2015年05月07日掲載

活き活きチームを創ろう!―心理学研究×企業事例による科学的検証に基づいたチームづくりノウハウ - 第1回 チームマネジメント力が競争力を左右する時代


青島未佳
株式会社産学連携機構九州(九州大学TLO)
総合研究部門 部門長

■はじめに

グローバル化・少子高齢化、M&Aなど、企業や組織を取り巻く環境が劇的に変化している現在、企業のリーダーは従来の終身雇用を前提とした中で社員・男性・日本人をマネジメントすればよい時代から、流動的な労働市場の中で非正規社員・女性・外国人などの多様な人材を育成・活用するという質の異なるマネジメントを求められる時代へ変わってきています。

このような多様な人材や働き方が求められる時代において、企業のリーダーたちにお会いすると、自分が統括する組織の成果・業績が上がらない、うまくチームをまとめられていないという課題を感じながら、具体的な解決策を見いだせないまま、暗中模索の中でマネジメントを行っています。

リーダーたちは、チームをうまくマネジメントしたいと思っている一方で、従来の延長線上のスタイルに終始しており、今の時代に適応したスタイルに対応できていないのです。

前述の課題認識の中で、九州大学と九州大学TLOでは、約10社(約380組織・計3000人)に渡るフィールドリサーチを通じて、高業績を上げている組織(チーム)とそうでない組織(チーム)にどのような違いがあるのか、高業績を上げられるチームになるためには、どのようなマネジメントが必要なのか――という問いに対して、実際のデータ分析における解析とインタビューを基に、その答えを明らかにしました。

本連載では、組織を統括するリーダーや人事・経営企画担当者が抱いている「なぜ自分のチーム(もしくは自分の会社のチーム)は業績が上がらないのか」「なぜ、チームにまとまりがないのだろうか」「どうしたら活き活きしたチームを作れるのか」という課題に対して、科学的なアプローチを基に、分かりやすく整理し、現場で活用できる処方箋を提示していきます。

[注]本研究で対象としているチームは、1チーム・3~20人程度で構成される目的を同じくした集合体であり、会社・事業部という組織単位ではないことを前提としています。

■組織のマネジメントが難しくなっている

前述のとおり、企業や企業内の職場・チームを取り巻く環境は劇的に変化しています。顧客ニーズの多様化や商品・サービスのコモディティ化やIT化が進み、特定の企業だけでなく多くの業界で、現場での柔軟な対応力、社員一人ひとりのアイデア・知恵、チームでの価値創出が企業の競争力を左右する時代が到来しています。例えば、今の時代を牽引しているGoogleやAppleなどの企業では、1人もしくは少数の卓越したリーダーのアイデア・資質に加え、カリスマ的なリーダーを支えるチームやダイバーシティに富んだプロジェクトチーム(Google GEEKのチームなど)が、その成長の鍵を握ってきました。

また、超高齢化社会・少子化・グローバル化が進む中、チームには昔と比べて女性の比率が増えたり、外国人の社員がいたり、派遣や契約社員などさまざまな雇用形態の人がいたりと、社員構成も多様化しています。ここ何年かは、エンジニアなどの技術系の職場でも総合職の女性が多くなり、その処遇や対応に苦慮しているリーダーの声も増えています。
さらに、クラウドソーシングのような形態で、社外の労働力を活用して不足する経営資源を補完したり、競争力を維持する企業も増えています。加えて、ゆとり教育・ネット依存・少子化の時代の中で育った20代が2008年から企業に入社し、現在の管理職・経営者世代とは異なる価値観を持っているメンバーも増えてきました。核家族化・少子化の影響により、幼少期に集団の規範を学びながら行動する機会をあまり得ないまま、成人する人間が増えているとも言われています[図表1]

[図表1]企業を取り巻く環境変化がチームマネジメントを複雑・高度化させている
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これまでの日本企業は、人材の均質性を求め、協調性のあるバランス感覚に優れた人材を採用し、育成することで画一的なマネジメントを行ってきました。しかしながら、事業のグローバル化やM&Aに加え、高齢者の雇用・女性の社会進出・外国人社員の活用などが進む中では、さまざまなバックグラウンドや価値観、働き方を受け入れながら、多様な人材を採用・育成・活用するという難易度の高いマネジメントが求められています。

このような中では、会社の仕組み・制度の変革だけでなく、現場のチームマネジメントに求められる“質”も変わってきます。よりマネジメントの重要性が高まる一方で、求められるレベルも複雑かつ高度になってきているのです。

