浅野浩美 あさの ひろみ
開志創造大学大学院
事業創造研究科教授
1.AIを扱った「令和8年版 労働経済の分析」
2022年のChatGPTの公開などを契機に、生成AIは急速に注目を集めるようになった(総務省、2024)。AIに関しては、これまでも「雇用は減るのか」「どの仕事がなくなるのか」といった議論が繰り返されてきたが、キャリア支援の領域でも、AIをどのように活用できるのかが論じられるようになってきた。
厚生労働省の「令和8年版 労働経済の分析」(以下、白書)では、AIに焦点を当て、AIの利用が経済成長や労働市場に与える影響、AI時代における人材育成の課題について検討している。白書では、①AI投資と人的資本投資の双方を推進すること、②AIが雇用や労働需要に与える影響は職種などによって異なる可能性があること、③リ・スキリングのほか、論理的思考力、批判的思考力、コミュニケーション能力など特定の業務に限定されない「メタスキル」の重要性が高まる可能性があることなどを指摘している。
本稿では、こうした白書の議論を踏まえ、OECDやILOの報告書なども参照しつつ、AI時代のキャリア支援において、仕事の変化をタスク単位でどのように捉えるべきかを考えてみたい。
2.「雇用は減るのか」だけでなく「仕事の中身がどう変わるか」を見る
白書では、AIが雇用や労働需要に与える影響について、国内外の先行研究を整理している。そして、AIによって直ちに大きな雇用減少が生じているとはいえないが、職種や職務内容によって影響が異なる可能性があるとしている。
また、白書では、「AI曝露度」に関する先行研究についても取り上げている。AI曝露度とは「特定の職務内容や個人のスキルがAI技術によって代替又は補完される可能性の度合い」のことである。具体的には、翻訳者や事務員、秘書などで高い一方、身体作業への依存度が高い職業では低いなど、職種によって異なることが示されている。また、米国ではAI曝露度が高い職業の雇用が減少している一方、デンマークでは明確な雇用減少が確認されていないことや、若年層では減少している一方で、50歳超では増加しているといった分析結果も紹介されている。
このように、白書では、主に雇用の量や労働需要への影響をめぐる文脈でAI曝露度に関する研究を紹介している。しかし、AI曝露度には「代替」の可能性だけでなく、「補完」の可能性も含まれる。こう考えると、雇用が減るかどうかだけでなく、どのような職務内容やスキルがAIの影響を受けやすいのかにも目を向ける必要がある。そのためには、翻訳者、事務員、秘書といった職業名だけで捉えるのではなく、それぞれの仕事を構成するタスクに着目することが求められる。
3.AIの影響をタスクで見る——OECDとILOの報告書から
AIの影響を仕事の中身から考える上で参考となるのが、OECDやILOの報告書である。
「OECD Employment Outlook 2023」によれば、AI曝露度は専門職や高学歴・高技能の職業で高い一方、AIの影響は従来の技術革新で想定されやすかった定型的・低技能の仕事にとどまらず、ほぼすべての産業・職業に波及する可能性があるとされている。また、AI曝露度が高いことが直ちに雇用の減少に結びつくわけではない。AIは一部のタスクを自動化する一方で、ほかのタスクを補完し、さらには新たなタスクを生み出す可能性もあるという。
ILOの研究員であるPawel Gmyrekらによる報告書では、職業を単一の塊として捉えるのではなく、「タスクの集合体」として捉え、生成AI曝露度を算出している。具体的には、職業を構成する個々のタスクレベルのデータに、専門家の見解やAIモデルによる予測を組み合わせ、生成AIへの曝露度を職業ごとに段階的に分類している。また、同報告書では、仕事全体がAIに代替されるのではなく、一部のタスクが自動化されることによって人間の業務内容が再編・補完される「仕事の変容」こそが、最も一般的な影響である可能性が高いと指摘している。
OECDの報告書は、AIの影響が幅広い職業に及び、タスクやスキルの変化として現れることを示している。一方、ILOの報告書は、生成AIへの曝露をタスクレベルのデータを基に職業ごとの曝露度を分類している。両者を併せて読むと、AIによる仕事の変化を考えるには、職業名だけでなく、その職業に含まれるタスクを見ることが欠かせないことが分かる。
[図表1]AIによる仕事の変化に関する文献・ツール
| 文献・ツール | 位置づけ、本稿で着目した点など |
| 令和8年版 労働経済の分析 | AIが雇用や労働需要に与える影響、AI時代における人材育成の課題を整理 ——労働者の希望に応じた労働移動やリ・スキリング支援、メタスキルの重要性などを提示 |
| OECD Employment Outlook 2023 | AIは雇用量だけでなく、仕事の組織化、タスク、必要とされるスキルをも変えることを提示 ——職業名ではなく、タスクやスキルの変化に着目する視点を提示 |
| ILO Working Paper 140 | 生成AIへの曝露度をタスクレベルで測定、分類 ——同一の職業でも、タスクによって影響の受け方が異なる可能性を提示 |
| 職業情報提供サイトjob tag | 職業ごとの仕事内容、タスク、スキルを見える化 ——実際にタスクを確認するための情報を提供 |
資料出所:上記文献・ツールを基に筆者作成
