2022年07月07日掲載

“心理的安全性が高い”チームの新たな視点 - 第4回 心理的安全性を高めるフォロワーシップ

青島未佳 あおしま みか
一般社団法人チーム力開発研究所 理事
九州大学 人間環境学研究院 学術研究員

1.はじめに

 心理的安全性という言葉がバズワードになり、さまざまな企業で取り入られる中、改めて伝えたいことは、われわれが目指す組織は"学習する組織"であるということだ。心理的安全性は、快適な、居心地の良い職場づくりではなく、学習を促進できる「厳しい」職場づくりである。その概念は、[図表1]のとおりである。

[図表1]心理的安全性と責任の視点から見たチームイメージ

 [図表1]の左上の"快適な"組織をつくることはそれほど難しくない。なぜならば、リーダーは達成基準を下げ、部下との対話を重視し部下を褒め、承認し居心地の良い組織をつくればよいのだ。実際に心理的安全性を高めようとすると、組織の達成基準を容易に下げられる職場・チームの場合は、簡単に左上の"快適な"組織になってしまうことが多い。
 エドモンドソンは、その著書『恐れのない組織』(英治出版)の中で心理的安全性の誤解の一つとして、「心理的安全性は、達成基準を下げることではない。野心的な目標を設定し、その目標に向かって協働するのに有益」と述べている。ともすれば、心理的安全性を誤解すると、リーダーが部下に配慮しがちになり、言うべきことも言えない、その結果達成基準を下げるということにつながりかねない。

 もちろんアプローチの一つとしては、左下の「無関心な組織」から左上の「快適な組織」という過程を通じて"学習する組織"を実現するチームも存在する。急がば回れの理屈だ。
 チームづくりの基盤である"コミュニケーション"がないと、成果を上げるチームはつくれない。土台をつくってからというアプローチはチームづくりの王道であるし、筆者らの研究からも実証されている[図表2]

[図表2]心理的安全性とチームパフォーマンスの関係性─筆者らの研究モデル

 しかしながら、実際のビジネスの世界ではそうはいかないことも多い。急がば回れの理屈は通用せず、リーダーも達成基準を下げられず、プレッシャーにさらされている職場では、本来は[図表1]の右上の「学習する組織」に行きたいが、右下の「不安な職場」にとどまってしまうことが度々みられる。
 この解決策の一つとしては、リーダーおよびメンバーが、職場やチームの達成すべき目的を明確化して共有し、その目標を自分の中に取り込むことである。一人ひとりがその目的に動機づけられなければ、プレッシャーを下げられない職場において、不安な職場から学習する職場への変革は遂げられないだろう。
 そして、リーダーのリーダーシップはもちろん重要な要素であるが、上司も部下も(役割を超えて、対等な関係で)リーダーシップを発揮すること、今回のテーマであるフォロワーシップの発揮がその鍵となる。

2.チーム・リーダーシップとは

 改めてリーダーシップとは、何だろうか。リーダーシップとは、「方向性やビジョンを提示し、同じ方向に向かって周囲を動機づけ、目標を実現していく」影響力だ。この影響力は、決定権・責任を持つリーダーだけでなく、立場に関係なく発揮できるものである。一般的に"リーダーシップ"というと、リーダーや上司が発揮するイメージがあるが、ここでのチーム・リーダーシップはそうではない。
 エドモンドソンが提示している研究成果のメタ分析[図表3]では、チーム・リーダーシップが心理的安全性の先行要因となっているが、このチーム・リーダーシップには、リーダーだけでなく、メンバーのリーダーシップも含まれている。メンバー自身もリーダーシップを発揮することが、心理的安全性を高めるために必要ということである。

[図表3]心理的安全性と集団レベルの諸変数との関係性

資料出所:Edmondson, A. C., & Lei, Z. (2014). Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 1(1), 23-43.を筆者が邦訳

