2026年07月30日掲載

生成AIを駆使した人材ポートフォリオの戦略活用 - 第1回 生成AI時代における日本企業の現在地

PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
加藤守和

 生成AIは、企業の業務プロセスを根本から変革する可能性を秘めている。では、その甚大なインパクトを見据えて人材ポートフォリオを戦略的・能動的に組み替える準備ができている日本企業は、どれほど存在するだろうか。

1.生成AIが人材ポートフォリオに与えるインパクト

 生成AIは、今世紀における最大級の技術革新の一つである。その影響は、企業の生産性向上から個人の成長や働き方、さらには雇用の在り方に至るまで多岐にわたる。企業を取り巻く環境は急速に変化しており、この変化への対応の巧拙が、10年後の企業の明暗を大きく分けることになるだろう。
 一方、人材ポートフォリオとは、経営戦略や事業戦略を実現するために必要な「人材の最適な組み合わせ(質×量)」を指す。将来的に求められる人材像や要件を定義し、現状とのギャップを可視化した上で、それを埋めるために採用、育成、配置、定着、代謝などの人材マネジメント施策を戦略的に講じていく。これにより、戦略遂行に必要な人材を質・量の両面から充足させていくのである。
 生成AIという技術革新は、従来のオペレーションモデルや業務プロセスを大きく変える可能性を秘めている。単純作業の多くは既にAIへの代替が進み、また自律的な判断を要する高度な業務もAIにシフトしつつある。その進化のスピードは極めて速く、AIの能力は指数関数的に向上している。
 2025年6月に『企業変革を実現する人材ポートフォリオ・マネジメント戦略』(労務行政)を共著で出版した。当時は生成AIの影響は限定的であったが、その後、生成AIが企業に与える影響は急速に拡大し、われわれの元へ寄せられる問い合わせや議論も増加している。
 本連載では、先の書籍で詳述しきれなかった「生成AIが人材ポートフォリオに与える影響」と、その「具体的な対応方針」について最新の動向を踏まえて解説する。

2.従業員のAI活用は「二極化」が進行中

 まず、日本国内における生成AIの利用状況を確認する。
 PwCの「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2025」(2025年7~8月に調査実施)によると、生成AIを「毎日使用する」従業員の割合は、グローバル平均が14%であるのに対して、日本は6%にとどまっている。つまり、日本では約16人に1人しか日常的に生成AIを使いこなしていないのが現状である。「週に1回使用する」という利用者まで対象を広げても、グローバル平均32%に対して、日本は19%にすぎない。本連載の公開時点(2026年7月)では、活用率はさらに向上していると推察されるが、それでも日本企業における生成AI活用は出遅れていると言わざるを得ない[図表1]

[図表1]過去1年間におけるAIの活用度

図表1

[注]「あまり使用しない」には、「1回」「数回」「月に1回程度」と回答した人を含む。「分からない」という回答は除外している

資料出所:PwC「グローバル従業員意識/職場環境調査『希望と不安』2025」(2025年7~8月)を基に筆者が編集([図表2]も同じ)

<調査概要>

2025年7月7日から8月18日まで、48の国と地域、28の業種にわたる4万9843人の従業員(2060人の日本の従業員を含む)を対象に調査を実施。
本調査の数値は、各国または地域の労働人口の性別と年齢の分布に比例して重み付けされており、従業員の意見がすべての主要地域にわたって広く代表されることが保証されている。

 一方で、生成AIを日常的に活用しているアクティブユーザーに尋ねた効果実感はおおむね肯定的で、生産性や創造性、仕事の質の向上を実感している。特に利用頻度の高い従業員ほど、その効果を強く感じており、日常的に生成AIを活用している従業員の80~90%が、生産性および仕事の質の向上を実感している。そして、今後3年間でさらなる向上を期待しており、彼らにとって生成AIは一時的な流行ではなく、仕事の在り方を根本から変革する不可欠な存在と捉えていることが分かる[図表2]

[図表2]過去1年間および今後3年間におけるAI活用のインパクト

図表2

[注]「あまり使用しない」には、「1回」「数回」「月に1回程度」と回答した人を含む。「分からない」という回答は除外している

 これらの結果を踏まえると、日本企業内では「生成AI活用の二極化」が進んでいると推察される。19%のアクティブユーザーが存在する一方で、残る81%が非アクティブユーザーである。アクティブユーザーは試行錯誤を繰り返し、実践的な知見を急速に蓄積しているが、非アクティブユーザーはそうした体験の機会すら逸しており、両者の差は広がる一方である。
 さらに、生成AIの次の段階として注目される「AIエージェント」(特定の専門領域で自律的に判断し、タスクを実行するAI)を使用する先進的ユーザーは、グローバル平均が6%なのに対し、日本ではわすか2%にとどまる。生成AIを「使いこなす」層は、日進月歩の技術進歩をキャッチアップしながら、さらに先へと進み続けている状況にある。

