2012年11月09日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2012年11月

 


HRプロ株式会社/HR総合調査研究所
代表 寺澤康介 てらざわ こうすけ
(調査・編集: 主任研究員 松岡 仁)


 HRプロ代表の寺澤康介です。
 HR総研の調査結果から、今年は企業の就職ナビ離れ、学校対策強化、学内セミナーの回数増が加速すると予測していましたが、その勢いがさらに増しているようです。
 就職ナビ大手の某社からは、「就職ナビを複数掲載する企業が減り、プレエントリーの総数を重視しなくなっている」との情報が入っています。また、某大学のキャリアセンターからは、学内セミナーの申し込みが昨年対比で数十社以上増えており、参加企業数を増やしているとのことでした。採用担当者はこの流れをしっかり把握し、どのような対応を取るかが重要になってくると思います。
 今年は採用広報解禁日の12月1日は土曜日です。午前0時過ぎに一斉に就職ナビがオープンし、アクセスが集中するのは必至です。また、合同就職イベントも土日にかなり集中し、スタートラインに立たされる学生は昨年以上にパニックになるでしょう。これは決していいことではありません。企業も学生も地に足の着いた対応をしてほしいと思います。

■スマートフォン対応が求められる採用ホームページ

 前回取り上げたように、「2014年度新卒採用で特に注力する施策」では、リアルなコミュニケーションが重視される傾向の中で、「学内企業セミナー」や「自社セミナー・説明会」の後塵を拝することになった「採用ホームページ」ですが、学生への企業・仕事理解のツールとして必要不可欠であることには変わりはありません。採用広報から選考までが短期化する中で、いつでも閲覧ができる採用ホームページが果たす役割は依然として大きいと言えます。

 また、採用ホームページの内容はもちろんのこと、もう一つ大事なことがあります。それは、学生が採用ホームページを見る環境の変化です。学生が利用する携帯電話は、世の中の動き以上のスピードでスマートフォンへ移り変わっています。受付開始後すぐに満席になってしまう企業のセミナーや説明会の申し込みをするためには、場所や時間を選ぶことなく利用でき、すぐに起動するスマートフォンがなくてはならないツールとなっているからです。学生のスマートフォン利用は、セミナー申し込み時だけでなく、通常のWEB閲覧やメールのやりとりにも及んでいます。
 今年6月に楽天「みんなの就職活動日記」が調査した就活学生のスマートフォン利用率[図表1]と、就職活動におけるPCとスマートフォンの利用頻度割合[図表2]を見てみましょう。スマートフォン利用率を、13年卒と12年卒の学生データで比較してみると、携帯電話が63.1%→32.6%なのに対して、スマートフォンは47.8%→75.7%へと急増しています。2014年卒の学生の利用率はさらに伸びていると推測されます。また、PCとスマートフォンの利用頻度割合では、理系はまだPC利用の割合が高くなっていますが、文系ではスマートフォンの利用がPCよりも多いと回答している学生が過半数となっています。
 スマートフォンからも通常のWEBサイトの閲覧はできますが、最近大きくなってきているとはいっても、PCに比べればとても小さな画面でいちいちスクロールや拡大をしながらの閲覧は大変不便です。より多くの学生にアクセスしてもらえるよう、PC用のホームページだけでなく、スマートフォン専用の採用ページを用意することを検討されてもよいでしょう。最近では、PC用のWEBページを自動的にスマートフォン専用のWEBページに変換してくれるサービスなどもあります。


■文系に人気のある採用ホームページの特徴

 HR総研と楽天は共同で、2013年度新卒学生4000人を対象に、企業の採用ホームページについてのアンケートを行いました。以下に、学生から寄せられた生の声を紹介しますので、自社の採用ホームページ見直しの参考にご覧ください。
 まず、文系学生の人気第1位となったのは電通でした。主な理由をピックアップしてみます。

