2023年09月04日掲載

自律・自走型組織に学ぶ、組織と個人の新たな関係 - 第2回 「自律・自走型組織」先進企業では、どのようなリーダー行動/メンバー行動が見られるか

内藤琢磨、立山宗径、成瀬双葉
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部

本解説は、野村総合研究所『知的資産創造』(2023年4月号)掲載論文を一部編集して転載した。

 本連載では、新たな「組織と個人の関係」を考えていく上で、ティール組織、ホラクラシー経営といった「自律・自走型組織運営形態」に着目する。第1回では、日本においてこうした組織運営モデルを実践する先進企業3社(株式会社ネットプロテクションズ、株式会社Colorkrew、九州電力株式会社インキュベーションラボ)における特徴的な人材マネジメント策を紹介した。今回は、上記3社の協力を得て調査を実施し、「自律・自走型組織」では、どのようなリーダー行動/メンバー行動が見られるのかについて考察していく。

第3章 先進企業におけるリーダー行動/メンバー行動の考察

[1]リーダー/メンバー各行動モデル仮説(モデル構築プロセス)
 本研究では、「自律・自走型組織」を運営する先進企業と世の中一般企業それぞれの社員に対して、リーダー/メンバー行動に関するアンケート調査を実施し、両者の結果を比較することで、自律・自走型組織におけるリーダー、メンバーの行動面の特徴を考察した。

(1)行動モデル構築プロセスの全体像
 まず、組織のリーダーが日常行動において遭遇する場面を「PM理論」(詳細は(2)で後述)のフレームに沿って抽出し、自律・自走型組織の先進企業への調査から抽出されたリーダー行動の特徴を加味することで、「初期行動モデル」を設計した。
 続いて、従業員50人以上の企業勤務者1136名のうち、階層型組織に所属すると回答した855名に対し、リーダー行動、メンバー行動双方についての調査(以下、世の中一般企業調査)を行い、自律・自走型組織と比較対象とする階層型組織のデータを得た。
 また、自律・自走型組織運営を実施する先進企業のうち、ネットプロテクションズ、Colorkrew、九電インキュベーションラボの社員に対しても同様の調査を実施した。

(2)行動モデルの内容
 場面別のリーダー行動モデルの抽出の前提としたPM理論とは、リーダーシップについて、組織ないし集団をまとめるために発揮される「組織メンテナンス機能」(Maintenance function:集団維持機能)と、組織としての成果を上げるために発揮される「組織パフォーマンス機能」(Performance function:目標達成機能)との二つの要素で整理する考え方である。
 PM理論の2要素の枠組みに、当社で過去に実施してきた人事系コンサルティングでの知見を踏まえて一般化した「リーダーの役割行動要素」を組み合わせることで、リーダーが日常業務において遭遇する場面を一定程度網羅的に整理した[図表3-1]
 その上で、場面ごとの具体的な行動内容について、自律・自走組織運営の先進企業と世の中一般企業への調査を実施して具体的な定義[図表3-2]を行い、行動モデルを構築した。

[図表3-1]リーダー行動モデル考察の概要

図表3-1

[図表3-2]自律・自走型組織のリーダー行動定義

図表3-2

[2]先進企業と世の中一般企業のリーダー/メンバー行動の違いと示唆
(1)概要

 上記行動モデルに基づいて、先進企業と世の中一般企業に勤務する社員に対してそれぞれWebアンケート調査を実施し、PM理論の2要素の結果について比較分析を行ったところ、先進企業群ではリーダー・メンバー設問のスコア平均が4.2~4.3であるのに対し、世の中一般企業のスコア平均は3.5前後となった[図表3-3]。当該行動モデルの全体感に関しては、自律・自走型組織のリーダー・メンバー行動を一定程度反映した定義となっていることが確認できた。

[図表3-3]行動モデルのスコア化イメージと結果

図表3-3

(2)各項目から抽出された自律・自走型組織の特徴
 本項では、リーダー行動、メンバー行動のスコアが共に4.5を超え、かつ世の中一般企業との差異が1.2ポイント以上となった四つの項目[図表3-4]について、各先進企業へのインタビュー時に紹介のあったエピソードを踏まえて取り上げたい。