■これから求められるチームマネジメントのレベルとは

九州大学の古川久敬名誉教授の考えを引用し、チームに求められるレベルを定義すると[図表2]のように整理できます。従来のように課題が明確で、予定調和で仕事を進められる環境ではレベル1の「安心チーム」やレベル2の「自律チーム」で十分対応が可能でした。しかし、現在では経営課題を解決するクロスファンクショナルチーム(多様な経験・スキルを持つメンバーを部門横断的に集めて構成するプロジェクト型チーム)だけでなく、現場のプロジェクトチームや販売・飲食店の店舗においても、知恵を出し合い改善・改革をしていくレベル3の「創発チーム」が求められています。

[図表2]課題の明確性と付加価値の源泉によってチームに求められるレベルは変わってくる
(クリックして拡大)

■"チームマネジメント"力で差別化する

要するに、以前のような日本人・男性・正社員といった“金太郎飴”的な人材で構成された同質集団で、チーム内の情報共有・報告・連絡・相談を適切に行い、相互に助け合うことで成果を出せた時代から、多様な人材で構成されたチームで、新しい方法・知識を作り出せる創発的なチームが求められる時代になっているのです。前述のとおり、今の経営環境で求められるチームを作るための“チームマネジメント”は、以前よりも工夫が必要であり、運用が難しくなっているといえます。
しかしながら、だからこそ、“チームマネジメント力”は他社・他者と差別化でき、組織の競争力の源泉となり得るのです。

チームマネジメント力を簡単に定義すると、“チームの目標に向かって継続的に改善・改革し続ける力”であり、“チーム内の相互作用を通じて、一人ひとりの能力の総和以上の成果を出す力”といえます。当然、チームマネジメント力を高めて、“チームの目標達成”や“成果向上”を目指すのですが、“現場の目標達成”や“チームの成果向上”という命題に対する企業のアプローチは、組織の戦略、仕組みの改革(業績管理の仕組みや目標管理の導入など)が重要テーマとして掲げられることが少なくありません。
しかし、会社や事業全体の戦略や仕組みも大切ですが、現場の知恵や環境変化に対応する柔軟性が重要な時代においては、多くの改善を期待できる伸びしろは、実は現場でのマネジメント方法にあります。企業が現場でのマネジメントに対する支援や改善・改革に注力することこそ、短期の業績だけでなく、長期的な競争力を確保する企業体質を作ることができるのです(現場のチームマネジメントにメスを入れるということは、単に現場が使いやすいITや仕組みを創ることではありません。現場のチームが独自で改善・改革する風土・考え方を埋め込むということです)。

当然ながらチームマネジメント力を備えた組織は、自己変革を可能としていくため必然的に環境に対応できる競争力のある組織となり得ます。要するに、チームマネジメント力で差別化するのです。

■求められるリーダーシップも変わった

このような中ではリーダーに求められるリーダーシップも、以前とは異なるスキルが必要となってきています。

“チーム内の相互作用を通じて、一人ひとりの能力の総和以上の成果を出す”ためのリーダーシップは、メンバー一人ひとりに対する部下マネジメントよりも高度なスキルが必要となります。リーダーは上記のチームマネジメント力を組織に埋め込む活動を行う主体として機能することが重要になるのです[図表3](本研究では、リーダーシップはチームマネジメント力を向上させるための一つの機能・要因として捉えています)。

[図表3]チームマネジメントとリーダーシップの関係

これからのリーダーシップは、従来のようなビジョンと方向付けを行い、適切な業務管理と動機づけを行うだけでなく、メンバー間の多様な人間関係や相互作用にも気を配り、チーム内のメンバーをつなげ、チーム学習を促進させ、それを組織内に埋め込み・継続させていくスキルが必要となります。チームも人間と同じで“生もの”なので、仕組みだけの管理ではうまくいきません。一人ひとりのメンバーの気持ちにも配慮することが大切です。
このように文字で記載すると、当たり前のことばかりで、当然やっていると感じられる方も多いかも知れません。

チームや社員のマネジメントは、会計やIT、設計などの技術・知識的なスキルと違い、その方法・やり方を教わらなくても、自分なりのやり方でできてしまい(実際はできていないことも多いのですが)、できている・うまくいっていると思い込んでてしまうことがよくあります。
しかしながら、体系立ててそのスキルを身に付けているリーダーはほとんどいません。実際に企業でのフィールドワークを行う中で、業績が芳しくないリーダーですら、自身のチームマネジメントやリーダーシップについて本質的に問題があると感じている方は半分もいませんでした。そうした結果から分かるように、基本となる“型”がないことがリーダー自身の思い込みや勘違いを助長させているのです。

これからの時代において、チームマネジメント力が自分自身の価値を高め、他者と差別化できる重要なスキルだと気が付いているリーダーは、どの程度いるのでしょうか。これまで著者がお会いしたリーダーで優秀な方はたくさんいらっしゃいますが、優秀なリーダーの方たちでさえ、チームで成果を出すための新しいリーダーシップの必要性に気づいている方はごく少数でした。

