2026年08月12日掲載

生成AIを駆使した人材ポートフォリオの戦略活用 - 第2回 生成AIが影響を及ぼす業務ポートフォリオと人材への影響

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
高田健太郎

 生成AIは、業務プロセスや人が担う役割を根本から変えつつある。その適用領域は、定型業務の自動化にとどまらず、対人業務の協働支援、専門業務の高度化へと拡大している。生成AIによる「業務ポートフォリオ」の変化は、「人材ポートフォリオ」にどのような影響を及ぼすのだろうか。

1.生成AIの業務への影響と人材ポートフォリオとの関係性

 第1回や『企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略』(労務行政)でも触れているように、人材ポートフォリオは、事業戦略に必要な「業務ポートフォリオ」をイメージした上で検討することが望ましい。事業戦略から直接人材について考えると、抽象的な議論にとどまりやすいためである。業務や職務を経由することで、戦略は初めて「どのようなスキル・志向・経験を持った人材がどれくらい必要か」という要件に落とし込まれるのである。この枠組みにおいて、生成AIは二つの重要な影響をもたらしている[図表1]

[図表1]生成AIの影響

図表1

 一つ目は、「事業戦略」への影響である(影響①)。急速に進化するAIは、業務効率化や協働のツールにとどまらず、新たなサービス・事業の創出をもたらす変革の手段として捉える必要がある。企業が生成AIを活用した新たな事業創出に取り組む上では、AIテクノロジーに関する知見と、新規事業の立ち上げに必要なスキル・志向性を併せ持つ高度な人材のニーズが高まる。現時点では一部の産業に限定されているが、今後はさらに適用範囲が広がっていくことが想定される。
 二つ目は、「業務ポートフォリオ」への直接的な影響である(影響②)。生成AIの進化により、業務プロセスや人の役割が急速に変化しており、多くの組織が実感しているのはこの影響である。定型業務が生成AIに代替され、人は対人業務や専門業務に重心を移していく。それらの業務において、人は生成AIと協働しながら、関係構築や判断をはじめとする「人にしかできない」業務に集中していく。業務の性質によって生成AIの影響は異なり、それによって各業務に必要な人材の「質」や「量」が変わっていくのである。結果として、人間特有の価値が発揮できるスキルの重要性が高まっていく。
 本稿では影響②の業務ポートフォリオの変化に焦点を当て、それが人材ポートフォリオにどのような再構築を迫るのかについて論じていく。

2.人とAIの協働による業務ポートフォリオの変化

 生成AIによって業務ポートフォリオはどのように変化するのか。生成AIの業務への影響を考えるに当たって、標準化・ルール化された業務を中心とした「定型業務」、営業活動をはじめとする対人関係構築を伴う「関係性業務」、専門知識や企画力を必要とする「専門業務」の三つに業務を分類すると分かりやすい[図表2]

[図表2]生成AIのもたらす業務ポートフォリオの変化

図表2

 [図表2]は、生成AIによって、この定型業務・関係性業務・専門業務の三つから構成される業務ポートフォリオがどのように変化するかを示している。従来、人的リソースを多く消費していた定型業務が、AIによって高速で処理されることで、生産性は大幅に向上する。それに伴い、組織全体の業務の重心を定型業務から専門業務・関係性業務へとシフトさせることが可能となる。各業務の特徴と生成AIによる変化をもう少し詳しく見ていこう。

① 定型業務:定型的なデータ処理、報告書作成、問い合わせの1次対応など、ルールベースで反復性の高い業務群

 この領域はAIの最も得意な領域であるため、大規模な役割の代替が進む。判断を必要としない定型業務は真っ先に人からAIに代替される。また、AIエージェントの活用により、契約書の1次レビューや与信・採用書類のスクリーニング、コンプライアンスチェックといった、従来は人の判断が必要とされた業務までAIが代替しつつある。業務の主体は人からAIへと移り、人の役割はAIの出力検証や例外処理へと再編される。この転換によって生じる人的リソースは、より高度な業務領域へ活用される可能性が広がる。

② 関係性業務:営業、カスタマーサクセス、社内調整など、対人関係や文脈理解を伴う業務群

 この領域では、相手の感情・潜在ニーズをくみ取る、信頼関係を構築するといった「人にしかできないこと」が求められるため、AIへの代替が進みにくい。一見すると人間の独壇場に思える領域ではあるものの、AIとの「協働」は進んでいくことが想定される。AIが顧客情報の集約、トークスクリプトの生成、ネクストアクションの提案などを担うことで、人の業務の重心は顧客との関係構築や合意形成などの領域に寄る。これによって人は、顧客への寄り添い、創造的な提案といった高付加価値業務に集中することが可能になる。今後、関係性業務の人材需要は高まり、定型業務から配置転換される人材の主要な受け皿となる。

