2022年11月21日掲載

キャリアマンス2023に寄せて - (2022年版 第2回・完)50代のセカンドキャリアの支援 ~ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の観点から~

垂水菊美 たるみ きくみ
株式会社キャリアンサンブル 代表取締役
一般社団法人あしたの働き方研究所 理事
一般財団法人ACCN会員

毎年11月は「キャリアマンス」です。
キャリアマンスとは、すべてのキャリア支援職が所属団体・領域を越え、「自律的なキャリア形成が当たり前となる社会」の実現を目指して社会の課題に立ち向かい、【チェンジエージェント】としてのキャリア支援職が一丸となって輪を広げる特別な月間です。
今年の「キャリアマンス2022」に向けて、その事務局を務める一般財団法人ACCNの会員であるキャリアコンサルタントのご寄稿を全2回でお届けします。

1.私がセカンドキャリアを支援する理由

 私はキャリアコンサルタントとして、「多様な人が共に生き生きと働き、成長する社会づくり」をテーマにダイバーシティ&インクルージョン(D&I)※1の観点で活動をしている。特に、企業や自治体で働く50代が自分らしいセカンドキャリアを築けることを目的にした研修やキャリアカウンセリングを実施するために、多様な観点からさまざまな専門家と連携したプロジェクトを展開している。

※1 多様性、包摂性のこと。近年では、公平性を加えてダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)ともいう

 2021年4月に改正高年齢者雇用安定法が施行され、生涯現役・生涯貢献という機運が高まっているが、キャリアカウンセリングで会う50代からは、セカンドキャリアへの不安、自分と向き合う機会もないまま定年を迎え、なんとなく時が進んでいきそうな戸惑いや諦めが感じられる。また、企業においてダイバーシティコミュニケーションに関する研修の中で、50代の人たちが、下の世代に遠慮をする姿も見かける。押し付けにならないように意見を控え、ハラスメントと言われるのではないかと不安を抱えているように感じることもある。こうした状況では、50代の人たちが、これまでの経験で培った知識や技能が適切に伝承されず、組織にとっても機能不全に陥るのではないかと危惧する。
 一方で、企業はシニア社員のモチベーションやパフォーマンスの低下、マネジメントの難しさを経営課題として挙げることが多い。こうした課題を解決するためには若い時代から、社員一人ひとりが、自分のセカンドキャリアの多様性を知ること、組織における働き方を柔軟に考えること、そしてお互いを公平に認め合うこと、まさにダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の観点が個人と組織の両方に必要である。
 個人と組織の成長のためには、心理的安全性の下、互いの強みを出し合い、相乗効果を生み出していく意識を持つことが求められる。そして、これから増えていくシニア世代へのセカンドキャリア支援は、ウェルビーイング※2な社会をつくる力になると考えている。

※2 個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念

2.セカンドキャリア支援で目指すこと

 私が関わるある自治体の50代のセカンドキャリア支援プログラムでは、複数回の講義やキャリアカウンセリングを、さまざまな領域の専門家が集まってプロジェクトチームで実践している。
 プログラムの参加者は、一つの組織にずっと勤務してきた方、転職経験者、多くの企業を経験した派遣社員、専業主婦を経験した後にキャリアを再開された方など、それまでの働き方や生き方が多様な人材で構成されている。共通点は、セカンドキャリアに備えようと自ら手を挙げ、一歩前に進んでいるということ。しかし、何が自分らしい幸せなのか、どの方向に向かったらよいのか、不安や焦りを抱えているといった状況を受けて参加を決めた人たちである。
 こういった参加者のセカンドキャリア支援において、私が指針としているのは、「自己信頼」「役割意識」「成長意識」に気づいてもらうことだ[図表]。「自己信頼」とは、キャリアオーナーシップ※3を持ち、これからのキャリアを自ら描くという自覚。社会で生き生きと活動する自分をイメージすることでもある。
 「役割意識」とは、コミュニケーションを見直すことであり、多様な人と互いの良さを引き出す関わりを通じて、対話をする人になることを指す。「成長意識」とは、社会へのアンテナを高く張り、これからも適応力を上げ、学びを止めないことである。

※3 個人一人ひとりが「自らのキャリアはどうありたいか、如何に自己実現したいか」を意識し、納得のいくキャリアを築くための行動をとっていくこと(経済産業省 中小企業庁「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」〔人材力研究会〕報告書)

