浅野浩美 あさの ひろみ
開志創造大学大学院
事業創造研究科教授
1.第12次計画を「キャリアコンサルティング」から読む
2026(令和8)年3月31日、厚生労働省は「第12次職業能力開発基本計画」を策定し、公表した。
職業能力開発基本計画(以下、計画)は、職業能力開発促進法5条1項の規定に基づいて5年ごとに策定される、職業能力の開発に関する基本計画である。行政関係者以外の人にとっては、読みやすいとは言いにくいかもしれないが、キャリアコンサルティングが職業能力開発政策の中でどのように位置づけられてきたかを見る上で重要な文書の一つである。
本稿では、第7次から第12次までの計画を手掛かりに、キャリアコンサルティングにどのような役割が期待されているのかを考えたい。
2.第7次から第12次までの計画の流れ——キャリアコンサルティングはどう扱われてきたか
第7次計画(2001[平成13]年)では、労働市場が有効に機能するためのインフラストラクチャーとして、キャリア形成支援システム、労働市場に関する情報提供システム、職業能力評価システム、多様な教育訓練機会の確保などが掲げられている。その中で、キャリアコンサルティング※は、労働者が自ら職業生活設計を行い、職業選択や職業訓練の受講などを効果的に行うための相談として位置づけられた。
※ 法改正により2016(平成28)年4月にキャリアコンサルタントが国家資格として創設される前は「キャリア・コンサルティング」と表記されていたが、本稿では、固有名詞や原文を引用する場合を除き、現行法制上の表記に合わせて「キャリアコンサルティング」と記載する。「キャリア・コンサルタント」についても同様に「キャリアコンサルタント」と記載する
第8次計画(2006[平成18]年)では、「職業キャリア形成支援政策」が取り組みの柱とされ、キャリアコンサルティングはその重要な手段の一つとして位置づけられるとともに、担い手であるキャリアコンサルタントの資質向上が求められるようになった。2006年の職業能力開発促進法の改正では、企業内外でのキャリアコンサルティング機会の確保についても明記された。
第9次計画(2011[平成23]年)では、「成長が見込まれる分野の人材育成」と「雇用のセーフティネットの強化」が柱とされ、キャリアコンサルティングは、ジョブ・カード制度などを用いて、非正規雇用労働者等への能力開発や職業訓練をより有効に機能させるための支援として位置づけられた。
第10次計画(2016年)では、「生産性向上に向けた人材育成戦略」という位置づけの下で、労働者の主体的なキャリア形成の推進が掲げられた。2015年の職業能力開発促進法の改正(2016年4月施行)でキャリアコンサルタントは国家資格となったほか、この時期、セルフ・キャリアドックの導入が推進され、キャリアコンサルティングは、個人への相談支援にとどまらず、企業内でのキャリア形成支援や人材育成施策との関係でも語られるようになった。
第11次計画(2021[令和3]年)は、デジタル化の進展、新型コロナウイルス感染症の影響、人生100年時代の到来などを背景に、企業における人材育成を支援するとともに、労働者の継続的な学びと自律的・主体的なキャリア形成を支援する人材育成戦略として位置づけられた。その中で、キャリアコンサルティングは、自律的・主体的なキャリア形成を支える手段として、オンライン相談や企業内人材育成との関係も意識されるようになった。
続く第12次計画(2026[令和8年])は、成長型経済への移行を目指し、人材を人的資本として捉える考え方を踏まえ、「個別化」「共同・共有化」「見える化」という三つの視点が示されている。キャリアコンサルティングは、スキル等の見える化、リスキリング、キャリア形成の伴走支援、企業や職場の管理者への助言と結びつけて位置づけられている。
こうして見ると、キャリアコンサルティングは、当初の個人の職業生活設計を支援する仕組みから、ジョブ・カード、セルフ・キャリアドック、企業内人材育成、リスキリング支援へと、徐々に期待される領域を広げてきたように見える[図表]。
[図表]各次職業能力開発基本計画とキャリアコンサルティングの位置づけ
| 計画 | 期間 | キャリアコンサルティングの位置づけ |
| 第7次 | 2001~ 2005年度 |
労働市場インフラの一部として、キャリア形成支援システムの中に位置づけ |
| 第8次 | 2006~ 2010年度 |
職業キャリア形成支援政策の本格化、職業生涯を通じた支援、担い手であるキャリアコンサルタントの資質向上 |
| 第9次 | 2011~ 2015年度 |
成長分野の人材育成、雇用のセーフティネット、ジョブ・カードと職業訓練を組み合わせた支援 |
| 第10次 | 2016~ 2020年度 |
キャリアコンサルタントの国家資格化、セルフ・キャリアドック、主体的キャリア形成 |
| 第11次 | 2021~ 2025年度 |
自律的・主体的なキャリア形成支援、継続的な学び、企業内人材育成、オンライン相談 |