③ 専門業務:研究開発、戦略策定、クリエイティブ領域など、高度な専門性と発想力を要する業務群

 この領域ではAIは人間の代替ではなく、業務の生産性とアウトプットの到達点を飛躍的に押し上げるパートナーとなる。人間が問いを設定し、AIが情報収集・分析・アイデア出しといった基礎作業を担当した上で、それらを人間が創造・判断につなげるという協働を行う。それにより人間は膨大な作業を行うことなく、その上澄みを活用するスマートな働き方ができるのである。
 例えば、製造業の材料設計では、AIが膨大な材料組成パターンを高速で解析し、従来の経験則では発見できなかった新しい材料特性を見つけ出すことで、設計の到達点そのものが飛躍的に向上した。マーケティング戦略では、AIによる消費者データの分析結果を基に、戦略立案を担う人間が創意工夫を加えることで、 より革新的な戦略が生まれている。このように、AIが可能性の拡張を担当し、人が創造と判断を担当することで、業務そのもののレベルが底上げされるのである。
 注目すべき点は、関係性業務・専門業務のいずれも「人とAIの協働」によって行われるという点である。つまり、AIという新たなワークフォースの加入により、業務ポートフォリオの「担い手」が根本的に再編される。人とAIの協働体制が機能することにより、限られた人的リソースでも、より高度な業務ポートフォリオに取り組める組織へと進化できるのである。

3.人とAIの役割分担

 このような業務ポートフォリオの転換を実現するには、各業務領域において人とAIの役割を明確に設計する必要がある。単にAIを導入するだけでなく、業務本来の目的に立ち返り、AIが担うべき機能と人が担うべき機能を明確に切り分けることが重要である。
 まずは、業務推進における人とAIの役割分担の基本方針(ポリシー)を明確にすることから始める。AIは情報収集、データ整理、初期分析、アイデア出しといった「処理・拡張」機能を担当する。一方、人は意思決定、倫理判断、顧客との関係構築といった「判断・対人」機能に集中する。この分業により、人は時間のかかるデータ処理作業から解放され、価値創造に傾注できるようになる。
 次に、この役割分担のポリシーを踏まえながら、業務のプロセスごとに機能を整理することが必要となる。営業活動を例に取れば、顧客データ分析、見込み客のスクリーニング、初期提案資料の作成はAIが主導する。一方、顧客との信頼構築、複雑な交渉、最終的な契約判断は人が主導する。業務全体を俯瞰(ふかん)し、「どの段階でAIが有用な情報や案を提供し、どの段階で人間の判断を介在させるか」を整理することで、人とAIのそれぞれの強みを生かした効率的なリソース配分が可能となる。
 なお、このプロセスを通じて、「人にしかできないこと」が改めて明確になる。具体的には、AIの出力を批判的に吟味する力、データと直感を組み合わせて複数の選択肢から戦略的判断を下す力、倫理的な懸念に対する対応力、そして顧客や組織内のステークホルダーとの信頼関係構築、創造的な問いを設定する力などである。これらは決してAIが代替できない人間固有の領域であり、このようなスキルを人材ポートフォリオの要件に盛り込んだ上で、計画的に人材を確保・育成していくことが今後ますます重要になるだろう。

4.人材ポートフォリオの再構築:三つの人材シフトの方向性

 生成AIによる業務ポートフォリオの変容に対応するために、人材ポートフォリオをどう再構築すべきか。この問いに答えるため、「専門性」と「ヒトの関係性」という二つの軸で整理すると、転換の方向性が浮かび上がる[図表3]

[図表3]生成AIによる人材リソースシフト

図表3

出発点:AIによる定型業務省人化の加速
 まず、[図表3]の左下の象限0にある、「専門性」と「ヒトの関係性」がともに低い「定型業務」では、AIによる省人化を加速させ、最少人員数で対応できる体制を構築することが出発点となる。そして、ここで創出された余剰リソースを、「専門性」「ヒトとの関係性」のいずれかまたは両軸において、より高度な領域へと戦略的にシフトさせていくことが人材ポートフォリオ再構築のポイントとなる。それでは、以下に、この三つの人材シフトの方向性について、それぞれ詳しく見ていこう。

第1の方向:人ならではの価値が生きる「関係性業務」へのシフト
 一つ目は、[図表3]の右下の象限❶に該当する、とりわけ「ヒトの関係性」が求められる業務へのシフトである。顧客接点を担う営業・販売領域や、人的動作が求められる製造・物流現場などは、人ならではの価値が生きる一方で人員が不足している。また、定型業務に従事していた人材にとっても、リスキルのハードルが比較的低いため、人材の配置転換の有力な候補となる。ある大手金融機関では、本部人材を数千人の規模で営業部門へシフトする方針を打ち出した。AIによる生産性向上を「コスト削減のリストラ」ではなく「顧客接点を強化する攻めの再配置」と位置づけ、全社的に取り組みを推進しているのである。