3.活用度は高くとも効果実感が低い日本企業

 ここまでは「個人(従業員)」視点であったが、「組織(企業)」視点で見ると、異なる状況が浮かび上がる。
 PwC Japanグループの「生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較」(2025年2~3月に5カ国で実施)では、生成AIの企画・導入に携わる課長職以上の管理職を対象に、企業における生成AIの活用度と効果実感を比較している[図表3]

[図表3]5カ国における生成AIの企業活用度と効果実感の比較

図表3

効果が期待以上の企業の割合:生成AIを「既に活用している」を選択した企業のうち、生成AIの効果が「期待を大きく上回っている」「期待どおりの効果があった」と回答した割合
生成AIを活用している企業の割合:生成AIの推進度合いとして「社外向けの生成AI活用サービスを提供している」「社内業務等で生成AIを活用している」と回答した割合
円の大きさ:生成AIを「既に活用している」を選択した企業のうち、生成AIの効果が「期待を大きく上回っている」と回答した割合

資料出所:PwC Japanグループ「生成AIに関する実態調査 2025春 5カ国比較」

<調査概要>
 調査時期:2025年2~3月
 回答者数:日本945人、米国670人、中国512人、英国412人、ドイツ103人
 調査条件

各国の企業・組織に所属する従業員

売上高500億円(日本円換算)以上

課長職以上

AI導入に対して何らかの関与がある人物(意思決定、企画検討など)

 調査結果によると、各国のアプローチに明確な差がある。
 中国は、政府主導のガイドラインの下、積極的かつ迅速にAI導入を進め、高い効果を上げている。米国や英国は、中国ほどの導入スピードではないものの、社外向けサービスの活用で先行しており、具体的なユースケースの横展開や業務統合、ガバナンス体制の整備で高い成果を上げている。ドイツは慎重な姿勢を維持しつつも、投資対効果の高い領域を選定・集中することで、米英と同水準の効果を実現している。
 一方、日本の活用度はグローバル平均と同程度ではあるものの、効果実感が著しく低い。すなわち、「使ってはいるが、使いこなせていない」のが実態といえる。

4.企業の取り組み姿勢が効果の差を生む

 AI活用を組織に浸透させるアプローチには、「トップダウン型」と「ボトムアップ型」の二つがある。トップダウン型は、中期経営計画や組織目標にAI活用を組み込み、経営主導で全社的に推進するアプローチである。一方、ボトムアップ型は、現場従業員の創意工夫や自発的な取り組みを起点に活用を広げていくアプローチである。
 前記調査で、効果が「期待を大きく上回っている」と回答した先進企業を分析すると、以下の特徴があることが判明した。

高い目的意識
生成AIを単なる業務効率化の手段ではなく、事業構造や業界変革の機会として捉えている

強固な推進体制
経営トップが直接関与し、CAIO(Chief AI Officer:最高AI責任者)を設置するなど、責任と権限を明確にした体制を整えている

業務プロセスの再設計
AIを既存業務の補完にとどめず、「業務プロセスそのものの再構築(BPR)」や「新規事業創出」に活用している

活用基盤の整備
最新のユースケースの収集・共有、AI活用を前提としたガバナンス体制の整備、得られた成果を従業員へ積極的に還元する仕組みを備えている

 これらはいずれもトップダウン型アプローチの特徴であり、企業が組織としてAI活用に本気で取り組む姿勢が効果の差を生んでいることが分かる。例えば、効果が期待未満にとどまっている企業では、業務におけるAI利用の判断が「現場の従業員個人の裁量」に委ねられていることが多い。一方で、効果が期待を大きく上回る企業では、会社がAI活用を標準の業務プロセスとして組み込んでいる。具体的には、「契約書作成時には必ず生成AIでチェックする」「議事録はオンライン会議ツールのAI要約機能を活用してドラフトを作成する」といったプロセスやルールを組織として標準化し、徹底している。また専用のAIエージェントを配備し、従業員にその利用を全社標準としている企業も存在する。
 生成AIの活用を従業員の自主的な判断に任せてしまうと、活用度やスキルに大きなバラつきが生じる。冒頭の調査結果が示すように、「毎日使う層が1割未満」という状態に陥ることも十分にあり得るところで、それでは組織として十分な効果を実感することは難しいだろう。
 しかし、生成AIが業務プロセスに「必須要件」として組み込まれ、かつ、確かな実績を持つ専用AIやAIエージェントが配備されれば、従業員は必然的にそれを活用する。そして、日々の実践(試行錯誤)を通じて活用スキルが向上し、業務品質の安定や付加価値向上に対する創意工夫も蓄積されていくことになる。結果として、組織全体として生成AIを「組織能力として定着する」こととなり、期待以上の効果を実感できるようになるのである。

