2022年07月08日掲載

「人を活かすマネジメント」常識・非常識 - 第6回 年上部下は、やる気なく変わらない?

前川孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学 兼任講師

1.高齢化社会でシニア社員が増加中

 日本企業で働くシニア社員は、着実に増えている。
 [図表1]は、この40年間の労働力人口に占める各世代層の人数の推移を表したもの。特に折れ線グラフで示した65歳以上割合は右肩上がりの顕著な伸びを示しているが、40~50代ミドル層も増加傾向にある。少子高齢化が進む中、シニア社員は増え続けるだろう。

[図表1]労働力人口に占めるシニアの比率は上昇している

資料出所:内閣府「令和4年版 高齢社会白書」2022.6.14閣議決定

 パーソル総合研究所の50~60代のシニア従業員を対象にした調査によると、「何歳まで働きたいか」を尋ねたところ、「70歳以上まで働きたい」と回答した人は50代が25.1%で、60代では41.4%。年齢が高くなるほど、働きたい年齢も延びる傾向がある。60代の半数以上が、69歳までの就業を希望。4割以上が、70歳以上まで就業を希望しているとの結果だ[図表2]
 人生100年時代。70~80代まで元気に働き続けるシニアは、もはや普通の姿である。

[図表2]就労希望年齢-60代の4割以上が、70歳以上まで就業を希望

資料出所:パーソル総合研究所 「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」

 令和2(2020)年3月に高年齢者雇用安定法が改正され、令和3(2021)年4月に施行となった。これまで企業に義務づけられていた65歳までの雇用確保が、努力義務ながら70歳までの就業確保に拡大・延長された。
 これに伴い、企業における定年の延長・廃止や再雇用等も促進され、シニア社員の割合はさらに増えるだろう。
 これは、若手や中堅の管理職が、自分よりも年上の部下を持つ可能性がより高まることを意味する。人生の先輩をいかにマネジメントするか。この悩ましいテーマは、既に上司の必須課題となっているのだ。

2.《マネジメントの非常識》定年間近の年上部下は、やる気なく変わらない!?

 では、上司は年上部下のマネジメントにどう苦慮しているのか。筆者のFeelWorksが開講する「上司力®研修」を受講した管理職から寄せられた典型的な声を紹介しよう。

【ケース1】年上部下が周囲の若手に「自分は役職定年で給料も下がり、年齢も年齢だ。仕事は"そこそこ"にしたい」と吹聴している。本人の言い分も分からなくはないので、無理を頼まず、周囲にも煩わされない負荷の低い仕事を工面した。しかし、本人はますます"やる気のなさ"を周囲にまき散らし、チームにも悪影響が及び始めた。

【ケース2】年上部下に仕事を依頼するたびに、とげとげしい態度で対応され、素直に言うことを聞いてくれない。新しい仕事のやり方にも後ろ向きだ。かつて世話になった先輩とはいえ、自分は上司としての職責があり、周囲にも示しがつかない。立場をわきまえて、変わってもらおうとすると、さらに険悪なムードになってしまい、関係がギクシャクするばかり。

 ただでさえ多忙を極め、業績目標達成のプレッシャーもある上司は、「定年間近の年上部下は、しょせんやる気がない」「頭が固くて、もう変わることなどできない」と、さじを投げがちだ。敬遠するか、さらに厳しく管理するかの二者択一に迫られる場合が多い。しかし、それでは状況は好転しないものだ。なぜか。
 真面目なシニア社員ほど、終身雇用と年功序列を前提にモーレツに働いて社内での地位を築いてきた。課長、部長という呼称が自身のアイデンティティになっている人も少なくない。役職定年は想定していたものの、いざ実際に対象者になってみると喪失感は大きく、プライドも打ち砕かれている。年下上司や後輩社員たちに腫物のように扱われると肩身も狭い。そこで「そこそこに」と自嘲気味に語るものの、仕事の目標を失い、意気消沈している人も多いものだ。継続雇用で社内での居場所は確保できても、今後の自分の仕事や役割に不安を抱き、つい自己防衛的になっているのかもしれない。
 70代以上でも働くことが一般化しつつある現代、上司にとって、シニア社員の不安や悩みは他人事ではない。複雑な気持ちに寄り添い、共に解決に向けて取り組むことは、将来の自分に向き合うことでもある。