第2の方向:AIの支援による「従来機能の強化」
 二つ目は、[図表3]の右上の象限❷に該当する、「専門性」と「ヒトの関係性」のいずれも求められる企画業務領域へのシフトである。市場環境の不確実性が増し、顧客ニーズが複雑化する中で、戦略的業務や新規企画業務の人材ニーズは高まっている。AIとの協働で生産性が向上する分を差し引いても、これまで手が回らなかった戦略的業務へ人を重点的に配置し、組織機能の強化を図りたいと考える企業は多い。しかし、人材リソースシフトの観点から考えると、定型業務に従事してきた人材にとって、企画業務に求められるスキルやマインドセットへの転換はハードルが高い。企業は、採用する人材層の見直しや、ポテンシャルのある人材に対する丁寧な育成プログラムなどを通じ、中長期的かつ戦略的に人材シフトを進めていかなければならない。

第3の方向:「新たな業務領域」へのアプローチ
 最後は、[図表3]の左上の象限❸に該当する業務の中で、特に、AI時代に新たに生まれる専門業務について触れておきたい。AIの登場により、AIを組織に最適化して実装し、効果を測定し、継続的に改善していくといった従来の組織図に存在しなかった業務が生まれる。この新たな業務領域では、AI技術に関する知見に加えて、業務知識、倫理的判断といった複合的で高度な専門性を備えた人材が不可欠となる。この領域では、社内からの人材シフトや社外からの獲得はいずれも難易度が高いため、外部ベンダー人材との組み合わせ、先駆者人材の採用を通じた社内ナレッジの蓄積、そして社内の既存人材の段階的育成といった、多角的な人材調達の工夫が求められる。

 なお、ここで示した三つの人材シフトは、いずれも高い専門性やスキルの習得、マインドセットの転換が求められるため、実行の難易度は高い。いずれにも転換が困難な人材については、社外への転身支援を含めた柔軟な対応が求められる。無理に社内転換を行うよりも、社外で本人が活躍できる環境を見つけるほうが、本人にとっても望ましいキャリアになるケースもある。企業には、このように個人の適性や志向性に応じた複数の選択肢を組織的に設計する力も求められる。

5.戦略的な人材リソースシフトの方向性の意思決定が必要

 第1回で述べたように、雇用規制の厳しい日本において、企業はこれら三つの選択肢を含め、どの方向に人材をシフトさせていくかを戦略的に意思決定した上で、シフトのために必要な施策や投資を計画的に実行していくことが重要となる。
 現時点では、生成AIがもたらす業務・人材への影響への対応について、現場レベルで試行錯誤を続けており、組織としての統一的な方針を打ち出せていない企業が多い。しかし、生成AIが及ぼす影響の大きさや、人材シフトの難易度を踏まえると、やみくもに効率化や配置転換を進めるのではなく、目指すべき姿から逆算し、人材の調達・育成・再配置を一体となって進めていく「人材ポートフォリオ・マネジメント」が重要となる。
 その本質は、AI時代において「人にしかできないこと」を改めて定義し、そこに組織の人的リソースを段階的かつ統合的にシフトさせることにある。定型業務から企画業務・関係性業務への転換、AIとの協働による機能強化、新領域での人材確保——これらはいずれも、組織が今後目指すべき人材の「質」と「量」を先に定義して、初めて戦略的に進められる。また、AI技術が驚異的なスピードで進化していることを踏まえると、人の担う役割や、目指す人材の「質」と「量」は、一度定義して終わりではなく、常に更新し続けながら、取り組みを推進していくことが不可欠となる。

 今回は、生成AIが業務ポートフォリオに与える影響と、人材リソースシフトの方向性について論じてきた。次回は、この変革を実行に移すために不可欠となる「リーダーシップ」と「組織文化」の在り方について論じる。

プロフィール写真 高田健太郎 たかだ けんたろう
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
事業会社人事部門を経て現職。組織・人事領域のコンサルタントとして、組織・人材戦略策定、人材ポートフォリオ・マネジメント構築、人事諸制度改革、人事部門変革、サクセッションマネジメント体系構築、各種トレーニング企画・運営など企業のさまざまな局面における変革・課題解決を支援している。執筆記事に「ジョブ型人材マネジメントサーベイ2022」(『月刊人事マネジメント』2023年7月)、「事業戦略をドライブする『ジョブ型3.0』への進化」(PwC調査レポート、2023年)がある。共著として『企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略』(労務行政、2025年)を執筆。