近年、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」の推進が多くの企業で喫緊の課題とされ、DX推進を担う人材の確保・育成が急務となっています。こうした需要の高まりとともに、デジタルスキルを持つ人材の獲得は困難度が増しており、その対応として、育成目標を掲げて、DX人材の社内育成に取り組み始めた企業も少なくありません。一方で、「DX人材を育成しているが、なかなかDXに結び付かない」といった、最終的な成果とのつながりに課題を抱えるケースもあります。そこで今回は、必要とされるDX人材像を明確にした上で社内体制を整備し、育成を進めている3社の取り組みを取材しました。
■KDDI
KDDIは、経営戦略の一環としてDX領域の事業拡大を進め、それを支える経営基盤強化の一つとして、DX人財の社内育成にも取り組んでいる。DX人財育成の目標として、2023年度までにグループ全体で4000人規模、DX推進の中核を担う「DXコア人財」を500人規模にすることを掲げている。
2020年8月に導入した新人事制度の中で、「法人営業」「総務」「人事」等、30の専門領域を設定しており、そのうちデータサイエンティスト等の5領域をDX領域としている点が特徴である。同年には、「KDDI DX University」を開講し、このDX5領域の人財育成を本格的に開始した。「一般受講」と「注力育成」の二つの受講コースを設け、一般受講は1年間、注力育成は9カ月間の長期プログラムを構築。主に一般社員層である基幹職を対象としており、基礎知識から実践的なスキルの習得まで、充実した内容となっている。
実際に、他社と協業した大規模なDXプロジェクトに参加するケースや、データサイエンティストとしてデータ分析をして社内の働き方改革につなげるケースなど、受講者の活躍事例も出ている。
■キリンホールディングス
キリンホールディングスは、DXによる価値創出を行い、「全ての事業・機能部門で自律的にデジタル技術を活用してプロセスの変革やビジネスの創造を行えている」ことをDX戦略のゴールとしている。DX戦略を進める上で、「組織体制」と「人財育成」の両輪が重要と捉え、2021~22年にかけて、「グループDX推進委員会」「領域別分科会」を発足させ、グループ横断のDX実行体制を構築した。
同社では事業・機能部門の現場の従業員が事業課題を見つけ出し、自律的にDXを推進できる状態を目指しているため、事業起点でデジタル活用を企画構想できる「ビジネスアーキテクト」の育成が重要と考えている。そこで、2021年7月から「キリンDX道場」を開校し、「師範(上級)」「黒帯(中級)」「白帯(初級)」という3階層のレベル別プログラムにより、ビジネスアーキテクト人財を育成する。各レベルとも、オンライン講座を受講し、カリキュラム受講後に課題提出の上で修了認定となる。
講義内容は同社ICT部門ならびにパートナー企業と作成したキリングループのオリジナルカリキュラムで構成し、講座での学習内容と実務との距離感を縮めている。
■日本ガイシ
日本ガイシは、NGKグループ全体でDXを加速させ、2030年には「データとデジタル技術の活用が当たり前の企業に変革」することを目指し、2021年4月にDX専門の部署として「DX推進統括部」を立ち上げた。事業の核となる “モノづくりの知識” を持つ人材に、データとデジタル技術の活用スキルを身に付けてもらうことを重視し、「2030年までにDX人材(データ活用人材)1000人」という育成目標を掲げ、社内のDX人材育成を進めている。
同社では、DX人材を「DXエキスパート」「DXリーダー」「DXサポーター」「DXビギナー」の4階層に区分し、階層別に育成している。DXリーダーについては、所属事業部からDX推進統括部へ1年間「異動」した上で、DXについて多角的に学び、1年後には元の事業部に戻る社内留学制度を設けた。DXサポーターおよびDXビギナーには、デジタルの知識やDXのリテラシーを身に付けることを目的とするオンライン講座(2023年度からは対面を中心とした講座)を用意している。
DXリーダーを対象とする社内留学制度は、入社4年目以降に実施するローテーション制度の「異動」対象とし、優秀な人材を事業部門から輩出しやすくする。また、受講者同士の “つながり” をつくり、事業部や現場でDX活動を自走化させる工夫を行っている。
事例3社におけるDX人材の社内育成の概要
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『労政時報』第4056号(23.5.12/5.26)の特集記事 1.DX人材をどう育成・活用するか 2.今国会で審議中の労働関係法案 3.2023年賃上げ・夏季一時金妥結状況 4.〈速報〉2023年度決定初任給の水準 5.先進企業の人事トップインタビュー(5):株式会社リコー ※表紙画像をクリックすると目次PDFをご覧いただけます |
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