永井 由美 ながい ゆみ 永井社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士
1.賃金台帳の整備
[1]賃金台帳の作成
賃金台帳は労働基準法において調製が義務づけられている。算定基礎届、年度更新、源泉徴収、年末調整、労災・健康保険の請求、離職票の作成、助成金の申請、労基署の調査、年金事務所の調査、税務調査など多くの機会に必要となる重要な帳簿である。
[図表1]賃金台帳の調製
根 拠 | 使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項および賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払いの都度遅滞なく記入しなければならない(労働基準法108条)。 |
記載事項 |
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保存期間 | 最後の記入をした日から3年間(労働基準法109条、同法施行規則56条) |
罰 則 | 賃金台帳を作成しない、または賃金台帳に必要記載事項を記載していない場合は、30万円以下の罰金(労働基準法120条1号) |
※1 ③について、日々雇い入れられる者(1カ月を超えて引き続き使用される者は除く)は記載不要。
※2 労働基準法41条の該当者については、⑤⑥の記入が不要とされているが(同法施行規則54条5項)、41条の該当者でも深夜割増の支払いが必要であり、深夜労働時間数は賃金台帳に記入するよう指導されている(昭23.2.3 基発161)。
※3 現物給与がある場合については、その評価額を記載すること(同法施行規則54条3項)。
[2]賃金台帳の様式例
- 常時使用される労働者の賃金台帳(労働基準法施行規則55条・様式20号)
- ⇒ 東京労働局モデル様式
- 日々雇い入れられる労働者の賃金台帳(同法施行規則55条・様式21号)
- ⇒ 厚生労働省モデル様式
※必要事項が記載されていれば任意で項目を追加することも可能である。また、賃金台帳と労働者名簿を合わせて調製することもできる(同法施行規則55条の2)。
[3]チェックリスト
日々雇い入れられる者(1カ月を超えて引き続き使用される者は除く)についても調製しているか?
※日々雇い入れられる者について、労働者名簿は不要だが賃金台帳は必要である。
労働基準法41条の該当者について「深夜労働時間数」を記入しているか?
[4]Q&A
Q1 年次有給休暇取得時の記入はどうすればよいですか?
A1 通常の労働時間労働したものとみなし、休暇の日数・時間数を該当欄に記入し、その日数および時間数は有給休暇取得と分かるように別掲し括弧で囲むなどするとよいでしょう(昭23.11.2 基収3815)。
Q2 パソコンソフトで賃金台帳を調製しています。紙に印刷して保存しなければならないでしょうか?
A2 事業場ごとに印刷可能であり、かつ、労働基準監督署の臨検等で必要とされたときに、直ちに印刷して提出できるならば紙の状態で保存しなくとも構いません(平7.3.10 基収94)。
2.年次有給休暇の管理
[1]年次有給休暇とは
使用者は、その雇い入れの日から起算して6カ月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続しまたは分割した10労働日の有給休暇を与えなくてはならない。
有給休暇は要件を満たしたときに当然に権利が発生し、労働者の請求や使用者の承認は必要なく利用目的も制限されない。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、使用者は他の時季にこれを与えることができる。
[2]年次有給休暇の管理方法
(1)年次有給休暇の基準日の管理について
①年次有給休暇の付与日を個別に管理
雇い入れ後6カ月を経過した日、その後は6カ月を経過した日から起算して1年ごとに管理する。
②年次有給休暇の付与日を統一的に管理(いわゆる「斉一的取扱い」)
個々の労働者の雇い入れ日に関係なく統一的に基準日を定め、管理することも可能。この場合、勤務期間の切り捨ては認められず常に切り上げなくてはならない(詳しくはこちら)。
例:統一した基準日は4月1日だが、それより前の1月1日に雇い入れた場合
6カ月経過前であるが4月1日に初年度の年次有給休暇として10労働日を付与する。
(2)年次有給休暇の付与について
付与する単位、時季の指定、日数については以下の通り。
[図表2]年次有給休暇の付与方法
種 別 | 方 法 | 概 要 |
単 位 | 原則 (1日単位) |
暦日計算による労働日を単位とする。 ただし、労働者から半日単位で請求された場合に、半日単位で付与することは可能だが、使用者はこれに応じる義務はない。 |
時間単位 |
1年に5日分を限度として時間単位の付与が可能(詳細はこちら)。 ⇒ 就業規則モデル例 ⇒ 労使協定モデル例(届け出不要) |
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時 季 | 原則 (個人ごと) |
労働者が取得したい日の前日までに請求すれば無条件で与える(指定された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は除く)。 |
計画的付与 (事業場・部署ごと) |
付与日数のうち5日を除いた残りの日数については、使用者が時季を指定できる(詳細はこちら)。
⇒ 就業規則モデル例 ⇒ 労使協定モデル例(届け出不要) |
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付与日数 | 原則 (一般の労働者の場合) |
雇い入れ日から起算して6カ月間継続勤務し全所定労働日の8割以上出勤した労働者に対して最低10日を与える。 ⇒ 早見表 |
比例付与(短時間労働者の場合) 短時間労働者とは「週所定労働日数が4日以下または年所定労働日数が216日以下」かつ「週所定労働時間が30時間未満」の者 |
原則的な付与日数×(週所定労働日数÷5.2) ※小数点以下切り捨て ⇒ 早見表 |
(3)年次有給休暇管理簿について
労働基準法では年次有給休暇管理簿の調製を義務としていないが、調製することにより年次有給休暇の管理がしやすくなるので必要に応じて調製するとよい。
①年次有給休暇管理簿(個人別)
個人ごとに年次有給休暇の取得状況を把握するために作成する。
⇒ モデル様式
②年次有給休暇管理簿(部門別)
部門全体の年次有給休暇の取得状況を把握するために作成する。
⇒ モデル様式
(4)チェックポイント
・不可抗力による休業日
・使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日
・正当なストライキその他正当な争議行為により労務の提供がなされなかった期間
・所定休日に労働した期間
・代替休暇を取得して終日出勤しなかった日(平21.5.29 基発0529001)
(5)Q&A
Q1 「事業の正常な運営を妨げる場合」かどうかはどのように判断するのですか?
A1 その事業場の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容や性質、代替者配置の難易度、労働慣行などを考慮して総合的に判断します。日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手不足であるだけでは該当しません。
Q2 年次有給休暇の請求権の時効は2年と言いますが、どのように行使されるのでしょうか?
A2 年次有給休暇の請求権は、基準日に発生するので、基準日から起算して2年間、すなわち、当年度の初日に発生した休暇については、翌年度末で時効により消滅することになります。
[図表3]有給休暇の時効
出典:大阪労働局HP
永井 由美 ながい ゆみ 平成18年永井社会保険労務士事務所開業。年金事務所年金相談員、労働基準監督署労災課相談員、雇用均等室セクシャルハラスメント相談員、両立支援コーディネーターの経験を活かして、講師、年金相談、労務管理を中心に活動中。親の介護を通じて介護保険に興味を持ち、千葉市の介護保険関係審議会委員(平成19~22年度)を務める。著書「社労士業務必携マニュアル」(共著・日本法令) |
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