2025年08月18日掲載

人的 “資本” 経営時代の要員・人件費マネジメント - 第6回・完 要員計画におけるテクノロジーの活用方法

デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター 高山 俊
シニアコンサルタント 神永百合香

1.はじめに

 これまでの連載では、人材の「質」の観点の捉え方や要員計画への落とし込み方について解説してきた。要員計画は策定して終わりではなく、定期的な進捗(しんちょく)把握と状況に応じた軌道修正が不可欠である。最終回となる本稿では、要員計画の策定および進捗のモニタリングにおけるテクノロジーの活用方法を説明する。

2.目指すべき要員計画とは

 要員計画に関して多く寄せられる相談は、「人事部門は、各部門から提出された増員要望の根拠の確認や修正依頼、人数の調整といった “数字づくり” に時間を費やし、本来目指すべき要員計画まで到達できない」というものである。
 「本来目指すべき要員計画」とは、事業ニーズを起点に人材の「量と質」の変化を捉え、全社で意思決定した事業の投資優先順位に基づき要員を決定する計画を指す。目指すべき要員計画に必要な要素は、人材の「量」の観点、「質」の観点、そして「高頻度な見直し」の3要素が挙げられる[図表1]。これまで「量と質」の観点を取り入れた要員計画については、過去の連載や本連載の第5回までの記事で説明してきているため、本稿では、三つの要素すべてがそろった「高頻度に見直した要員計画」について詳しく説明する。

[図表1]目指すべき要員計画の要素と内容

目指すべき要員計画の要素 内容
①「量」の観点 事業計画に基づいて人材の変化を「量」の観点で捉え、将来における企業のあるべき姿からバックキャストし、全社としての人材の投資優先順位に沿って決定する
②「質」の観点 将来における企業のあるべき姿の実現に必要な人材の「質」(スキル・能力・経験等)を組織・ポジションごとに定義した上で、「質」を捉える人材群ごとの人数を決定する
③高頻度な見直し 企業を取り巻く環境や事業計画の変化に伴う人材の「量と質」のニーズの変化を捉え、高頻度に見直す

 要員計画において直面しやすい「数字づくりに時間がかかる」という課題がある中では、「量」の観点を取り入れた、目指すべき要員計画でさえも実現が難しかった。しかし、「質」の観点も含めて人材の変化を捉える必要性が次第に高まり、検討すべき段階が1段階引き上がった。さらに、今では要員計画の高頻度な見直しが求められるようになってきている。つまり、目指すべき要員計画の段階は、「『量』の観点」の段階から、「高頻度な見直し」の段階まで2段階分引き上がっていたのである。
 高頻度に見直した要員計画が求められている主たる要因には、事業環境の変化の加速が挙げられる。これに伴い、事業計画の見直し頻度が高くなる。同時に、事業計画を実現する手段である人材の「量と質」についても、事業計画と同じ頻度で見直す必要がある。そして、要員計画を高頻度で見直すためには、見直し以上の頻度で現状をモニタリングすることが必要である。
 では、なぜ高頻度の見直し・モニタリングが必要なのだろうか。その一例として、ある企業における採用の話を取り上げる。成長分野として注目されていたA事業部は、計画を大きく上回るペースで上期の売り上げと利益を伸ばし、業績好調だった。A事業部の部長は、業績が右肩上がりの状況を好機と捉え、さらなる事業拡大を進めたいと考えていた。追加の事業拡大策を推進するには、当初の計画で見込んでいた期中の採用人数以上の増員をする必要があった。実際に採用面接を進めると、即戦力としての活躍を大いに期待できる人材が多く、予定採用人数を超えて採用したいと考えた。そこでA事業部の部長は、人事の採用担当者へ予定採用人数よりも多く採用したいという希望を伝えた。しかし、人事部門では、A事業部の売り上げ・利益・人件費などの指標について、リアルタイムでモニタリングする仕組みが整っておらず、採用人数を見直す意思決定ができなかった。その結果、A事業部の採用人数は、当初計画した人数にとどまり、即戦力となり得る人材の獲得機会を逃してしまったのである。
 上期の業績が締まった時点で、A事業部の業績を振り返ると、A事業部の部長の予想どおり、増員しても問題ないどころか、むしろ増員していればさらなる事業拡大と売り上げ・利益の向上を実現できた可能性が明らかになった。このことから、意思決定の判断材料として現状を頻繁にモニタリング・把握し、必要に応じて要員計画の見直しができているかどうかが企業の業績を大きく左右するといえる。