新しいリーダーシップのスキルを身に付けているリーダーの代表例として著者の記憶に新しいのは、2015年第91回の箱根駅伝で青山学院大学を初優勝に導いた原晋監督です。陸上の世界では決してエリートではなかった監督と、必ずしも一流ではなかった選手で作り上げたチームが、前年の優勝校で前評判の高かった東洋大学の記録を2分以上更新して優勝しました。
営業マンだった監督が作り上げたチームには、どのような秘策があったのでしょうか。単に監督の人間性や知恵によるものだったのでしょうか。

読者の方の中には「自分が監督になっても青山学院大学のような日本一になるチームは作れないだろう」と思っている方は多いかもしれません。しかし、監督が話している、①わくわく大作戦、②チームの人選、③自立に基づく目標管理の三つは今回の研究結果を裏付けるものであり、その考え方さえ知れば、だれでもできるマネジメント方法だと確信しています(青山学院大学の具体的な内容の紹介については、スペース上割愛させていただきますが、興味がある方は後掲の参考文献を参照ください)。

■チーム成果向上のモデルとは

では、チームとして成果を上げるには、どのような仕組み・仕掛けが必要なのでしょうか。
今回の研究では、①活動プロセス(仕組み)、②チーム構成(人)、③メンタルモデル(規範・風土)からなるフレームワークを基に調査・研究を行いました[図表4]

[図表4]チームの成果を上げるために必要な三つの要素

①活動プロセス(仕組み)
チームの成果(目標を達成し、新規課題に取り組むこと)を上げるために必要なチームの要素の一つ目は「チーム内の活動プロセスの活性度」です。この活動プロセスとは、チーム内で行われる目に見える活動です。目標設定やコミュニケーション、業績のモニタリング、情報共有などであり、これらの活動の良しあしがチーム成果を左右します。ここではどの順序で活動を行うのかという順番も大切です。

②チーム構成(人)
成果に影響を与える二つ目の要素は「チームのメンバー構成」です。当然ながらチーム構成は組織内のリソースの問題もあり、即座に改善できるものではありませんが、チーム・プロジェクト組成に活用できる処方箋を提示できるように、“どのようなメンバーがいると、チームの成果が上がるのか・下がるのか”“どのような組み合わせだと成果が上がりやすいのか”を調査しました。
今回の研究では職務の志向性(直観志向かデータ志向か、1人志向か協働志向かなど)・バックグラウンド・経験について、どのようなメンバーが多いとチームの成果が上がるか・下がるかを実際のデータで検証しています。

人材の組み合わせについては、チームの構成員が1人変わるだけで別のチームとなり、チームの数だけ多様性(組み合わせ)があるといえます。人材をタイプ別に分類し、その構成比が成果に関係するのかを統計的なアプローチで検証しました。統計的なアプローチでは客観的に証明できる結果は得られませんでしたが、実際の現場チームの観察・インタビューからメンバーどうしのスキル・タイプが相互に補完し合う体制になっているほど成果が出やすいという示唆が得られました。

③メンタルモデル(規範・風土)
三つ目の要因は「メンタルモデルの共有度」です。過去の研究からはメンタルモデルの共有度が高いチームほど、チームの成果に良い影響を与えるといわれています。今回の研究においては、チームのメンバー個々人の“働き方の志向性”をメンタルモデルとして、その共有度を調査しました。その結果、企業ごとに共有しているメンタルモデルの内容は異なりますが、一定のメンタルモデルを共有化していることは成果につながることが判明しました。

次回からは、①活動プロセス、②チーム構成、③メンタルモデルの各カテゴリーに沿って、具体的な研究成果と事例を紹介していきます。

次回からのテーマ内容は以下を予定しています。

第2回:高業績チームはどんなチームか?

第3回:チームを作るノウハウとは[第2弾]

第4回:どのようなメンバーを集めるとよい?

第5回:どのようなリーダーとなるべき?

第6回:チームマネジメントの知恵~アプリで行動を見える・継続化する


(つづく)

[参考文献]
古川久敬(2004)『チームマネジメント』日経文庫
山口裕幸(2008)『チームワークの心理学』サイエンス社
ヴィントン・サーフ(2013)『Team Geek』オーライリージャパン
酒井政人(2015)東洋経済オンライン-箱根を制した青山学院・原監督の「仕事語録」(参照2015.1.15)

青島未佳 あおしま みか
株式会社産学連携機構九州(九州大学TLO)
総合研究部門 部門長

大学卒業後、日本電信電話(NTT)に入社。その後、アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2012年1月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、人事システム導入支援、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手がけるとともに、製造業の業務改革、全社改革プラン策定、営業・マーケティング改革のコンサルティング経験を有する。