 心理的安全性を阻害する対人不安は、組織心理学の評価懸念の一種であり、お互いがお互いに対してどう感じ、どう接するのかという人間同士の相互作用が重要である。
 近年、心理的に安全な職場はリーダーがつくるものであるという風潮がある。組織において心理的安全性の必要性が叫ばれる中、心理的に安全な職場はリーダーがつくるべきであり、メンバーはつくってもらうという規範が出来上がってしまうことは大きな問題である。
 もちろん、特に権威勾配が高い組織においては、リーダーの影響力は絶大なため、リーダーの行動や働き掛けは重要であるし、部下が主体性をもって取り組める環境をつくることはリーダーの役割ではあるが、部下が"口を開けて待っているだけ"では、"優しい職場"は実現できても、"学習する組織"にはたどり着けない。
 前回の連載「"心理的安全性が高い"チームのつくり方 第1回」でも伝えたが、心理的安全性がある職場とは、一人ひとりが自分の意見・主張を持っているということであり、決して受け身の姿勢ではない[図表4]

[図表4]心理的安全性をベースとして目指すべきチーム・組織の状態

①一人ひとりが自分の意見・主張を持っている

②①の意見をチームやメンバーに表明でき、相手の意見に対して違う意見がある場合については、その意見を伝えられる(=上司でも部下でもNoはNoと言える)

③お互いの意見の相違について、その内容を受け止め、組織の目標達成に向けて最も合理的な選択をした上で話し合いができる

④相手の意見を否定したりしても、後々、そのことで対人関係が悪くなったり、評価が下げられたり、人格的な攻撃を受けたりしない

3.フォロワーの発言の重要性

 一方で、これまでの心理的安全性やリーダーシップ研究において、フォロワー(部下)はあくまでも受動的な存在として位置づけられ、フォロワーに焦点が当たることは多くなかった。現在においても、フォロワーが心理的安全性の結果指標となることはあっても、先行指標(原因)となる研究はほとんどない。
 一方で、フォロワーシップ研究の権威であるロバート・ケリーは、フォロワーシップの重要性を説く中で、組織の成功に対してリーダーの平均的貢献度は20%であり、残りの80%はフォロワーが握っていると言っている。数値の妥当性はいかにせよ、心理的安全性が高いチームづくりに向け、リーダーがサーバント的(組織に奉仕する)に行動する中では、フォロワーシップが欠かせない要素となる。
 なぜならば、リーダーがサーバント的になることは、意図的にチームの中の権威勾配を低くすることにつながるからだ。もちろんVUCAの時代であり、現場の声や意見が重要だからこそではあるが、リーダーの権威勾配を低くするということは、必然的にメンバーの発言力・責任性が増すことにつながる。メンバーの発言力が増えれば増えるほど、当然ながら、その影響力は増してくる。だからこそ、メンバー自身が責任をもって、組織の目標達成に向けた率直かつ有益な意見を言う努力が欠かせない。

4.心理的安全性づくりに他責になりがちなフォロワーの意識

 しかしながら、特に権威勾配が高く、心理的安全性が低い組織・チームに属しているフォロワーにとって、これまで自身の建設的な意見が受け入れてもらえなかったり、貢献を公平に認められなかったり、何を言っても変わらなかった・無駄だったという経験則から、いまさら心理的安全性をつくろうと言われても、どうせ何も変わらないという諦めの境地に陥ってしまっていることが多々みられる。このような組織では、フォロワーは結局のところ、心理的安全性はリーダーがつくるもので、自分たちが働き掛けても実現できるものではないという固定観念が存在する。
 心理学の用語に「ローカス・オブ・コントロール(Locus of Control)」という言葉がある。これは、行動やその行動によって起きる結果が、自分の力でコントロールできるのか(自己統制・問題解決思考)、それとも外的な力によってコントロールされているのか(環境・他者依存思考)という認知様式である。自己統制・問題解決思考のメンバーが多いほど、チームの成果は高いことは明らかである一方で、心理的安全性が低い組織では、環境・他者依存思考になってしまっていることが多い。
 特に、組織の中で中間管理職は、リーダーとフォロワーの双方の立場であるが、フォロワーの視点になった瞬間に、ベクトルが自分に向かず他責になりがちになる。心理的安全性について調査・研究している筆者ですら、この思考の罠(わな)に陥っていたことに気づいた瞬間があった。知らず知らずに組織の悪しき風土や落ち度に対して、自分よりも上のリーダーの責任にしているのである。"心理的安全性は権限を持つリーダーが変わらなければいけない、ビジョンを示して安全基地をつくるべきだ"というように。
 このような思考でいると、他者依存的になり、人間の自律性の欲求が満たされず、ストレスがたまる。筆者の経験上も、できることから始めて、リーダーの良きフォロワーになること、リーダーのセキュアベースになろうと決めた瞬間から、その気持ちは前向きになり、実際にストレスは軽くなった。
 硬直的な組織の中でも、フォロワーになったときに、他責にしない、自分が組織を変えることにコミットするという姿勢・意識転換は組織にとっても自分にとっても極めて重要だ。