●電通
・仕事内容もイメージしやすく、親切な印象。そして働きたいと思う魅力が感じられた(上位私大)
・自分のやりたいことがなんでも実現できるように感じさせる魅力的なホームページだった。視覚的にもカラフルで好き(旧帝大)
・見やすくて、利用しやすかった。音声も活用されていて、企業の良いイメージが伝わってきたから(その他国公立大学)
・遊び心のあるPOPなデザインで、「入社したい!」と誰でも思ってしまうような仕掛けになっている(早慶クラス)
・さすが広告の巨塔とあって、センスもあり、見ているほうが飽きずに企業研究しようと思える工夫が多かった。また、早い時期から社員紹介を多数掲載してくれたので、社風のイメージがしやすかった(早慶クラス)
・事例が多かった(早慶クラス)
・サイト自体が、私たち就活生をわくわくさせるようなつくりで、まさに人の心を動かす仕事ができるんだと確信したから(上位私大クラス)
・仕事内容が丁寧に書かれていた(その他私立大学)

 広告業界の最大手にふさわしいデザイン性と、情報量の多さが高い評価を受けています。掲載する情報も、学生が仕事を具体的にイメージできるようにさまざまなプロジェクトを事例として取り上げ、単なる社員紹介にとどまらないリアリティが伝わる内容になっています。非常に手間のかかる構成ではありますが、学生の仕事理解、共感醸成に大きく寄与しています。登場する社員も幅広い部門や職種を網羅しており、事業領域の広さを実感できます。
 デザインも他社とは明らかに異なるPOPで鮮やかなものになっています。学生が一目見たときに「他社とは違う!」と感じられることも重要な要素です。

 その他、文系学生の人気上位を見てみると、2位 日本郵政グループ、3位 三菱東京UFJ銀行、4位 Plan・Do・See、5位 全日本空輸(ANA)となっています。ちなみに、全日本空輸は昨年1位、Plan・Do・Seeは昨年3位でした。それぞれの選択理由を見てみましょう。

●日本郵政グループ
・実際に行った説明会と同じスライド、動画をWEBで見ることができたから(その他私立大学)
・説明会の資料やプレゼン映像がHPからでも見ることができ、家に居ながら企業研究ができたから(上位国公立大クラス)
・現在の自分の選考状況が分かりやすく表示されているから(中堅私大クラス)
・セミナー、選考についての情報が見やすかった(早慶クラス)
・使いやすかった。選考フローなども見やすかった(上位私大クラス)
・多くの先輩社員がピックアップされており、将来のイメージがしやすかったから(中堅私大クラス)
・社員インタビューの数が多く、実際の仕事に対するイメージがつきやすかった(中堅私大クラス)
・日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険など、それぞれの会社ごとの紹介が分かりやすいと感じたため(その他国公立大学)

 説明会の映像や資料が見られるようになっており、参加できなかった学生はもちろんのこと、参加した学生も繰り返し見ることで、より企業理解の促進につながるようになっています。せっかくの説明会コンテンツはその場限りではなく、WEBでの二次利用もぜひ検討されてはいかがでしょうか。データ容量の大きい映像は「YouTube」等にアップして、採用ページからその画面へのリンクを設定するだけで、快適な閲覧環境を学生に提供することができます。
 また、日本郵政グループで評価されたのは、選考フローが分かりやすく紹介されているだけでなく、自分の現在の状況がどの段階なのかも明示されている点です。現在の状況はともかく、選考フローについては詳しく紹介しておきたいところです。

●三菱東京UFJ銀行
・見やすく、社内の雰囲気が細かく書かれていたからです(上位私大クラス)
・職種ごとの社員の紹介があり、夢が膨らんだ(中堅私大クラス)
・女性向けのコンテンツがあり、仕事理解に役立った(上位私大クラス)
・女性限定コンテンツがあり、他企業よりも女性の働き方について詳しく載せていたため(中堅私大クラス)
・他企業と比較して圧倒的に印象に残った。採用ホームページを開くと、音楽が流れ、視覚的・聴覚的に引きつけられる(上位私大クラス)
・硬派でグローバルに展開する、かっこいい銀行というイメージがよく伝わった(上位国公立大クラス)
・シンプルで見やすく、企業の規模を感じさせるような、壮大なホームページになっていたからです(上位私大クラス)
・仕事に対するドラマ感の演出がうまく、仕事をもっと知ろうと思えたから(早慶クラス)
・社員がどんな想いで働いているのかが分かり、熱さが伝わってきたから(中堅私大クラス)

