2019年04月12日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2019年4月


ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介
(調査・編集: 主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 4月1日には、多くの会社で入社式を行われたことと思いますが、皆さんの会社では採用計画どおりの採用はできたでしょうか? HR総研では、3月18~27日にかけて、企業の採用担当者を対象とした「2019年&2020年新卒採用動向調査」を実施しましたが、今回は初めて、本年入社者の最終の採用(内定)状況についても聞いてみました。3月1日に解禁されたばかりの新卒採用の活動状況に先立ち、まずはこちらの結果から紹介いたします。

2019年卒を計画どおり採用できた企業は3割以下

 3月下旬時点での、2019年卒採用計画数に対する有効な内定者数の割合(内定充足率)を聞いてみたところ、「100%以上」と回答した企業は、全体で27%にとどまり、最も多かったのは「90~100%未満」の29%という結果になりました[図表1]。計画に対して9割以上ではあるものの、残念ながら100%には到達しなかった企業が3割もあったということです。

[図表1]2019年新卒採用計画数に対する有効内定者数の割合

資料出所:HR総研/ProFuture「2019年&2020年新卒採用動向調査」(2019年3月、以下図表も同じ)

 近年は、「厳選採用」の名の下、採用基準や自社への熱意にこだわり、無理してまでも採用計画数字を達成しようとする動きは減ってきています。それがこの数字に表れているのではないでしょうか。中には、いったんは採用計画数字に到達していたものの、遅めの内定辞退者が発生したことで、ぎりぎり採用計画数に対して未達になってしまった企業もあるかもしれません。学生が内定を受け取る社数が増える傾向にあり、必然的に、それに比例して内定辞退の数も増える傾向となっています。
 さて、企業規模別に見てみると意外な結果が出ています。「100%以上」と回答した企業の割合は、300名以下の中小企業で30%、301~1000名以下の中堅企業で33%なのに対して、1001名以上の大企業は16%と、最も少なくなっていることです。ただ、大企業では「90~100%未満」の割合は43%と他の企業規模よりも高く、両者を合わせた「90%以上」の割合で見てみると、大企業は59%となり、中堅企業の61%にはわずかに及ばないものの、中小企業の54%よりは多くなっています。
 一方、「70%未満」の企業の割合で見てみると、大企業はわずか8%なのに対して、中堅・中小企業はいずれも16%と2倍になっており、中小企業に至ってはそのうち半分の8%が内定者ゼロと回答しています。企業規模による明暗が分かれたともいえますが、これまでの採用担当者向けの調査では、中堅企業の苦戦ぶりが毎回あぶり出されていたことを考えると、その差はそれほどでもありません。採用活動の後半戦で、地道な採用活動を続けた中堅企業が盛り返しに成功したということなのでしょうか。

内定者フォローよりもインターンシップ重視の大企業

 今回初めて、施策区分別に見た採用予算の状況について聞いてみました[図表2]。こちらで採用予算を「インターンシップ」「母集団形成(ナビ、合説等)」「広報物(採用HP、パンフ等)」「自社セミナー・リクルーター」「選考(検査、ES判定、面接等)」「内定者フォロー」「アウトソーシング・その他」の7区分に分けて、金額規模の上位3項目を選んでもらったところ、いまでも「母集団形成(ナビ、合説等)」のための予算を挙げた企業が最も多く、すべての企業規模が7割前後で並びました。次いで多かったのは、「広報物(採用HP、パンフ等)」でしたが、こちらは大企業の56%に対して、中小企業は36%と開きがあります。中小企業では、それよりも「選考(検査、ES判定、面接等)」のほうが38%で高くなっています。

[図表2]2019年新卒採用で予算が多かった項目(上位三つまで複数回答)

 企業規模別で特に特徴的なのは、大企業では「インターンシップ」に予算を投下している企業が多いのに対して、「内定者フォロー」に予算を投下している企業は少ないということです。もっとも、それぞれの企業の中で予算規模の大きい項目の上位を選んでもらっていますので、あくまでもバランスの問題ではありますが、中堅企業や中小企業では「インターンシップ」よりも「内定者フォロー」に予算が投下されていることと対照的になっています。

「増やす」企業は昨年よりも大幅に減少

 ここからは2020年新卒採用についての調査結果をご紹介します。まず、採用計画数の対前年比を聞いたところ、「未定」とする企業はあるものの、すべての企業規模で今年も「増やす」が「減らす」を上回る結果となりました[図表3]