5.フォロワーシップのタイプ

 では、フォロワーとなったときに、われわれはどのような思考・行動が求められるのだろうか。ロバート・ケリーは、フォロワーのタイプを批判的思考と積極的関与という2軸で分類し、五つのタイプを示している[図表5]
 批判的思考とは、自分で考え、建設的な批評を行うことであり、積極的関与とは、自らイニシアティブをとり、オーナーシップを引き受け、自発的で、担当業務以上の仕事をすることである。

[図表5]フォロワーシップの五つのタイプ

資料出所:ロバート・ケリー著 牧野 昇訳『指導力革命』プレジデント社(1993年)

 当然ながら、チーム成果を上げるフォロワーシップは、[図表5]の右上の模範的フォロワーである。この模範的フォロワーは、単なる批判ではなく、建設的な提言をリーダーに行いながら組織に貢献できる理想的なフォロワーである。『指導力革命』の書籍では、20問の質問によって自分が[図表5]のどのタイプに属するかを診断できるが、20問は心理的安全性が高い組織づくりに向けてフォロワーにとってもらいたい項目となっている。
 しかしながら、おおよそ心理的安全性の低い職場では、順応型フォロワーか孤立型フォロワーにとどまってしまっているのが実態だ。特に権威勾配が高い組織に多くみられるのは、順応型フォロワーや実務型フォロワーである。

6.心理的安全性をつくるために、フォロワーに求められる行動

 順応型・孤立型・実務型のフォロワーから模範的フォロワーになるためには、具体的にどのような意識、行動をとるとよいだろうか。特に心理的安全性が高いチームをつくるための心構えととるべき行動を幾つか言及したい。

[1]発言することは、自身の役割・責任だと認識する
 第1に、改めて発言することは組織の中でメンバー自身の責任であると、メンバー一人ひとりが捉えることだ。もちろん心理的安全性がないから、発言したくてもできないと訴えるメンバーもいるかもしれない。しかし、前述したとおり、心理的安全性とは人間同士の相互作用によって生まれる組織の風土・規範であり、それはリーダーだけの行動でつくられるものではない。心理的安全性がある職場づくりは、リーダーだけでなく、リーダーも含めたチーム全員でつくっていくものであり、一人ひとりの責任だとメンバー自身が捉えることが第一歩である。

[2]リーダーも完璧ではないと認識し、リーダーのセキュアベースとなる
 本連載の第3回で述べたとおり、そもそも心理的安全性が高い状態とは、リーダーもメンバーも気兼ねなく発言できる状態である。そして、組織のリーダーも1人の人間であり、完璧ではない。そのような中で、メンバーがリーダーに"リーダーは答えを持っているべきである""間違いはないはずだ"と期待すればするほど、リーダーはその期待に応えようとして、完璧であろうとするだろう。しかしながら、心理的安全性をつくるために求められるリーダー行動とは、リーダーが弱みを見せ、リーダーも間違うことを積極的に示すことだ。その行動を促進するためにも、メンバーはリーダーのことを完璧ではなく、強みも弱みもある1人の人間として尊重し、メンバー自身が積極的にリーダーのセキュアベースになろうとすることだ。