 黒を基調としたデザインの中央部にメインメッセージ「偉業への挑戦」が表示され、オープニングムービーが展開される、印象に残るつくりになっています。掲載情報も、職種紹介や案件プロジェクトを通じて「仕事を知る」コーナー、行員にスポットを当てながらそれぞれの仕事を通じての思いを感じる「行員を知る」コーナーなど、事業フィールドや仕事にかける行員の想いが伝わる構成になっています。
 また、仕事と家庭の両立施策などを紹介する「Women's Style Gallery」は、女子学生にとっては非常に大切な情報であり、多くの支持を集めています。

●Plan・Do・See
・レイアウトが初めてみるものだった(上位私大クラス)
・採用ページとは思えないくらいおしゃれだった(その他私立大学)
・さすがイベント企画というだけあって、すごく華やかで、意欲をさそるような内容だったため(上位国公立大クラス)
・社員全員が明るく、生き生きとして仕事をしている印象を受けたから(その他私立大学)
・企業の説明や仕事内容は調べてあることが前提でなにより会社や人の雰囲気や想いを伝えようとしてくれていたから(その他私立大学)
・仕事内容やさまざまな職種の方のインタビューが掲載してあり、自分のやりたいことやビジョンが分かった(その他私立大学)

 高級リゾートホテルと見間違えるような採用トップページに始まり、全体のデザインが他社とは明らかに異なり、一度訪れたら印象に残るつくりになっています。デザインにこだわると、人間味の感じられないサイトになりがちですが、趣向を凝らしたさまざまなブログにより、ひと肌を感じられるのが特徴です。

●全日本空輸
・個性や人柄など採用の基準を明確にしているので(上位私大クラス)
・志望度が高く、また人気企業であり説明会をフォローする内容が含まれていたため(その他国公立大学)
・社員の方の生の声がたくさん掲載されているし、「夢を持って頑張ろう!!」と元気をいただけたので(上位国公立大クラス)
・業界の情報までも分かりやすく載せてくれていたから(上位私大クラス)
・サイト自体がシンプルで見やすく、使いやすく、企業研究・仕事研究がしやすいように準備された特別ページも工夫されていると感じたから(上位私大クラス)
・職種別のページが用意されていて大変使いやすかった。キャリアプランや先輩社員の声を掲載してくれていたので、キャリアビジョンを描きやすく、入社意欲が高まった(上位私大クラス)

 自社のことだけでなく業界についての情報を掲載することで、その業界志望者にとってなくてはならないサイトにすることができます。業界全体を盛り上げる意味でも、業界の魅力付けから始めるのもよいでしょう。
 入社後のキャリアプランや実際の社員のキャリアステップなどの情報は、キャリアビジョンを描く上で非常に大切な情報になります。

■理系に人気のある採用ホームページ

 理系では、カゴメと本田技研工業が同数で1位となっています。それぞれの選択理由を見てみましょう。

●カゴメ
・先輩社員のコメントなどが多く、とても温かい社風であると感じたため(旧帝大クラス)
・企業理念が分かりやすく表現されていたから(旧帝大クラス)
・取り組みや企業の想いが伝わった。写真が多く、イメージしやすかった。社員の声も多く掲載されていた(その他国公立大学)
・事業内容や製品の説明に写真を使って説明していることが多かったので分かりやすかった(その他国公立大学)
・カゴメらしさが出ていたと思います。HPの雰囲気と、説明会の雰囲気があっていた(旧帝大クラス)
・社風がよく伝わってきた。実際に社員の方とお会いして感じた印象とギャップがあまりなかった(上位私大クラス)
・一般的な採用サイトのコンテンツに加え、エントリーシートの書き方などのアドバイスが役に立った(旧帝大クラス)

 「企業理念に共感できた」や「社員とのギャップがない」など、他社サイトではあまり見られないコメントが多く寄せられています。企業が持つ理念、イメージを素直に学生に伝えることに成功していると言えます。社員紹介では、研究部門、技術系部門、営業部門、スタッフ部門、海外部門と部門別に、管理職、中堅、若手、新人、内定者と総勢90人も紹介しています。
 エントリーシートの書き方など、就活支援的要素も学生には評判がいいようです。

●本田技研工業
・企業が持っている技術が分かりやすかった(旧帝大クラス)
・ホンダの情熱が伝わってきたため(その他私立大学)
・コンテンツ数が多く見やすかったため(上位国公立大クラス)
・ページが見やすく知りたい情報がどこにあるのか分かりやすかった(上位国公立大クラス)
・分かりやすい、見やすい、説明会が先着ではなく抽選(旧帝大クラス)
・会社のブランドイメージが企業の採用ホームページにも反映されていることが感じられたから(その他私立大学)

