2023年03月10日掲載

Point of view - 第224回 井上洋市朗 ―ホワイト企業を辞める若手。企業はどうする?

井上洋市朗 いのうえ よういちろう
株式会社カイラボ 代表取締役

大学卒業後、コンサルティング会社、商社などを経て2012年に株式会社カイラボを設立。2013年に新卒入社後3年以内に辞めた人たちへのインタビューをまとめた「早期離職白書」を発行。企業向けの離職防止コンサルティングサービスを提供しており、これまで支援した企業は100社を超える。
課外活動にも積極的に取り組み、高校・大学でのキャリア教育や東京マラソン公式ペースセッターなどを務める。

はじめに

 「職場がホワイトすぎて辞めたい 若手、成長できず失望」という記事が2022年12月15日の日本経済新聞電子版に掲載されました。この記事はSNSでも話題になり、いわゆるバズり記事となりました。
 ブラック企業という言葉が新語・流行語大賞にノミネートされたのは2013年。多くの企業がブラックからホワイトへと働き方を変え、コンプライアンス意識も高めてきました。
 そこに来て、今度は「ホワイト企業すぎて辞める」と言われてしまっては、企業としてはどうすればよいのか頭を抱えてしまいます。「ホワイト企業すぎて辞める」という現象を理解するときのキーワードが“成長予感”です。

若者が早期に辞める三大要因

 私は、これまで約400人の早期に離職した若者へインタビュー調査を実施してきました。その調査から、若者が早期に辞めることには以下の三つの不足が関係していることを突き止めました。

①存在承認:自分の存在や能力を、周囲が認めてくれているか

②貢献実感:自分の働きが、社会・社内・お客様の役に立っていると実感できるか

③成長予感:現在から未来に向けての成長に対する予感があるか

 ホワイト企業すぎて辞める若者は「成長予感不足」の典型です。成長予感とは、今の仕事を続けることでなりたい自分になれるのかどうかという感覚。つまり、成長予感不足とは、今の仕事を続けてもなりたい自分になれないという感覚の表れです。
 成長予感不足の広がりは、大手企業の新卒3年以内の離職率(早期離職率)からも見てとれます。

大手企業の早期離職率が上昇傾向

 毎年厚生労働省が発表する新規大卒就職者の離職率。2022年10月に発表された就職後3年以内のデータ(早期離職率)では31.5%です。これはほぼ例年どおりの水準であり、20年前(1999年卒34.3%)と比べても低くなっています。つまり、今の若者は昔に比べてすぐ辞めるわけではありません。一方で、大企業に限ると事情が異なります。
 [図表1]は企業規模別の早期離職率の推移を表したものです。1000人以上の事業所は2009年の20.5%以降、上昇傾向にあります。一方で全体平均と100~499人の事業所では、2009~2011年までは上昇していますが、その後は横ばい状態が続いています。
 [図表2]では、全体平均と1000人以上の事業所の早期離職率の差の推移を表しています。この図表からも大企業のほうが早期離職率は上昇傾向にあることが分かります。

[図表1]大卒者の就職後3年目までの離職率-事業所規模別の推移

資料出所:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」より作成([図表2]も同じ)

図表2 大卒者の就職後3年目までの離職率-全体平均と1000人以上の差

今どきの若者は安定志向のはずなのに、成長を求めるという事実

 大企業の早期離職率が上昇傾向にあるのとは裏腹に、今どきの若者は安定志向といわれます。マイナビの大学生就職意識調査によると、2020年卒の学生以降「仕事選びの基準」の第1位は「安定している会社」が続いています。リクルートキャリアの就職みらい研究所の「働きたい組織の特徴」調査でも、大学生の約8割が安定的な企業を好む傾向が報告されています。安定している会社を好むのに大企業の早期離職率が上昇傾向にあるという一見矛盾した現象も成長予感不足と考えると理解できます。

成長とは、どこに行っても通用する能力を身に付けること

 やや極端な表現ですが、今どきの若者にとっての成長とは、会社から求められるスキルを習得して出世することではなく、社外に出ても通用するスキルを身に付けることです。つまり、成長予感不足とは、今の仕事を続けても社外(要するに転職市場)で評価されるスキルが身に付けられないと感じている状態です。
 大企業でも黒字リストラが進み、40代・50代社員もリスキリングが必要といわれる環境の中、若手社員たちはしたたかに自分のキャリアを考えています。だからこそ成長予感は重要なのです。

SNSの普及に伴い成長予感不足はさらに加速

 では、企業内で成長予感が不足する理由はどこにあるのでしょうか。
 成長予感不足の最大の理由は、上司や先輩が魅力的でないからです。憧れの先輩やロールモデルの不在ともいえます。身近に憧れる人がいない一方、SNSの普及によって、いわゆるインフルエンサーとの交流は容易になりました。SNSのフォロワーが多いインフルエンサーと、他社では通用しなそうに見える上司。どちらに憧れるかは明白です。成長予感を高めるには、“キラキラした”上司や先輩の存在も大切なのです。

成長予感不足への最大の対策は上司が「リア充」になること

 SNSのインフルエンサーがライバルだからと、上司がSNSをやる必要はありません。ポイントは上司の社外活動の充実です。リクルートマネジメントソリューションズの「上司の社外活動に関する意識調査」では、社外活動が充実している上司が魅力的と感じる20代は40.2%に対し、40代・50代管理職では32.3%と、社外活動に関する考え方に差があることがうかがえます。同調査では20代の過半数が支持した理想の上司の項目として「仕事は生活の一部であること」「早く帰ること」「人間的な幅が広いこと」などを挙げています[図表3]。このことからも、求められる上司像は仕事だけでなく生活が充実している「リア充」なのです。

 

[図表3]理想の上司(上位3項目)

資料出所:リクルートマネジメントソリューションズ「上司の社外活動に関する意識調査」(2018年)

[注]上記グラフは、「非常にAに近い」「Aに近い」「どちらかといえばAに近い」「どちらかといえばBに近い」「Bに近い」「非常にBに近い」の6肢のうち、Aが入っている回答を選んだ人の割合を表す。

 上司のリア充化のためには管理職も含めた勤務時間(残業時間ではない!)削減やリモートワーク推進、副業解禁なども検討の余地があるでしょう。管理職層に対するキャリア観の醸成なども必要です。どれも人事・労務領域においては今話題のテーマです。
 これらのテーマは一つひとつ独立しているのではなく、早期離職も含めてすべてつながっています。だからこそ、人事・労務部門が全体感を持って各種施策の見極めと改善を進めなくてはいけないのです。