2012年12月26日掲載

名言、故事成語に学ぶ人材マネジメントの本質 - 第6回「百聞は一見にしかず」「現地現物」~人事パーソンは自分の目で、リアルな情報を集めよう!


名言、故事成語に学ぶ人材マネジメントの本質(6)
太期健三郎 だいごけんざぶろう
(ワークデザイン研究所 代表)

 人事部など管理部門のスタッフの皆さんは、どれくらい現場に足を運んでいるでしょうか? 「百聞は一見にしかず」(百回聞くよりは一回見ることに及ばない)という言葉があるように、現場に行き、自分の目で見聞きすることが大切なことは言うまでもありません。
 今回は、自分自身でリアルな情報を獲得することの大切さを考えていきましょう。

 「百聞は一見にしかず」。有名なことわざの一つです。
 「百聞」は百回聞くこと、「一見」は一回見ること、「如(し)かず」は及ばないということです。そこから転じて「人から聞くよりも、自分の目で見て体験する方が良い」という教訓を示しています。
 『漢書・趙充国伝』の中で、古代中国の王朝、前漢の将軍 趙充国(ちょう じゅうこく、紀元前137年~紀元前52年)が言った「百聞は一見に及ばない。前線は遠いので戦略を立てにくい。私自身が馬で現地に行き、戦略を申し上げたい」という言葉に由来していると言われています。

 仕事、経営の場でしばしば使われる同様の言葉に「現地現物」「三現主義」があります。
 前者の現地現物は、「現場で現物を見て、ものごとの本質を見極め、素早く合意、決断し、全力で実行する」大切さを説いている言葉で、トヨタ自動車では社員として共有すべき価値観と行動指針を明示した「トヨタウェイ」の一項として、現在も使い続けています。
 後者の三現主義は「現地・現物・現認」あるいは「現場・現物・現実」が重要であり、現場力が成果を生み出す原動力になるという考え方です。本田技研工業(通称:「ホンダ」)の基本理念として創業者の本田宗一郎さん(1906~1991年)が掲げた言葉として知られています。

■自ら足と目と耳を使ってリアルな情報を集める

 人事担当者にはさまざまな情報が入ってくるでしょう。例えば、社内から「中堅社員が伸び悩んでいる」「以前に導入した人事制度が今の事業環境、社内の状況にそぐわなくなっている」などの声が届いたとします。それらを耳にして、人事部門の中ですぐに何らかの対応を検討しようとするのは早計です。
 まずは現場へ行き、多くの社員に直接会って、話を聞くべきです。複数の拠点、部門に行き、多くの人たちの話を聞くと、さまざまな立場の人の話が立体的につながります。すると、人事に届いた情報が具体的になり、その背景や原因が分かってくるかもしれません。
 情報は大きく二つに分けることができます。「一次情報」と「二次情報」というものです。

 「一次情報」は、見たり聞いたりして自分自身が獲得した情報のことです。それに対して「二次情報」は、自分以外の他者から得た情報です。人から伝え聞いたこと、テレビ、新聞などのマスコミ情報、各種調査データなどが二次情報です。一次情報、二次情報に加え、インターネットの掲示板など発信元が曖昧、不明なものは「三次情報」と呼ばれることもあります。
 二次情報だけで判断せず、自ら現場に赴き、自分の目と耳で一次情報を集めることが大切です。「百聞は一見にしかず」は「多くの二次情報はわずかな一次情報に劣る」と読み替えることができるでしょう。

■情報を集めるだけでは足りない。やってみて、確認、評価、判断する

 自ら情報を集めるだけでは不十分です。集めた情報を基に、実際にやってみる、経験することが大切です。
 例えば、人事制度のユニークな取り組みを行っている他社事例を人事専門誌やセミナーなどで知ったとします。それを「良い制度だと思うけれど、わが社には適さない」「導入したいけれど、うちの会社では運用できない」と判断してしまうことはありませんか?
 制度を実行している会社に話を聞きに行き、導入が必要と考えれば、ある部署で部分的にトライアル運用した上で、正式に全社導入を検討してもよいでしょう。
 「百聞は一見にしかず」には、その続きがあると言われています(原典を基に後世の人が付け加えたという説もあります)。

は一にしかず
 (いくら人から聞いても、自分で見なければ本当のことは分からない)
は一にしかず
 (いくらたくさん見ても、自分で考えなけれは意味がない)
は一にしかず
 (どんなに考えても、「行動」を起こさなければ前には進まない)
は一にしかず
 (どんなに行動をするだけでなく、成果を出してこそ意義がある)

 何事も、聞く、見るだけではなく、自ら考え、行動を起こしてこそ成果につながる―――ということでしょう。

■まとめ

 執筆しながら、私自身の日常を振り返り反省して、自分の目で見聞きし、行動することの大切さをあらためて感じました。
 今回のコラムのポイントを整理してみましょう。

「百聞は一見にしかず」

1.二次情報(人から聞いたこと、外部から得た情報)だけで判断するのではなく、現場に行き、自分でリアルな情報を集めることが大切である

2.情報を得た後は、自ら行動して初めて成果が出る

 人事部の部屋から出て、現場や社外へ足を運び情報を集めることも大切ですね。

太期健三郎(だいごけんざぶろう)profile
1969生まれ。神奈川県横浜市出身。人事コンサルタント/ビジネス書作家。三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)、株式会社ミスミ、株式会社グロービスを経て、ワークデザイン研究所代表に就任。コンサルタントおよび現場実務の両者の立場で一貫して人材マネジメントとキャリアデザインに取り組む。主著『ビジネス思考が身につく本』(明日香出版社)。
ワークデザイン研究所のホームページ http://work-d.org/
ワークデザイン研究所代表のブログ http://blog.livedoor.jp/worklabo/