2025年11月26日掲載

キャリアマンス2025に寄せて - 第2回 キャリアワークショップが従業員の可能性を広げる ~ゴールドウインにおけるキャリア支援を通じた意識変革

株式会社ゴールドウイン
人事部 企画グループ マネージャー 齊藤 裕克

毎年11月は「キャリアマンス」です。
キャリアマンスとは、すべてのキャリア支援職が所属団体・領域を越え、「自律的なキャリア形成が当たり前となる社会」の実現を目指して社会の課題に立ち向かい、【チェンジエージェント】としてのキャリア支援職が一丸となって輪を広げる特別な月間です。
「キャリアマンス2025に寄せて」では、今年のテーマである “変化する時代の働くと生きるを考える” に関連して、「働く」と「生きる」に関する変化への向き合い方を考えていきます。
第2回では、株式会社ゴールドウインの齊藤裕克氏に、年齢別のキャリアワークショップの取り組みについて紹介いただきます。

「キャリアマンス2025」(一般財団法人ACCN主催)
https://careermonth.wixsite.com/2025

コミュニケーション課題の解決に向けた小さな一歩

 「この会社の従業員は、自分のキャリアについてどのように考えているのだろうか」——2020年にキャリア入社した人事部員の頭に、ふとそのような考えがよぎった。その年にキャリア相談室を開設したものの社内には浸透せず、自発的な利用者は限定的なものであったからだ。
 当時は、コロナ禍に加え、事業規模の拡大に伴いキャリア入社者が増えるとともに、リモートワーク中心の働き方へとシフトしていた。そのような中で、既存の従業員からは「他部署にどんな人がいるのか分からない」といった声が数多く上がっていた。一方、キャリア入社者はコミュニケーション不足や従来の認識とのギャップから早々に退職していく者も出始めており、こちらも喫緊の課題となっていた。
 このような状況において、「今自分が向き合っていること」や、「今後どのようにしていけばよいのだろうか」など一人ひとりが抱えている漠然とした思いや不安を、「キャリア」というものを通じて同世代と語ることができる場が持てたらコミュニケーション課題の解決にもつながるのではないかと考えた。そんな思いから、2021年度に「キャリアワークショップ」(以下、ワークショップ)と称した取り組みはスタートした。
 内容は、1回当たり3時間、オンラインのワークを通じて普段は業務で関わりのない従業員と交流し、可能な範囲での自己開示をした上で、他者を知ることで自己への気づきなどを得るグループワークと、キャリア形成において年代別に必要な姿勢や取り組み方を学ぶ講義である。初年度は、同世代というくくりで30歳から59歳までの年齢層別に七つのカテゴリーに分け、参加人数は計7回で452人に上った。参加者の満足度は高かったものの、1回当たりの参加人数が平均60人を超え、運営する人事部も参加者に寄り添い切ることができなかった反省を踏まえ、1回当たりの人数の抑制という観点から、2022年度より年齢別に実施する現在の形が整った。

年齢別キャリアワークショップから個別のキャリア相談へ

 2022年度から各回のワークショップの参加対象者を同年齢限定とし、参加者同士による、より深いコミュニケーションができる枠組みへと変更した。当初は「30歳」~「60歳」まで5歳刻みの年齢の従業員が対象であったが、2024年度から「25歳」も加え、学校教育で受けてきたキャリア教育の継続性も意識した体制を取っている。また、参加者の年齢が35歳以下と40歳以上でワークショップの担当講師を分け、参加者により近い立場でキャリアについて支援してもらえるようにした。そのほか、コロナ禍を経て、全国の事業所に勤務する従業員が一堂に会することができるよう、オンラインでの実施を継続している。
 2024年度までの3年間で、参加者は累計361人となっており[図表1]、参加した従業員からは、「これからのキャリアについて相談したい」「3年後、5年後を見据えて今から何をすべきかを考えている」「定年後の生活を見据えて働けるように資格を取ろうと思っている」等の声を聞くことも増えてきている。これは、従業員の中で「キャリアプラン」「キャリア形成」という言葉が少しずつ浸透してきているためであると考えられる。

[図表1]ワークショップ参加者の推移

図表1

資料出所:筆者作成([図表2~3]も同じ)

 2024年度の参加者の満足度は92%を超え、キャリアを考えるきっかけとしてこの取り組みは従業員に好意的に受け取られている。ワークショップ参加後の従業員の声を幾つか紹介する。

