2023年04月28日発行 労政時報本誌  4055号 014頁

特集1

適所適材の異動・配置進める

社内公募制度の運用事例

「社内公募制度」は、会社が必要とするポストの要件をあらかじめ社内に公開し、応募者の中から適した人材を選考の上、異動させる仕組みです。近年は、会社主導による異動・配置・登用に代えて、社内公募制度をメインに運用するケースが増えています。
社内公募制度の運用に当たっては、募集部門と応募者のマッチング、人員計画外の異動対応における工夫などが必要となるほか、選外社員へのフォローなども重要となり、検討・調整すべき事項は多岐にわたります。そこで今回は、導入企業3社を取材し、制度設計の詳細や運用の実際、成果・課題等を探りました。

■三菱ケミカル

 三菱ケミカルは、「キャリアのオーナーシップは個人にある」との考えの下、社員にキャリアの選択肢を委ね、個人の多様なキャリアの価値観と、会社の戦略をつなげた成長の実現を目指して2020年10月に社内公募制度を導入した。欠員や増員などの需要発生時に社内公募を実施し、社内公募で該当者がいなかった場合は会社指示による異動に切り替え、それでも該当者がいなければ社外からの人材確保(キャリア採用)を検討する。
 公募案件の掲示は年4回であり、募集から異動までの期間は原則6カ月以内として運用する。本制度の導入から2年たった現在では、延べ3400件の公募案件が示され、うち約1200件についてマッチングが成立、異動が実現した。
 社内公募制度以外の異動施策には、若手社員に希望部署の選考を受ける機会をつくる「キャリアチャレンジ制度」や、現在の勤務地での就業を継続できる「勤務地継続」、希望の勤務地を登録できる「勤務地希望」などを設け、社員の主体的なキャリア形成とライフプランへの配慮に焦点を当てている。

■SCSK

 SCSKは、「社員の自律的なキャリア形成支援と中長期的成長の機会の提供」を目的とした二つの公募制度を2012年度から運用している。具体的には、組織(部単位)が人材を募集したい案件を登録し、社員(SCSK社内・グループ会社)が応募する「ジョブチャレンジ制度(人材公募制度)」と、社員(SCSK社内)が自身の保有スキル、異動を希望する本部・業務を登録し、本部がオファーする「キャリアチャレンジ制度(社内FA制度)」である。
 人材公募では、年間約200人が応募し、うち約4割が選考を通過して希望部署に異動する。一方、社内FAは年間約20~30人が情報を登録し、実際の異動者は年間約10人となっている。両制度ともに20~30代の若手社員の利用が多い。
 2017~21年の制度利用者における異動後の業務の満足度は、「大変満足している」「満足している」の合計が約7割となった。また、同アンケート結果によれば、社員のリテンションにも効果があることが分かっている。
 定期異動は原則として実施しておらず、事業グループごとのビジネス環境に応じて必要な場合に行うほか、入社4年未満の若手については「若手キャリア開発プログラム」という、人材育成に主眼を置いたローテーションの仕組みを導入している。

■イケア・ジャパン

 イケア・ジャパンの異動施策は、原則として「OPEN IKEA(社内公募制度)」のみである。すべてのコワーカー(従業員)は世界中の拠点の空きポジションに応募でき、国・部門・グレードをまたいだ異動が可能だ。昇降格などすべてのキャリアをコワーカーに委ねる仕組みを「ジャングルジム型キャリア」と呼び、これに基づく主体的なキャリア形成を推奨する。背景には、ポジションや年齢などに関係なく、平等な機会を提供するという同社の「ピープル理念」があり、コワーカーの多様性を尊重する制度の一つとしてOPEN IKEAが定着している。
 その他キャリア支援の取り組みとして、上司と部下が業務のゴール設定や振る舞いに関する期待値を確認し合う「パフォーマンスディベロップメントサイクル」や、上司以外がメンティー(指導・育成対象者)の要望に合わせて成長をサポートする「メンタープログラム」等を展開し、コワーカーの成長を後押しする。

事例3社の社内公募制度の概要事例3社の社内公募制度の概要



『労政時報』第4055号(23.4.28)の特集記事

1.適所適材の異動・配置進める社内公募制度の運用事例

2.積水化学工業の新人事制度

3.実務視点で読む最近の労働裁判例の勘所(令和4年下期)

4.労働関係法律─基本解説 第4回 フレックスタイム制

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