急速な円安の進行、未曽有の物価上昇は、企業の賃金決定の方針に少なからず影響を与えています。一方で、人材育成や企業競争力強化の観点から、あるいは働き方の多様化、働き手の意識の変化等に合わせて、人事制度の抜本的な見直しを図る動きも加速しています。その中には、制度改定とともに報酬水準の見直しを進め、世間相場へのキャッチアップや社員間のバランスの再検討、初任給引き上げを踏まえた若年層水準の調整などを行うケースも見られるところです。
そこで本特集では、賃金水準の引き上げ、報酬バランスの調整を伴う人事制度改定を実施した2 社の取り組みを取材し、制度設計の詳細や報酬水準見直しの背景・狙い等に迫りました。以下では、『労政時報』第4065号(23.10.27)で掲載した主なポイントをご紹介します。
■伊藤忠テクノソリューションズ
伊藤忠テクノソリューションズは、2023年度より新人事制度の運用を開始しました。人事制度の改定は2015年度以来8年ぶりとなります。
改定後の報酬制度では、報酬の決定スキーム自体は大きく変えず旧制度を継続する一方、全社員を対象に、賞与の一部を月例給に移行する報酬比率の見直しを実施しました(年収額トータルでは旧制度の水準を維持)。社員からの要望等を踏まえた対応であり、月例給を厚くすることにより安定的な生活設計に配慮しつつ、人材確保面では採用競争力の強化を図っています。その結果、基本給が全社員平均で約30%アップしました。
■極洋
極洋では従来、明確な給与テーブルを設定しておらず、社員にとって賃金決定プロセスが分かりにくい状態となっていたことが課題でした。
2023年4月に導入した新人事制度において、給与テーブルに基づき評点に応じて昇給を行う透明性の高い給与制度とする一方、給与水準の見直しも行い、月例給与・年収を全社平均で2 割引き上げることとしました。新たな基本給は、従来の社宅制度がなくなり自己負担金額が増えても、基本的にマイナスにならない水準とすべく検討を行いました。
[図表]掲載2社の報酬・人事制度改定の概要
[注]各社の概要を当研究所でまとめた。
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『労政時報』第4065号(23.10.27)の特集記事 1.賃金水準の引き上げを伴う人事制度改定事例 2.物価上昇に対応するため、自社賃金制度をどう検証・改定するか 3.フリーランス新法の成立を機に考える業務委託をめぐる法的留意点 4.実務視点で読む 最近の労働裁判例の勘所(令和5年上期) ※表紙画像をクリックすると目次PDFをご覧いただけます |
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