仕事に取り組んでほしいと、普通は期待したくなります。係長相当の等級であれば、これからは職場のリーダーとしてみんなのために頑張ってほしくなるわけですから、そういう期待を昇格者全員の共通認識とするために、階層別教育を実施することとなります。
 階層別教育の「階層」とは、等級区分ではない別の集団を示す意味でも使われます。
 課題教育とは、そのときどきのホットなテーマを取りあげて教育をしていくものです。新しく国際会計基準が導入されるのであれば、それを素材にし、中国ビジネスが今ホットだとなれば、それを取りあげて教育します。また、世の中の企業が大がかりな改革を進めているならば、自社でも行えないかと研究することもあります。課題解決手法の基礎的な教育は、ここでいう課題教育とは別もので、階層別教育や通信教育、場合によってはマネジメント研修で行います。課題教育は、もっとホットな最先端のテーマを取りあげる教育だと、ここでは定義します。
 そう考えると、もしこの課題教育を、企業側が選抜して行うのであれば、これは選抜教育の中に入っていきます。課題教育として一つのジャンルにしているのは、つまり、希望者に対して行う最先端のテーマを取りあげた教育だということです。本来は仕事にかかわり(もちろん、将来かかわるかもしれないと思う人でもかまいません)、研究してみたい人がその教育を受けるのが、課題教育です。
 階層ごとに求めるものをその階層にいる全員に共通認識させるのが階層別教育であるのに対して、課題教育は、最も関心の深い希望者に教育をするものです。ちなみに選抜教育は、企業が選抜した人に教育をするものですので、課題教育の対象者とは選び方が違います。選抜教育との対比でいえば、階層別教育は底上げ教育の一種だとみることもできます。
  階層別教育プログラムは人事部門が設定していることが多く、管理者の立場からすると、自分の部下を送り出せるように段取りするだけになりますが、教育の内容自体は自部署のマネジメントに重要な役割を果たすものです。
 他方、課題教育のプログラムについては、人事部門がかかわることはあまりないと考えたほうがよいでしょう。これは、管理者側が自らの仕事や人材育成からみた必要性を考えて特別に企画をするものであり、担当部署の業績確保や成長性の実現を目指すこととセットで考えるべきものです。こう考えると、企画に対する管理者側の問題意識も高いし、参加者の自発的な希望に基づく課題教育のほうが、階層別教育よりも盛りあがる傾向が大きいともいえます。

②自ら積極的に仕掛けていく
 私は、管理者の立場から積極的に課題教育を仕掛けてほしいと思っています。今の経営環境をどう見るかと、管理者として、いつも考えていると思いますが、そういう問題意識の延長線に、課題教育のテーマが見えてくるはずです。自分にとって一番興味のあるものが、課題教育のテーマとしても最もふさわしいものになります。自分もそういう気持ちで課題教育を企画してこそ、最先端の管理者でありつづけられるでしょう。
 もちろん、いろいろな予算的・時間的な制約があるでしょうが、それらは他部署との連携や巻き込みによって解決できる方法があると思います。課題教育を企画しようという気持ちは、必ず部署のメンバーにも伝わり、常にチャレンジしていこうという気持ちを盛り上げることができると確信しています。

 

この解説は『人材育成の教科書』より抜粋しました。高原 暢恭:著 A5 256頁 2,100円
(URL:https://www.rosei.jp/store/book/810



高原 暢恭(たかはら のぶやす)
株式会社日本能率協会コンサルティング
取締役 経営革新本部 本部長 シニア・コンサルタント
1955年生まれ。早稲田大学大学院(博士課程前期:労働法専修)修了。
HRM分野を専門とするコンサルタント。HRM分野にあっても、現地現物を自分の目で見て考えるという現場主義を貫くことを信条としている。
著作に、『人事評価の教科書』(労務行政)、『人事革新方法論序説』(JMAC)
『全社・部門別適正社員数決定マニュアル』(アーバンプロデュース)他。
また、「労政時報」にも賃金関係を中心に多数執筆。
http://www.jmac.co.jp/