3.テクノロジーを活用することで実現できる世界

 では、どうしたら高頻度なモニタリング・要員計画の見直しを実現できるだろうか。その手段は、テクノロジーの活用である。計画の策定からモニタリングまでの一連の流れにおけるテクノロジーの活用方法は、多種多様である。例えば、過去の連載でも紹介した、従業員の「質」をデータベースに登録して人材ポートフォリオとのギャップを測るスキルデータベースや、AIを用いた適材適所を実現するタレントマッチングなどが該当する。今回は、要員計画の策定時に基盤となる「要員計画システム」と、計画・施策の現状をモニタリングする「人事コックピット」の二つについて紹介する。
 これらを活用すると、人同士のやりとりを中心とした運用から、全員共通の一つのシステムを介したやりとりでの運用となる。つまり、テクノロジーが高頻度な要員計画の見直し・モニタリングの基盤となり、「スマートな世界」を実現することができる。
 これまで要員計画・モニタリングにおいて、柔軟性が高いExcelが活躍されてきた。例えば、要員計画では適宜集計期間や切り口の変更・追加、モニタリングでは必要に応じてグラフで可視化するなど、利用者のその時々のニーズを実現できる優れたツールである。
 一方、Excelを利用する際は、部門間でExcelを受け渡す、つまり「Excelのバケツリレー」状態が生じる。また、「質」の観点のデータを取り込む際は「質」の情報を保有するシステムとの統合が不可欠である。そうすると要員計画を高頻度に見直し、その頻度以上に現状をモニタリングすることは、「Excelのバケツリレー」と「システムとの統合」の両方を頻繁に実施することを意味する。ただでさえ工数がかかる運用であるため、Excel単体で頻繁な要員計画・モニタリングの実現は難易度が高くなってしまう。
 そこで、高頻度な要員計画・モニタリングの基盤を整備したいと考えている方には、「要員計画システム」と「人事コックピット」を導入することを推奨する。以降、二つのシステムを導入するに当たってのポイントを順に説明する。

4.要員計画システム:テクノロジーに求める要件

 これまでさまざまな要員計画システムの導入支援をしてきた経験から、要員計画がテクノロジーに求める要件は、①「柔軟性」、②「同時アクセス性と適切な権限設定」、③「シミュレーション」、④「リアルタイム性」、⑤「データの一元管理」の五つだと考える。

① 柔軟性:計画の前提となるロジックの変更や集計期間、切り口の変更・追加など、利用者が適宜必要とするものを反映できること

② 同時アクセス性と適切な権限設定:人事・部門長など、関与する者が同時に同じシステムへアクセスし、要員計画を策定できる(=「Excelのバケツリレー」状態からの解放)。また、関与する者の階層や役割を踏まえ、適切な範囲で権限を設定できること

③ シミュレーション:前提条件を設定した上で、複数パターンで試算できること

④ リアルタイム性:組織間のデータをリアルタイムで連携・更新し、即座に状況を把握できること

⑤ データの一元管理:過去の実績データも含めて一元管理できる。必要なときに即座に確認できること

 上記の要件は、人事が随分と昔から導入・利用している給与計算や勤怠管理等のシステムに活用しているテクノロジーとは異なる。その違いを踏まえた上で導入時のポイントを説明する。
 まず、どのようなプロセス・フォーマットで要員計画を進めたいかを具体的に設計することが重要である。前述のとおり、要員計画のテクノロジー要件の一つに「柔軟性」があるように、ある程度決められた「型」に当てはめようとするのではなく、各企業がシステムを介して実現したいプロセスやフォーマットを具体化することが大切である。ただし、給与計算・勤怠管理のシステムといった型化を前提としているシステムの場合は、ベンダーやシステムの選定から着手することが一般的であり、今回の要員計画システムと導入手順が異なる。
 また、現在の要員計画の策定プロセスやフォーマットをそのまま要員計画システムへ落とし込むことも可能だが、労力をかけて導入するため、現状を改善せずにシステム化することは望ましくない。テクノロジーを活用するタイミングで、システム上で実現したいプロセス・フォーマットの方針を整理した後、それを実現できるベンダーやシステムを選定することを推奨する。