 見やすくて、知りたい情報にすぐにたどりつけるという声が多く見られました。サイトとしての基本的なことですが、コンテンツが増えてくると意外とこの観点が抜け落ちてしまいがちです。注意したいですね。
 「Hondaのこだわり」「Hondaの原点」では、同社の理念をストレートに伝えようとしています。表面的なことではなく、理念に共感できる学生を集めるためには必要なことだと思います。

 その他、理系学生の人気上位を見てみると、3位は野村総合研究所とNTTデータ、5位は昨年1位だったソニーとなっています。それぞれの選択理由を見てみましょう。

●野村総合研究所
・学生が知りたい情報がいっぱい掲載されているから(上位私大クラス)
・提供している情報量が一番豊富だったから(旧帝大クラス)
・有益な情報が多い(その他国公立大学)
・独自のインターフェースで、感覚的に理解しやすい構成。セミナー予約がしやすかった(上位私大クラス)
・企業に関する情報が非常に多く掲載されており、企業研究を行う上で非常に参考になったためです。また、ホームページの色どりが鮮やかですてきだと感じたことも理由の一つです(旧帝大クラス)

 とにかく企業に関する情報量、しかも学生が欲しいと思う情報の網羅性を評価する声が多くなっています。セミナー情報の見つけやすさと予約のしやすさも重要なポイントです。

●NTTデータ
・100名以上の現場社員の方の意見が見られたため(上位私大クラス)
・得たい情報が記載されていた点と、どういった人物を企業が欲していているのかが分かりやすかった(上位私大クラス)
・サイトの使い勝手がよく、社員の声など必要な情報も多く掲載されていた(旧帝大クラス)
・行っている事業内容が分かり、未来の自分のビジョンを見据えることができたため(その他国公立大学)
・次に押さなくてはいけないボタンや連絡等が分かりやすいデザインだった(上位私大クラス)
・社員アンケートがあったから(その他国公立大学)

 プロジェクトや社員メッセージという表現方法だけでなく、社員アンケートという形式も社員のタイプをイメージする上で、学生にとっては非常に有益な情報と言えます。単なる集計結果だけでなく、社員のフリーコメントなども散りばめられているとよりイメージしやすくなるのではないでしょうか。

●ソニー
・デザインが非常にきれいであった。さすがはソニーだと感じた(中堅私大クラス)
・デザインが見やすくて、動画や写真を多く使われていたから(旧帝大クラス)
・たくさんの情報が分かりやすく載っていたため(エントリーシートの内容が開示してあったことや職種の分かりやすい説明が大きなポイント)(上位国公立大クラス)
・エントリーシートの書き方のアドバイスなども記載されていたから(旧帝大クラス)
・求めているものとその理由がしっかり書いてあったように思えるから(旧帝大クラス)
・ウェブサイトのトップページが格好良く印象に残りやすいつくりで、コンテンツも分かりやすかったから(早慶クラス)

 デザインを評価する声が多く見られましたが、職種紹介の分かりやすさなどのコンテンツの充実も支持されています。よりリアルに企業や仕事を感じてもらうためにも、動画コンテンツの掲載も効果的です。

 人気のあるホームページに共通するのは、
○デザインの良さ(見栄えだけでなく、情報のありかの分かりやすさ)
○企業理念、企業イメージを表現している
○仕事、社員の想いをリアルに感じられる
○選考フローの明示、セミナー申し込みのしやすさ
○学生の視点に立ったコンテンツ
と言えます。これらの基本をぜひ押さえた上で、さらに貴社独自の切り口のコンテンツを盛り込めるとよいでしょう。

 今回、例に挙げたサイトの中には、すでに2014年卒向けに切り替えられている企業もありますが、まだ2013年卒向けのコンテンツを閲覧可能なサイトもあります。ぜひ一度チェックしてみてください。


110506terazawa_pic.jpgのサムネール画像寺澤 康介 てらざわ こうすけ
HRプロ株式会社 代表取締役
HR総合調査研究所 所長

86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(現HRプロ)を設立、代表取締役に就任。約20年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
http://www.hrpro.co.jp/