5.「戦略」「業務・職務」「人材」の三位一体の連動が重要

 ここまで、日本企業における生成AI活用の現在地を概観してきたが、これを踏まえて、改めて「人材ポートフォリオ」の重要性について論じたい。
 人材ポートフォリオは、事業戦略との連動性が重要となる。[図表4]では、人材ポートフォリオの位置づけを整理している。企業はまず、事業戦略に基づいて「事業ポートフォリオ」を策定し、成長性や成熟度に応じた経営資源(ヒト・モノ・カネ)に優先順位を付け、配分を決定する。この資源配分に基づいて「業務・職務ポートフォリオ」が定まる。事業の拡大・縮小に伴い、求められる組織能力は変化し、組織能力の変容に伴って必要な業務や職務の内容、規模も変化する。企業はこうした事業環境や組織能力の変化に応じた組織・業務設計が求められる。生成AIは、一連の業務プロセスを抜本的に変革し得る重要な変動要素の一つといえよう。

[図表4]人材ポートフォリオの位置づけ

図表4

 そして、この再設計された業務・職務ポートフォリオを実現するために必要な人材の質・量の組み合わせこそが「人材ポートフォリオ」である。将来の事業を担うために求められる人材像を定め、現状とのギャップを明確に把握した上で、そのギャップを埋めるための人材マネジメント施策を実施する。こうして「戦略」「業務・職務」「人材」の三つのレイヤーを一貫したポートフォリオの概念で整合させ、連動性を確保させるのである。これこそが「戦略人事」の起点となり、生成AI時代において企業が競争優位を確立するための重要な条件といえる。

6.長期雇用を前提とする日本企業こそ、人材ポートフォリオに取り組むべきである

 特に日本企業では、雇用保全の観点からも人材ポートフォリオの検討が重要である。周知のとおり、日本は世界的に見ても雇用規制が厳しく、会社都合による雇用解除(解雇)は容易ではない。長期的なメンバーシップ型雇用が定着してきた結果、社会全体の慣行(社会通念)として根付いているためである。企業は、高い雇用保全性を前提とした組織運営が求められている。
 一方、ジョブ型雇用が主流の海外では事情が異なる。事業戦略の変化に伴い、業務・職務ポートフォリオが変われば、人材ポートフォリオを即座に再編成することが可能である。米国ビッグテック企業の大規模な人員整理は、その象徴的な例である。生成AIの台頭により、人力によるコーディング業務の需要が激減した職種を対象に、大胆な人員整理が実施された例は記憶に新しい。
 このように、雇用流動性が高いジョブ型社会では、業務消滅に伴う雇用解除と、新たな組織能力獲得のための人材獲得が比較的容易である。しかし、日本のような高い雇用保全性が求められる社会では、同様にはいかない。日本企業は、長期雇用を前提に人材を採用・育成し、新たなスキルを組織として獲得しながら、事業・組織運営を図らなければならない。しかし、人材育成は時間と労力を要する。だからこそ、5年後、10年後の事業や業務・組織の変動を見据え、将来あるべき人材ポートフォリオを描いた上で、それに近づけるために逆算して施策を計画的に実行していく必要がある。
 日本企業の本質的な強みは、長期雇用を土台とした「社員と会社との信頼関係」にある。それは、単なる契約関係を超えた、心理的契約を基盤としたパートナーシップである。だからこそ、事業や業務・職務ポートフォリオの変化に合わせて、組織・人材のスキルや配置を柔軟に組み替えながら対応しなければならない。生成AIの進展に伴う構造的破壊と再生が差し迫っている今こそ、日本企業は人材ポートフォリオと真剣に向き合い、長期的な視点から組織能力の変革に取り組む必要があるだろう。

 本稿では、生成AI活用における日本企業の現在地と、人材ポートフォリオの位置づけ・重要性を説いてきた。次回は、生成AIが「業務ポートフォリオ」に及ぼす影響と、それに伴う「人材の変容(求められるスキルの変化)」について論じる。生成AIは特に業務との関わりが深い。業務ポートフォリオと人材ポートフォリオの在り方を考察することは、今後の日本企業の人材戦略の根幹に関わることである。ぜひ次回も注目いただきたい。

プロフィール写真 加藤守和 かとう もりかず
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター
事業会社の人事部のほか、日系および外資系のファーム数社を経て現職。製造、製薬、広告、ITなど幅広い業界に対して、約20年間の人事コンサルティング経験を持つ。組織設計、人事制度構築、退職金制度構築、M&A、リーダーシップ開発、各種研修企画・運営など、ハードとソフトの両面からの組織・人事改革を支援する。著書に『ジョブ型人事制度の教科書』(共著、日本能率協会マネジメントセンター、2021年)、『日本版ジョブ型人事ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター、2022年)、『ウェルビーイング・マネジメント』(日経BP、2022年)、『リーダーになったら知っておきたい12のこと』(日本能率協会マネジメントセンター、2023年)、『EX 従業員エクスペリエンス』(共著、日本能率協会マネジメントセンター、2024年)等多数。