5.人事コックピット:「人的資本ダッシュボード」としての役割

[1]人的資本の可視化戦略
 人事コックピットとは、経営者が見るべき人事に関するダッシュボードであり、コックピットのように、リアルタイムに可視化された定量的なデータに基づいた課題の発見・施策の実施を支援するものを指す。つまり、「経営ダッシュボードに人事に関する情報を追加したもの」ともいえる。経営層への定期的な報告に含まれている人事に関する情報は、頭数やコストといった一部の情報にとどまり、その他の指標については、不定期な報告(報告を求められたときに計算、報告)になっている企業が多いのではないだろうか。中には、そもそも頭数やコスト以外の人事に関する情報の分析・課題把握にまで至っていない企業もあるだろう。しかし今は、頭数やコストだけでなく、「人的資本を充実化する上で重要な指標」を経営層へ定期的に報告する必要性が増している。なぜなら、人事に関する情報を経営の中心に据えることで、経営層の意思決定を高度化し、さらには企業の競争力向上にもつながるからである。
 ダッシュボードに人事の観点が追加されることで、経営層は企業の状況を多角的に捉えることができる。そして、「事業」の観点だけでなく、企業の競争力を高める源泉である「人材」の変化をリアルタイムで追うことで、企業のあるべき姿を実現する上で対応すべきリスクや課題を把握することができる。人事コックピットは、データドリブンで今やるべきことを的確に判断する上で不可欠な手段だといえる。
 以下では、人事コックピットで見るべき情報を説明する。

[2]人事コックピット~見るべき情報
 人事コックピットで見るべき情報は、企業を取り巻く環境や事業の優先度に応じて変わるため、企業によって異なる。見るべき情報は、[図表2]のとおり「経営」と「人事」の両方の観点から選ぶ。「経営」の観点は、企業として何を達成するか(目指す姿)、「人事」の観点では、その達成をどう実現するか(手段)に関する情報を記載している。もちろん、そのほかに見るべき情報がある場合は適宜追加するとよい。

[図表2]「経営」と「人事」の観点から見るべき情報(例)

「経営」観点
結果指標
従業員数・コストの見通し
ビジネスドライバー(短期)
ビジネス戦略(中期)
社会的責任
ミッション・バリューの浸透・実践
New workstyle
コンプライアンス
「人事」観点
人材戦略 人材ポートフォリオ
要員計画・管理
人件費計画・管理
ダイバーシティ
全社組織戦略 組織設計
組織風土・文化
人事組織戦略 人事機能設計
タレントマネジメント タレントマネジメント
採用
育成・人材開発
配置・異動
評価
報酬
退職(出口管理)
役員マネジメント サクセッション
役員報酬マネジメント
リスク・コンプラ リスク・コンプラ
働き方改革 働き方
生産性