[図表]これからのステージへ三つの意識

   資料出所:筆者作成

3.セカンドキャリア支援プログラム設計のポイント

 プログラムでは、キャリアに関しては「キャリアの棚卸し(経験をマルチサイクルに捉える)」「キャリア資産としてのポータブルスキル」「健やかに柔軟に生きるセルフマネジメント」「社会環境の理解と多様な働き方」「キャリアデザイン力の向上」などを実施している。そのほか、「マネープラン」「介護」「社会課題との向き合い方」など、セカンドキャリアを考える上で必要な領域の情報を提供している。
 運営上のポイントは、参加者同士によるワークを多く取り入れることである。ワークは、互いを理解することや対話スキルの向上、そして仲間との絆づくりが大切で、仲間同士の対話を通して、同じ世代の多様な生き方への興味と共感、同じ時代を生き抜いた一体感を醸成することを目指す。そのためには、安心して自己開示できるよう、参加者にとって安心安全な場をつくり、個々のプログラムの狙いや内容、留意点などを丁寧に説明することを重視している。
 並行して行うキャリアカウンセリングでは、個人が自分としっかりと向き合う機会をつくる。自分のこれまでのキャリアを自分の言葉で語ることで自己理解が進むことを目指している。情報を提供するだけでなく、その情報が必要な背景に目を向けることが重要となる。

4.実践の手応えと今後の提案

 プログラムが進むにつれて、参加者の表情は明るく変化していく。これまでさまざまな転機に自らが適応してきたエネルギーに気づき、今後も「なんとかなる」という自信を持つ人は多い。また、これまで影響を受けた人や転機となる出来事に感謝し、改めて自らの夢に気づく人もいる。「こうあらねばならない」という意識から解放され、多様である自分を受け入れて、自分らしさを再確認していく。「自分のことをより深く知る」という自分と向き合う学び直しによって、前に進む力を高めていく様子を見ることができる。D&Iの観点が50代のセカンドキャリア支援に活きていることを感じる。
 今後、50代のセカンドキャリア支援では、組織内と組織外の両方で、さまざまな世代の人がフラットに互いを知り合うことができる「緩やかな関係性の場」を提案したいと考えている。そうすることで組織においては、新たな人脈や、縦や横だけでない"斜めの関係"をつくり、それぞれのキャリアの広がりを感じて自分の経験や能力を活かした働き方を考えるようになる。組織を超えた集いの場では、所属する組織中心の意識から離れて、新たな関係性を構築し、そこで自分らしさに気づき、能動的な学び直しへとつなげられると考えている。その結果、自分自身のウェルビーイングとは何かを真剣に考える機会につながっていくことが期待できる。
 経済産業省が、ダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」としているように、多様性を知り、それを受け入れる必要性は、今後の企業経営において、個人にも組織にも求められていることだろう。
 私は、キャリアコンサルタントやさまざまな専門家と連携し、キャリアオーナーシップを持ち、D&Iの観点を活かして、社会へ働き掛けていくことで、個人と組織の双方に貢献していきたい。

垂水菊美 たるみ きくみ
株式会社キャリアンサンブル 代表取締役
一般社団法人あしたの働き方研究所 理事
一般財団法人ACCN会員

国家資格2級キャリアコンサルティング技能士、キャリアカウンセリング協会認定スーパーバイザー、2級ファイナンシャル・プランニング技能士。食品メーカーと化粧品メーカーで営業職および人事教育の実務とマネジメントを担った後、2012年に独立。キャリア自律とインクルーシブな職場づくりを目指して、年間100回以上の登壇、300人以上のキャリアカウンセリングに従事し続ける。2020年、大人の発達障がいの周辺支援をする一般社団法人あしたの働き方研究所の理事に就任。2022年、株式会社キャリアンサンブルを設立し、専門家と連携したプロジェクトワークを推進中。

社会でキャリアを考えるイベント

「キャリアマンス2022」(一般財団法人ACCN主催)の2022年のテーマは「学び直しとキャリア」です。キャリアコンサルタントでなくても参加できるイベントも掲載されています。ぜひ、下記サイトをご覧ください。
 https://careermonth.wixsite.com/2022