4.「job tag」で職務・タスク・スキルを見える化する
では、どうすれば、職業に含まれるタスクを確認することができるのだろうか。
そこで役立つのが、本連載でも何度か取り上げたことのある厚生労働省の「職業情報提供サイトjob tag」(以下、「job tag」)である。同サイトでは、550を超える職業について、「ジョブ」(職業、仕事)、「タスク」(仕事の内容を細かく分解したもの、作業)、「スキル」(仕事をするのに必要な技術・技能)などの観点から職業情報を「見える化」している。[図表2]は、それらのうち「秘書」のタスクの一部を示したものである。
[図表2]「job tag」に掲載されているタスクの例(「秘書」のタスクの一部)
資料出所:厚生労働省「職業情報提供サイトjob tag」より一部を掲載
これを見ると、タスクが細かな作業のレベルまで具体的に示されていることが分かる。とはいえ、同サイトに掲載されているタスクは、各職業に一般的に含まれる業務を整理したものであり、実際の内容は企業や職場によって異なる。例えば、同じ「秘書」であっても、スケジュール調整や来客対応が中心の場合もあれば、海外対応、資料作成、社内外の調整が大きな割合を占める場合もある。このため、「job tag」の情報をそのまま当てはめるのではなく、本人が実際に行っているタスクと照らし合わせながら、どのタスクを担っているのか、どのタスクが重要なのか、さらにはどのタスクの進め方が変化しつつあるのかを確認していくことが求められる。
5.AI時代のキャリア支援に求められること
今やAIは、職場においてごく身近なものとなりつつあり、AIを用いた生産性向上も求められている。こうしたAI時代において、人事パーソンやキャリアコンサルタントには、AIによる仕事の変化を考慮に入れた上で、従業員の人材育成やキャリア支援を行うことが求められる。
白書は、AI時代においては、労働者の希望に応じた労働移動やリ・スキリング支援、さらにメタスキルの向上が重要になると指摘している。しかし、単に「リ・スキリングが必要」「学び直しが必要」と唱えるだけでは、何を学べばよいのかが分からず、実際の学びにはつながりにくい。まずは本人の仕事を構成するタスクを確認し、どのタスクの進め方が変わりつつあるのか、どの経験を生かせるのか、何を新たに学ぶ必要があるのかを整理することが必要になる。AI時代のキャリア支援には、「job tag」なども活用しながら、仕事の変化と学び直しとを結び付け、本人が自らのキャリアについて具体的に考えられるよう支援することが求められる。
【参考文献】
・厚生労働省(2026)「令和8年版 労働経済の分析——AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題——」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/26/26-1.html
・総務省(2024)「令和6年版 情報通信白書」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r06/pdf/index.html
・OECD (2023) OECD Employment Outlook 2023: Artificial Intelligence and the Labour Market. Paris: OECD Publishing.
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-employment-outlook-2023_08785bba-en.html
・Gmyrek, P., Berg, J., Kamiński, K., Konopczyński, F., Ładna, A., Nafradi, B., Rosłaniec, K., & Troszyński, M. (2025). Generative AI and Jobs: A Refined Global Index of Occupational Exposure. ILO Working Paper 140. Geneva: International Labour Organization.
https://www.ilo.org/sites/default/files/2025-05/WP140_web.pdf
・厚生労働省「職業情報提供サイト job tag」
https://shigoto.mhlw.go.jp/User
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浅野浩美 あさの ひろみ 開志創造大学大学院 事業創造研究科教授 厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。 社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリア・カウンセリング学会副会長、日本キャリアデザイン学会会長、人材育成学会常任理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師など。 専門は、人的資源管理論、キャリア論。 |
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