 見るべき情報は企業ごとに異なるものの、共通しているものがある。それは、「人材ポートフォリオ」と「要員/人件費計画・管理」である。その理由は、事業戦略・計画の実現に直結するからである。
 人材ポートフォリオと要員計画のダッシュボードの一部を例として見てみよう[図表3]。これら二つの情報を確認するということは、中長期的に目指す人員構成や短期的に必要な人材確保の進捗をモニタリングする意味になる。前者に関しては、[図表3]の「①現在と5年後に目指す職種別人員構成(量と質)の変化」のように、将来目指す人員構成に対して、各職種の人数と質の充足度が意図どおり変化しているかを確認するものである。5年後には、職種Aを主要人材として据え、現在の倍以上の人数へ拡大させる必要がある。一方、足元の職種Aの採用・退職状況を見ると(②年間の採用・退職人数推移)、採用人数の充足度は高いが、退職者が推測より多いことが分かる。職種Bに関しては、①を見ると現在の人材の質の充足度は低いことが分かる。質の向上に向けた育成を強化する必要があるといえるだろう。これらの結果を踏まえて、各職種で深掘りすべき課題に見当をつけ、分析や施策の検討へとつなげていく。
 短期的な人材確保に関しては、人員だけでなく売り上げや利益・人件費率などの指標を合わせて確認することが有効である。「③売上高進捗」と「④人員数推移」を見ると、人員数は計画の人数を満たしていない。売上高も同様に計画値に到達しておらず、当該年度の計画売上高到達に向けて、売上高を伸ばしていかなければならない状況である。しかし、この結果だけでは、売上高が計画よりも伸びていない理由が、人員が足りず十分な営業活動が行えていないという社内事情か、もしくは競合他社や顧客などの外部環境の変化に起因しているのかを判断することは難しい。そこで、業績に関わる指標から現状を把握し、人材確保の進捗などを深掘りしていくことで、最終的に経営層の意思決定に資する情報を導き出すことができる。

[図表3]ダッシュボードイメージ

図表3

 これまで説明してきたように人事コックピットでは、指標を単体で見るのではなく、複数の指標がある基準に対して進捗を確認し、そこから得た示唆に基づいて分析を行うことが重要である。人事コックピットでのモニタリング・分析を通じて、事業計画とその達成に向けた手段の見直しへと寄与できる。

6.人事コックピット:導入の成功の要諦

 最後に、人事コックピットを導入する上での成功の要諦をお伝えする。それは、「段階的な拡張」と「利用シーンの具体化」の二つである。
 「段階的な拡張」とは、「初期の段階では “50点” を目指し、運用しながら “100点” の状態を目指していく」ということである。初期段階では、指標や指標の見せ方が意思決定に有用がどうかを見極めることが困難なケースや、そもそもデータがそろっていないケースが想定される。そのため、まずは「人事コックピット上で何らかの指標が可視化されている」状態を目指す。導入後の運用を通じて、指標の有用性を検証し、指標の追加や粒度の変更といった改善を進めていくことがポイントである。
 二つ目の「利用シーンの具体化」とは、人事コックピットを「誰がいつ、どういう目的で利用するのか」を定義することである。人事コックピットの利用頻度や利用目的によって、表示させる指標の更新頻度や粒度が異なる。また、「人事」に関する指標は、頻繁に更新するものが多いわけではないため、利用目的に対して、更新頻度が適切か、ほかの指標を追加すべきかの判断が必要である。
 例えば、年々上昇している離職率に課題を抱えている企業がある。この場合、従業員のエンゲージメントスコアが離職にまつわる予測や分析の指標として候補に挙がる。一方、エンゲージメント調査を年1回しか実施していない場合、1回限りの結果から離職の事前検知や原因特定は難しい。そこで、パルスサーベイを短期間で繰り返し実施し、その結果を人事コックピットに表示することにした。このように、ある指標から示唆を得ることが難しい場合は代替案を検討するとよい。
 人事コックピットを導入して終わりにならないよう、企業ごとの歩幅で、将来にわたって使い続けることができる人事コックピットの構築が重要である。

7.まとめ

 本稿では、要員計画システムと人事コックピットを取り上げ、テクノロジーの活用方法について説明した。
 事業環境の変化が速く、将来を予見しにくくなってきた今だからこそ、各企業の歩幅でテクノロジーを活用することで、人事担当者には経営者とともに会社の未来を描く存在として活躍していただきたい。

高山 俊 たかやま しゅん
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
ディレクター

人事中計・人材ポートフォリオの策定、人的資本の観点を含む人材戦略ストーリーの構築、要員・人件費の最適化・ツール導入支援、経営管理体系・人事の管理会計・人事KPIの可視化・ダッシュボード構築、人事制度の設計等、組織・人事関連のコンサルティングに幅広く従事。
神永百合香 かみなが ゆりか
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアコンサルタント

人事中計の策定、要員計画の策定、人事制度設計・導入支援、組織・人事関連のコンサルティングに従事。