<ワークショップ参加者の声>

今までキャリアについて正直迷走していた部分があったが、同年代ときちんとした場で話し合いができたことで、視野が広がり新たな考え方が生まれ、改めてキャリアを考えるヒントを得られたと感じた(30代)

ちょうど自分のライフスタイルやキャリアについてモヤモヤしている状況だったので、改めて振り返る機会をいただけて良かったと思う(40代)

大切なことは自分なりのテーマを持ち、それに取り組んでいくことだと気づかせてもらった。未来の自分を考えるきっかけになった(50代)

 また、ワークショップ参加後に、キャリア相談室を利用する人数も増えてきている。当初は社外講師のみが相談を担当していたが、2025年度から社内での国家資格キャリアコンサルタントの保持者2人も相談員として加わり、従業員にとって気軽にキャリア相談ができる体制が整いつつある。2025年度は半年間で2024年度の実績に迫る勢いで相談者数は増加しており[図表2]、この実績を鑑みても、キャリアというものが従業員の中で少しずつ身近になっていると思われる。

[図表2]キャリア相談室の年間利用者数の推移

図表2

[注]2025年度は4~9月実績

従業員は「キャリア」をどのように伝えるのか、会社はどのように従業員を支援するのか

 会社が示している目指すべき方向性である「Purpose、Vision、Value」と、従業員が大切にしている価値観から導かれるそれぞれのキャリア観がつながっていることが、会社へのエンゲージメントを高めることの重要な要素と考える。
 そのため当社では、ワークショップで得た気づきや考え、キャリア相談室をきっかけに得られた具体的な目標等を会社(上司)に直接伝えることができる期初面談の実施を、全部署に義務づけている。その面談で従業員は自らの「Will/Can/Must」を提出し、自分自身がどのようなキャリア形成を望んでいるのか、自身のありたい姿は何なのかを面談時に上司と共有するようにしている。この取り組みの開始から2年がたち、「Will/Can/MustのWillがまず必要ですよね。私は何をしたいのか、最近よく考えているんです」という声も従業員から聞かれるようになってきた。
 また、面談を実施する上司に対しては受講必須の研修を実施し、経験に基づいた自己流の面談とならないよう、面談手法の取得やコーチング技術の向上に努めており、上司と部下においてお互いの “意識と知識の変革” が始まりつつあると感じている。
 そのほか、2024年度より、資格取得にかかる受験料の支援拡大や、従業員が受けられるポータブルスキルアップの研修プログラム(社内アカデミー)を始め、従業員のキャリア形成に役立てる仕組みを整えている。従業員の自己啓発を支援する取り組みの拡大により従業員1人当たりの年間研修時間も大幅に増えた[図表3]

[図表3]従業員1人当たりの年間研修時間

図表3

 2025年度からは、自身のスキルアップや資格取得において長期間の休暇が必要な場合に利用できる「サバティカル休暇制度」を導入した。これは、休暇を取得することで、休暇期間中に得た知見やスキルを自身の業務に生かすことを支援する制度である。最大6カ月までの休職を可能とし、休職期間中は月に10万円の支援金を会社から支給している。導入初年度は既に半年で4人の休暇取得が決定した。休暇取得者は復帰後社内ホームページ上で休暇中の取り組みを公開し、従業員同士で自己啓発に関する情報を共有できるようにしている。

従業員の変化と今後

 このように当社では、2022年度から本格稼働している「キャリアワークショップ」を軸に、従業員のキャリアに関する考え方に変化が起きている。特に、自身のキャリアにつながると思われる取り組みや、部署を超えた交流に対して、積極的に参加しようとする姿勢が顕著に表れてきている。2026年度で年齢別のキャリアワークショップはいったん終了となり、従業員のキャリア支援においても2027年度から新たなフェーズに入るが、“「キャリア」を軸に従業員の可能性を広げる” という思いを持ち続け、取り組みを進めていきたい。

齊藤裕克 さいとう ひろかつ
株式会社ゴールドウイン 人事部 企画グループ マネージャー
国家資格キャリアコンサルタント、ファイナンシャル・プランニング技能士2級

1994年株式会社ゴールドウインに入社、営業職を経て2022年に人事部に異動。異動後は人的資本経営推進の一環として働きやすい職場環境づくりに関する施策、社内人材の教育や育成プランの立案および推進に携わる。現在は人事部 企画グループに所属し、従業員を支援する人事施策全体の企画業務を中心に携わる一方、社内キャリアコンサルタントとして個別に従業員と向き合うことに取り組んでいる。