[図表3-4]先進企業・世の中企業のリーダー行動スコア一覧

図表3-4

[注]「世の中企業」は[図3-3]の注釈参照。「先進企業3社平均」は、ネットプロテクションズ、Colorkrew、九電インキュベーションラボの3社平均スコア。

①「話合いで解決」
 先進企業において、問題解決に際してはルールや規程にのっとった判断ではなく、可能な限り社員間の話し合いによる解決を図っている。
 特に、「組織の在り方」(上位概念)については社員同士の議論が極めて重視されている。第2章で取り上げたとおり、九電インキュベーションラボではメンバー全員にインタビューを行った上でラボ独自のパーパスを策定している。策定プロセスにおいては議論が行われたものの、策定された理念は、ラボ設立後数年を経て構成員が増える中で、組織運営を推進する上での結集軸になっている。

②「情報オープン」
 先進企業では、組織のフラット化を志向した結果として、各メンバーが知り得た情報を素早く組織全体に発信する風土が根付いている。ネットプロテクションズでは、執行役員会議に第2章で説明した「カタリスト」がオブザーバー参加するなど、社長・経営層の発言や会議の資料などについて素早く現場メンバーへの情報共有が行われている。
 また九電インキュベーションラボでは、メンバー起点の情報共有の際、成功事例のみならず失敗事例についても情報共有を行うことで、組織全体の底上げに貢献しようとする行動が実践されている。

③「メンバーとの距離を縮める」
 先進企業においては、組織内のリーダー層とメンバー間の距離の近さも特徴的である。
 いずれの企業においても、採用段階から複数社員が十分に時間を割いて候補者のこれまでの経験を深堀りするだけでなく、例えば第2章で紹介したネットプロテクションズのように、トップ自ら候補者と対話して、カルチャーへのフィット感を確認している。
 入社後も、既述のとおりトップからメンバーまで対等に議論する風土であるため、リーダーが各メンバーの考えや人柄を知る機会も多い。Colorkrewにおいては、社内で実施した社員アンケートの結果、80%の社員が「経営層に対して自分の意見を言える」と回答している。
 また、ネットプロテクションズでは、プロジェクト内のリーダー(カタリスト)とメンバー間の四半期ごとの面談(QDS:クオーターリー・デベロップメント・サポート)に加えて、カタリスト以外との間で活動の振り返りや方針策定を話し合う面談(RDS:レギュラリー・デベロップメント・サポート)が行われている。こうした活動により、人格形成やキャリア構築支援が評価者以外の人との関わり合いをも通じて運営されており、リーダーとメンバー間、あるいはメンバー同士の近い距離感を維持する仕掛けとなっている。

④「意思決定機会を創る」(意思決定機会を担う)
 ネットプロテクションズでは、意思決定について「社長からアドバイスすることはあれど、決定するのは各社員である」と断言した上で、その感覚を「個人事業主が300人いて、会社が好きだから貢献しているイメージ」と表現している。
 先進企業では中途採用のみならず新卒採用も実施しているが、新卒入社直後の社員に対しても、すぐに先輩社員同様の意思決定や、答えのない議論にも経営者目線で向き合うことを求めることで、意思決定機会を意図的に創っている。
 もちろん、困難に直面した際にはサポートする旨をメンバーに伝えることで、心理的安全性を担保しながら意思決定の機会付与を行い、少しでも早く経営的視座での判断力に近づけることを試みていることは言うまでもない。

 また、今回特徴的な行動項目として取り上げた4項目のうち三つが、「課題解決支援行動」に関する項目である。
 先進企業においては、入社直後のメンバーであっても、経営レベルの情報に触れることができる。意思決定プロセスにおいても、上位者の判断を仰ぐのではなく、他のメンバーからアドバイスを受け、時には喧々諤々の議論を重ねながら、自ら意思決定を行うことが求められる。
 また、一人一人のメンバーが自律している一方で、リーダーが自らメンバーに話しかけ、距離感を縮める工夫がなされていることも見逃せない。
 リーダーやメンバーが組織内の情報格差を極小化すると同時に、各メンバーの課題解決機会を付与し、安心してチャレンジできる環境をも整備することが、メンバーの自律性と組織貢献意欲の向上にもつながっているのではないだろうか。

内藤琢磨 ないとう たくま
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グローバル経営研究室 プリンシパル
専門は人事戦略策定、人事制度設計、コーポレートガバナンス改革、役員報酬制度設計
立山宗径 たてやま むねみち
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グローバル製造業コンサルティング部 シニアコンサルタント
専門は人事戦略策定、人的資本経営、人事制度改定
成瀬双葉 なるせ ふたば
株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 経営コンサルティング部 シニアコンサルタント
専門は人事戦略策定、人事制度設計