| 第12次 | 2026~ 2030年度 |
スキル等の見える化、リスキリング、キャリア形成の伴走支援、企業や職場の管理者への助言 |
3.第12次計画はキャリアコンサルティングに何を求めているのか
では、第12次計画は、キャリアコンサルティングにどのような役割を求めているのだろうか。
以下では、第12次計画が示す「個別化」「共同・共有化」「見える化」という三つの視点を踏まえつつ、キャリアコンサルティングに関する記述を、①労働者本人へのキャリア形成支援、②スキル等の見える化やリスキリングとの関係、③企業や職場の管理者への助言、という三つの観点から整理したい。
第12次計画では、労働市場におけるスキル等の見える化、個人の自律的・主体的なキャリア形成支援、企業における職業能力開発への支援の充実が重視されている。キャリアコンサルティングは、これらを労働者本人のキャリア形成や企業内の人材育成につなげるための支援として位置づけられていると読むことができる。
[1]労働者本人へのキャリア形成支援
環境変化が進む中で、個人が、労働市場における仕事とスキルの情報を基に、「何をしたいか、何ができるか、何が必要か」を考え、自律的・主体的なキャリア形成を行えるよう、伴走支援を行うことが求められている。
また、労働供給制約に対応するため、中高年、若者、女性、非正規雇用労働者など、対象者ごとの課題に応じたきめ細かな支援も求められている。
[2]スキル等の見える化やリスキリングとの関係
労働市場や企業内での適材適所を実現するため、労働者が有する能力を「職業情報提供サイト(job tag)」やジョブ・カードを活用して把握し、客観的に整理して、それらの情報を十分に活用し、的確な相談を実施することが求められている。求められるスキルが変化していく中では、労働者がそれを自分のキャリアと結びつけ、学び直しやキャリア選択につなげるための相談支援が必要となる。
[3]企業や職場の管理者への助言
職場の上司が行うキャリア相談を専門的な立場から助言・支援する体制の整備や、セルフ・キャリアドックの導入促進、人材マネジメント関連の専門家と協働して企業の事業内計画作成や人材管理の仕組みづくりを支援する体制整備についても、記載がなされている。
支援を受ける側が適切に相談相手を選べるよう、キャリアコンサルタントの相談プロセスや知識・経験の可視化を進めること、活動領域に応じて専門性を深めることが求められている。労働者の能力開発は、職務経験、配置、評価、上司との面談、教育訓練機会と密接に関係する。職場の管理者や人事部門がキャリア形成支援を理解し、マネジメントに組み込んでいくためには、企業への支援も求められる。
4.キャリアコンサルティングの役割は「広がった」のか
こうして見ると、第12次計画では、キャリアコンサルティングについて、労働者個人への相談支援を基盤としつつ、スキル等の見える化、リスキリング、企業内人材育成、職場の管理者への助言とも関係づけられ、キャリア形成への伴走支援としての性格がこれまでよりも前面に出ている。第12次計画を読む限り、キャリアコンサルティングに期待される役割は広がっているといえる。ただし、何でも担うという意味ではない。
今後、キャリアコンサルタントには、個人を対象とする相談支援の専門性を基盤としつつ、人事部門、管理職、教育訓練機関、産業保健や人材マネジメント関連の専門職と協働する中で機能することが一層求められる。
【参考文献】
・厚生労働省(2001)「第7次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2006)「第8次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2011)「第9次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2016)「第10次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2021)「第11次職業能力開発基本計画」
・厚生労働省(2026)「第12次職業能力開発基本計画」
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浅野浩美 あさの ひろみ 開志創造大学大学院 事業創造研究科教授 厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。 社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリア・カウンセリング学会副会長、日本キャリアデザイン学会会長、人材育成学会常任理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師など。 専門は、人的資源管理論、キャリア論。 |
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