3.《マネジメントの新常識①》給与・肩書ではなく、働きがいをプライドに換えてもらおう

 では、上司は年上部下に対し、どのような姿勢で臨むべきか。
 第1には、人生と職場の先輩としてリスペクトする姿勢と、本人の持ち味を活かす役割をつくることだ。「上から目線」で指示命令する姿勢では良い関係は望めない。役職定年者なら、職場のマネジメントで貢献してきた経験値がある。管理職経験がない場合でも、顧客やチームへの貢献実績や社会人としての豊富な人生経験に一日の長が必ずあるはずだ。
 第2に、今後の仕事について、「給与・肩書」という物差しではなく、「働きがい」という物差しで対話をしていくことだ。少し以前の調査だが、厚生労働省「高齢社会に関する意識調査」(2016年)によると、働く理由の1位を「経済上の理由」とする人は40代、50代と年齢層が高くなるほど減少する。60代では「生きがい、社会参加のため」と差が縮まり、70代では後者が逆転1位となり、80代ではさらに差が開く傾向が明らかだ[図表3]

[図表3]年齢別に見た高齢期の就業希望理由

資料出所:厚生労働省「高齢社会に関する意識調査」(2016年)

[注]「その他」はいずれの年齢層も2%未満のため、ここでは掲載は省略した。

 生きがいとは社会と接点を持ち、そのつながりの中で自分の存在意義を感じられること。しかし、これまで会社人間であった人ほど、いきなり社外で社会参加の場をつくることは難しい。まずは会社での仕事を通じて社会に参加し、貢献することによる自己効力感を持ってもらうことが現実的だ。
 定年をゴールと捉えて、給与の高さや社内での肩書でアイデンティティを保つ状態から脱却してもらおう。定年後も、生き生き働く将来像をイメージしてもらい、そこから逆算すると、今の仕事が自分の人生にどういう意味があるのかが見えてくる。何より、どんな働きがいを感じられるのかでアイデンティティを醸成できるよう、本人のマインドシフトを支援していこう。

4.《マネジメントの新常識②》年上部下のキャリア自律支援で心強いメンバーを作ろう

 人生100年時代を迎えた現在、「定年=リタイア」という認識を払拭していかなければならない。定年が見えて来た社員に必要なのはキャリア自律である。それには、現在の仕事だけでなく、定年後の働きがいや生きがいまでを視野に入れた対話が大切だ。
 上司としては、本人のこれまでの経歴や実績などを可能な範囲で把握した上で、キャリアの棚卸しと今後のビジョンを話し合うことだ。
 働くとは、文字どおり「人のために動く」こと。そして、働きがいとは「人のために動く喜び」といえる。年上部下が、これまでの仕事で働きがいを感じた瞬間は何だったかを聴いていこう。さらに、定年後の働きがいや生きがいへの思いを聴こう。そこにつながる職場内での役割分担を検討し、チームへの貢献を後押ししよう。例えば、豊富な経験を活かした若手のメンター、部署横断での調整役、難度の高い顧客対応など、さまざまな役割や組織貢献の在り方が考えられるはずだ。
 また、年上部下がこれまで管理職だった場合は、プレイヤーとしての"筋力"が弱っている可能性がある。リハビリのためのOJTや研修、自己啓発の機会も必要だろう。その支援も積極的に行いたい。かつての成功体験に拘泥せず、新たな情報や技術も学び直して取り入れるよう促そう。これはチーム成果のためだけではなく、本人が定年後も長く輝き続けるためという共通認識に立った上で話し合うことだ。
 以上の支援によってキャリア自律を意識して取り組んだ年上部下は、上司にとっての心強いメンバーになってくれることだろう。年上部下のモチベーションアップ・能力活用と、組織のイノベーション・ブレークスルーの両立も十分可能なはずだ。

前川 孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力®研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)