Point of view - 第205回 松井優子 ―障害者雇用は企業にとって負担なのか? 新たな視点から考えてみる

松井優子 まつい ゆうこ
障害者雇用ドットコム代表

教育機関で知的障害、発達障害の教育、就労に携わる。送り出した学生たちが戻ってくるのを見て、障害者雇用には一緒に働く職場の理解が必要だと感じ、企業で障害者雇用に関わる。特例子会社の立ち上げ、200社以上の企業のコンサルティングや研修に携わる。企業視点からの障害者雇用の進め方や業務の切り出し、職域開拓などを得意とする。著書に『障害者雇用を成功させるための5つのステップ』『特例子会社の設立を考えたら必ず読む本』『中小企業の経営者が知っておくべき障害者雇用』等がある。
障害者雇用ドットコムHP:https://syougaisya-koyou.com/

障害者と一緒に働くことは疲れることなのか?

 障害者雇用が多くの会社で進められている。その理由の一つとして挙げられるのが、障害者雇用促進法という法律によって、障害者雇用率が定められていることである。しかし、障害者と一緒に働くことに対しては、ネガティブな意見を見聞きすることが多い。特に、最近、精神障害や発達障害を抱える人の雇用が進んできて、一見すると障害者と分からない場合があることや、何が苦手なのかが分かりにくいこともその一因だ。「障害者雇用が企業の中で必要なことは、ある程度理解している。しかし、一緒に働いていると、理解し難い言動があったり、仕事の遂行力に課題があったりして、困っている…」という相談を受けることも多い。
 確かに障害者雇用では、今までの社員が行っていた業務をそのまま障害者に渡すことが難しい場合も多く、業務フローの見直しをする必要があったり、新たにマニュアルを作成したり、フォロー体制を考えておいたりすることが求められることもある。一般の社員を雇用するよりも時間や労力がかかることがほとんどだろう。それでも負担だけでなく組織にとってのメリットがあることに目を向けると、違った視点から見ることもできる。
 例えば、障害者雇用を進めるための理由として大きい「障害者雇用率が達成できる」というメリットだけでなく、「全体の業務フローを見直すことによって、仕事の効率化を図ることができた」「外注していたものを内製化することにより、コストを削減できた」「今まで(人材不足等で)できていない業務があったが、本当は取り組んだほうがよい業務を担ってもらうことで客先から高評価を得ることができた」など、本業に貢献することも少なくない。
 また、働き方や働く環境の整備が重視される中で、障害者のための職種開発が、結果として健康上の問題が生じた既存社員の雇用の受け皿になったという企業もあった。働く環境の整備をした結果、全従業員にとって働きやすく安全な職場になったという声も聞かれる。さらに、組織の中でのそれぞれの役割や働き方を見直すことにより、今までになかったコミュニケーションの機会が生まれて組織が活性化したり、気づきや物事の見方の変化があった、視野が広がり多様性への理解が深まった、という好影響を感じている企業もある。
 最近、プロジェクトとしてSDGsなどの取り組みを進める企業が増えてきている。従業員がボランティアやプロボノなどに取り組むことをきっかけとして、会社の中では気づかない、分からない社会課題を発見し、そこから自社のビジネスの新たなヒントにつなげようとしているのだ。結果的に、本業に貢献しつつ、会社と従業員両者の目指す方向性を一致させることにつながるケースも見られている。障害者雇用もこのような捉え方やポジショニングをすることにより、違った価値を生み出すこともできると考える。
 障害者雇用の一面を見ると、確かに負担や疲れることもあるかもしれない。しかし、いろいろな企業の障害者雇用を見てきて言えることは、障害者雇用を新たな視点で捉え直すと、組織にとって有益になっている面も多いということだ。

必要なのはマネジメントとコミュニケーション

 ただ、普段あまり接する機会のない障害者と一緒に働くのはハードルが高いと感じる人も多いだろう。このような時には、障害の特性やマネジメント方法について、事前に研修会や勉強会などを開催し、不安を取り除くようにしておくことが効果的だ。多くの企業では、事前に一緒に働く従業員の理解や協力を得るために、このような機会を設けている。
 障害者と一緒に働く人が戸惑ったり、悩んだりするのは、どのような対応をしたらよいのか分からないからだ。そのため、障害特性を知ること、障害者当人にどのような難しさがあるのか、どのような接し方が必要かといったことについて、周囲が必要な情報を知り理解すると、その不安はぐっと軽減される。また、後で問題が生じてから説明されるよりも、事前に知っておいたほうが受け入れやすく、トラブルになることも少ない。一緒に働く同僚たちの認識をそろえることで、障害者当人も働きやすくなることが多い。
 もちろん一般的な障害特性や対応方法を学んだからといって、それですべてに対応できるというわけではない。障害の種類や障害者手帳の等級が同じ場合であっても、障害や病気になった時期や経緯、これまでのキャリアなどの違い、さらには一人ひとりの状態や考え方、職場環境などによって求められる配慮も異なるからだ。そのため、取るべき対応、必要な配慮は個別性が高いものであると認識しておくとよいだろう。具体的にどのような対応が望ましいのかについては、障害当事者とよくコミュニケーションを図っていくことが求められる。
 また、障害者雇用は、単に当事者の意見を聞いて、合理的配慮を行えばよいというものではない。雇用は労働に対する対価が支払われるものであり、それには責任も求められるからだ。中には今まで社会で働く経験が限られていたり、配慮されることに慣れていたりする障害者もいる。そんなときには、社会人として当たり前に思えることであっても、それを教えたりマネジメントする必要も出てくる。
 ピーター・ドラッカーは、マネジメントは組織に成果を上げさせることであり、組織の目的は、人の強みを活かすことであると述べている。多様性のある障害者をどのようにマネジメントし、組織の中で活かせるのかを考えてみると、障害者雇用は新たな価値を生み出せる可能性をもっていると感じる。