[3]目的を持つ・意識する
 組織の中で達成したい目的・目標を持つことは、リーダーだけでなくフォロワーの行動促進に非常に重要である。他者の意見に異論を唱えたり、ミスやエラーを報告したときに、多かれ少なかれ対人リスクを感じることは当然であり、抵抗感は少なからずあるだろう。しかしながら、目的を達成しようとする動機があれば、上司や組織に対して言いづらいことを伝えたり、指摘する原動力となり、発言行動(Voicing)を促進できる。その発言が受け入れられれば、発言のリスクを感じることが少なくなり、好循環サイクルが回っていく。

[4]批判的思考を鍛える
 順応型フォロワーや実務型フォロワーの場合、どうせ変わらないという過去の経験則によって、さまざまな観点から自ら考え、建設な意見を生み出す批判的思考を置き去りにしていることがある。それが長年続くと、"脳みそに汗をかかない思考"が身についてしまっていることがある。
 組織の中で本当に心理的安全性を高めたいと思っているメンバーであれば、批判的な思考を身に付ける、もしくは取り戻すために自身の思考力を高めたり、専門性や知識を高めたりすることを怠ってはいけない。メンバーの意見は貴重であるが、しかし、それは思いつきや無責任な意見ではなく、(正解ではなくとも)プロフェッショナリズムを持ったメンバーが、責任をもって発言する意見でなければならない。仮に、自身の知識が少ない、専門性が低いと感じれば、それらを高める努力をし続けることが重要である。

[5]積極的関与を心掛ける
 ロバート・ケリーによれば、孤立型フォロワーは、模範的フォロワーからスタートとしているということだ。自身が不当な、もしくは不公平な扱いを受けた結果、不満を募らせて組織や上司に対して反体制となり、批判しかしなくなり、扱いにくい人物となってしまっている。特に、孤立型フォロワーは、既に持っている批判的な視点を建設的な視点に変え、しみついた不公平感から脱却する必要がある。孤立型フォロワーが、組織に居続けるという判断をするのならば、自身のためにも組織のためにも、他責ではなく、自分自身に何ができるかという前向きな思考で積極的に関与していく努力が必要だ。そのためにも、アサーションスキルを身に付けることも一案だろう。

※アサーション:アメリカで1950年代の心理療法から生まれた概念。本来人は、誰でも平等に自分の意思や要求を表明する権利があるという考え方に基づき、相手と自分の双方を尊重しながら、自分の意見や気持ちをその場に適切な言い方で表現するコミュニケーションスキルの一つ。

7.最後に

 大切なことは、ロバート・ケリーが提唱したどのタイプにいようが、全員が模範的フォロワーになれると信じることである。人は生まれながらに自律性・協調性・有能性に対する欲求が備わっている。その本能を満たすためには(自分自身のためにも)、組織の中で模範的フォロワーになることが最も有効である。
 現在、さまざまな企業やチームで、多くのリーダーが心理的安全性をつくろうと努力している。そのような機運がある中で、これまでの組織の風土や上司との関係性から、孤立型フォロワーや順応型フォロワーの振る舞いをしてきたメンバーだったとしても、臆病にならず、自ら行動し、もたらされた機会を受け止めて、フォロワーシップを発揮して後押しすることが必要ではないだろうか。

青島未佳 あおしま みか
一般社団法人チーム力開発研究所 理事
九州大学大学院 人間環境学研究院 学術研究員

慶應義塾大学環境情報学部卒業・早稲田大学社会科学研究科修士課程修了。日本電信電話㈱に入社。その後、アクセンチュア㈱、デロイト トーマツ コンサルティング㈱、㈱産学連携機構九州(九州大学TLO)、障害者福祉施設わごころの立ち上げ等を経て、2019年3月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手掛ける。
九州大学ではチームワーク研究や組織づくりを主軸とした共同研究、コンサルティング、研修・講演などを実施。主な著書に、『リーダーのための心理的安全性ガイドブック』『高業績チームはここが違う:成果を上げるために必要な三つの要素と五つの仕掛け』(いずれも共著、労務行政)がある。

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九州大学大学院 山口裕幸 監修

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