2022年08月25日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第3回 上司や現場のリーダーを支援するには

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 日本経済団体連合会では、毎年「人事・労務に関するトップ・マネジメント調査」を実施している。直近の調査は、2022年1月に公表された「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」(以下、2021年調査)である。半年ほど前の調査だが、今回は、これを紹介したい。

2.今後重視したいキャリア支援制度

 同調査は、2021年9~11月に、経団連会員企業の労務担当役員等を対象に実施したもので、労使交渉等の状況のほか、働き方改革、エンゲージメントなどさまざまな項目を聞いている。2021年調査では、その最後に「その他」という項目があり、「今後重視していきたい能力開発やキャリアパスを支援する制度」(複数回答)を尋ねている。その結果を見ると、「社内のキャリア面談の活用(人事部門、上司等)」(68.0%)、「社内公募制度」(52.3%)が飛び抜けて多い[図表1]

[図表1]今後重視していきたい能力開発やキャリアパスを支援する制度(複数回答)

資料出所:日本経済団体連合会「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」

 調査では、社内のキャリア面談は人事部門、上司等によるものとされている。キャリア面談というからには、目標管理面談とは別のものであろう。また、このところ導入企業が増えてきた1on1ミーティングなども含まれているとみられる。
 本稿は、1on1ミーティング自体を取り上げるものではないが、少しだけ説明すると、1on1ミーティングは、本間(2017)によると、「"わざわざ定期的に"上司と部下との間で行う1対1の対話」である。日本では、ヤフー株式会社が導入したことをきっかけに広く知られるようになった。経験学習の研究で有名な松尾(2015)によると、1on1ミーティングには、「傾聴し、質問し、それを承認するスキル」が必要で、これが不足すると、単なる業務報告や上司の説教になってしまうという。

3.キャリア面談に必要なスキル

 1on1ミーティングといった形でなくても、人事部門、上司が行うキャリア面談には、「傾聴し、質問し、それを承認するスキル」が求められる。能力開発やキャリアについての知識も必要である。また、人事部門、上司は、従業員から見れば、自らの評価に関わる立場の人間であり、よく見られたいと思うのが普通である。すぐに安心して何でも話せるようにはなりにくい。その一方で、人事部門、上司は、社内の能力開発施策や社内のキャリアパスについて、ある程度知っている。さらに、当然のことながら、従業員が就いている仕事についての知識は豊富である。仕事の割り振りを見直したり、仕事の環境を整えたりすることもできる。
 面談で必要なスキルのうち、「傾聴」は、今や、人事パーソンにとってよく耳にする言葉の一つだろう。傾聴とは、「よく聴く」ことだが、時間をかけて話を聞けばよいというものでなく、相手の話を言葉どおりに聞くというものでもない。相談者を独自の存在として尊重し、共感的に聴くということであり、相談者が何を言いたいのかを積極的に感じ取ろうとすることである。「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」「自己一致」といった基本的態度が必要だが、このうち「無条件の肯定的配慮」は、先ほど出てきたスキルの「承認」に当たるものでもある。「共感的理解」は、相手の主観的な見方、感じ方、考え方を相手のように見たり、感じたり、考えたりすることにより、相手が何を言いたいのかを理解することである。「自己一致」は、相手に隠し立てをしないということである。
 傾聴に当たっては、自由に答えられる「オープンクエスチョン」、「はい」「いいえ」で答えられる「クローズドクエスチョン」を用いることができる。先ほど出てきたスキルの「質問」である。また、相手が考えを明確化し、まとめられるよう、「(最小限度の)はげまし」で話を促し、「いいかえ」で聴き取った内容を示し、「要約」することにより、相手が考えをまとめられるよう支援する。

4.学び・学び直しを進める上でのリーダーの役割

 前回取り上げた「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」(以下、ガイドライン)では、管理職等の現場のリーダーたちが、学び・学び直しを進める上で「鍵」となるという。
 職場において学び・学び直しを進めるためには、企業が目指すビジョン・経営戦略の浸透、学びの方向性・目標の擦り合わせ、伴走的支援を的確に行うことが必要である[図表2]

[図表2]学び・学び直しを促進するための取り組み

労働者の学び・学び直しを促進するためには、労使が「協働」して取り組むことが必要となる。特に、以下の①~④が重要である。

①個々の労働者が自律的・主体的に取り組むことができるよう、経営者が学び・学び直しの基本認識を労働者に共有

②管理職等の現場のリーダーによる、個々の労働者との学び・学び直しの方向性・目標の「擦り合わせ」や労働者のキャリア形成のサポート。併せて、企業による現場のリーダーへの支援・配慮

③キャリアコンサルタントによる学び直しの継続に向けた労働者に対する助言・精神的なサポートや、現場のリーダー支援

④「労働者相互」の学び合い

資料出所:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン(令和4年6月策定)概要」

 ガイドラインでは、中小企業などの現状を踏まえ、「(管理職等の)現場のリーダー」とし、この現場のリーダーが、学び・学び直しを進めるに当たって重要な役割を担うとしている。そして、企業に対し、この現場のリーダーに、①ビジョン・経営戦略や人材開発方針の理解、学び・学び直しの重要性の理解を促すことや、②マネジメント能力の向上支援、部下の人材開発にあてる時間確保のための配慮などを求めている。また、現場リーダーに、人材開発の視点に立って、個々の労働者との双方向のコミュニケーションを強化することを求めている。
 ガイドラインでは、推奨される取り組み例についても示している。現場のリーダーの役割と取り組みに関しては、定期的な1on1ミーティングの実施や、傾聴の実施、キャリアコンサルタントの活用、時間面での配慮、把握した課題の改善を経営層に提案することなどを掲げている。また、現場のリーダーのマネジメント能力の向上・企業による支援に関しては、求められる能力・スキルの明確化と習得支援、カウンセリングやコーチングの技法を学ぶ機会の提供、定期的な研修や経験共有の場の提供など単発でない支援、人事評価基準への反映などに加え、現場のリーダーのサポート役や、現場のリーダーと労働者との仲介役として、キャリアコンサルタントを活用できる環境を整備することなどを掲げている。

5.キャリアコンサルタントの活用

 先の経団連の2021年度調査で、「社外のキャリア面談の活用(キャリアコンサルタント等)」の項目を選んだ労務担当役員等は8.5%と限られている。社外の専門家(キャリアコンサルタント)は、面談に必要なスキルやキャリアについての知識はあるが、従業員が就いている仕事についての知識は限られ、直接できることも限られている。しかし、管理職の負担は増大しており、「管理職が効果的に役割を果たすことを可能にする仕組みづくり」が求められている(坂爪、2020)。そのような中、キャリアコンサルタントには面談以外にも、ガイドラインが推奨するような上司や現場のリーダーのサポート役や、彼らと労働者との仲介役としての役割なども期待できる。キャリアコンサルタントから聴き取りを行う中で、面談を行う上司らに必要なスキルについて説明し、身に付けてもらった例なども聞いている。節目に行う定期的なキャリアの棚卸しなどに加え、サポート役、仲介役として、支援人材としてキャリアコンサルタントの活用について考えてみることも有効ではないだろうか。

【引用文献】

・本間浩輔(2017)『ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法』ダイヤモンド社.

・厚生労働省(2022)「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」.

・松尾 睦(2015)『「経験学習」ケーススタディ』ダイヤモンド社.

・日本経済団体連合会(2022)「2021年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」.

・坂爪洋美(2020)「管理職の役割の変化とその課題――文献レビューによる検討」『日本労働研究雑誌』No.725, 4-18.

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会理事、人材育成学会理事、経営情報学会理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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