[図表3]2020年新卒採用計画数の対前年比

 ただし、中堅・中小企業では、「増やす」とする企業が「減らす」とする企業より10ポイント以上も多いのに対して、大企業では「増やす」と「減らす」のポイント差は5ポイントにとどまります。また、「増やす」とする企業も19%しかありません。前年の同時期調査では、大企業は「増やす」とする企業が38%もあったのに対して、「減らす」とした企業はわずか3%しかなく、その差が35ポイントもあったことを考えると、ここ数年「学生の超売り手市場」「企業の求人難」と叫ばれていた新卒採用の需給バランスが、大きな転換点を迎えているように感じます。
 帝国データバンク「TDB景気動向調査」(2019年3月調査)では、「国内景気は4カ月連続で悪化」「12業種すべての景気DIが50を下回る(製造業)」とした上で、「国内景気は、製造業の悪化やコスト負担増などがマイナス材料となり、一部で後退局面に入った可能性がある」と結論づけているように、不透明感は一層強まっています。景気動向は採用計画にすぐに反映されるので、今後の動向に注目する必要がありそうです。

「インターンシップ」と「自社セミナー」がより重要に

 次に、2020年新卒採用において、より重要になると思われる施策を聞いたところ、トップは「インターンシップ」で44%、次いで「自社セミナー・説明会」が42%で続きました[図表4]

[図表4]2020年新卒採用でより重要になると思う施策(複数回答)

 上位の2項目と3位の「自社採用ホームページ」(30%)の間には大きな開きがあり、リアルな接触による動機付け、企業理解を重視していることが分かります。かつて上位を占めていた「学内企業セミナー(3月以降)」(24%)は4位に転落し、ほぼ同数で「学内企業セミナー・OB/OG懇談会(2月以前)」(22%)が続く形になりました。
 年々、インターンシップを契機にした早期化に拍車がかかっており、3月からの「学内企業セミナー」や「就職ナビ主催の合同企業セミナー」ではもはや遅く、学生集客に苦労しているケースが多くなっているようです。そのため、大学でも2月までに「企業(業界研究)セミナー」や「OB/OG懇談会」を開催して、学生がリアルに企業と接点を持てる機会を創出するようになってきています。
 もう一つの注目点として、「逆求人(オファー型)サイト」(18%)と「リファラル採用」(15%)の躍進があります。今回の調査では、ついに「逆求人(オファー型)サイト」が「就職ナビ」(16%)を逆転しています。ただ、これは従来からの「就職ナビ」よりも「逆求人(オファー型)サイト」が活用されるということではなく、あくまでも対前年で考えた場合に、「より重要になる」ということです。「リファラル採用」が「就職ナビ主催の合同企業セミナー」(13%)よりも上位となっているのも同様です。2020年新卒採用から新しく始めることを具体的に記入してもらったところ、「インターンシップの強化」「オファー型採用」「ダイレクトリクルーティング」「LINE」といったコメントが寄せられています。

大企業の3分の1はインターンシップ予算を拡大

 [図表2]では、2019年新卒採用での予算上位の項目を選択してもらいましたが、今度は2020年新卒採用で予算が増えそうな項目を選択してもらいました[図表5]。企業規模を問わず、ほぼ同じ傾向となったのは「予算が増えるものはない」とする企業で、いずれも3分の1以上の企業が回答しています。

[図表5]2020年新卒採用で予算が増えそうな項目(複数回答)

 いずれかの項目を選択した残り3分の2の企業を見ると、企業規模による若干の差異はありながらも、最も多かったのは「インターンシップ」で、大企業では35%の企業が挙げています。もともと予算を投下している企業が多い大企業ですが、さらに予算を増やしている企業が多いということになります。これまでは3月1日から解禁される就職ナビや合同企業セミナーに割いていた予算を、それでは遅いとばかりに前半戦の中心施策である「インターンシップ」に大きくシフトしていると推測されます。
 その他、大企業で予算が増えそうだとしているのは「アウトソーシング・その他」(22%)です。応募者のデータ管理やメール配信、セミナー・面接の予約受付業務など、採用業務を外部にアウトソーシングしている大企業は少なくなく、もちろんアウトソーシングの内容によるコストの増減はありますが、それよりも委託期間の変動によるコストへのインパクトのほうが大きいものです。インターンシップの実施により、委託期間が長期化する企業が増えているものと推測されます。
 一方、これまで力を入れていた(予算をかけていた)「広報物」については、予算が増えるとする企業は8%と少なく、逆に中堅企業(20%)や中小企業(19%)のほうが多くなっています。中小企業では「母集団形成(ナビ、合説等)」を挙げる企業が22%と、「インターンシップ」に次いで多くなっています。企業理解の前に、企業を認知してもらうことから始める必要があるということなのでしょう。

4月までに半数の企業がエントリーシート受け付けを締め切る

 ここからは、皆さんが気になる「時期」をキーワードにして、調査結果を見ていきたいと思います。まずは「エントリーシートの締切時期」です[図表6]

[図表6]エントリーシートの締切時期

 複数の締切日を設けている場合には、最終締切日を基準に選択してもらったところ、全体で最も多かったのは「2019年4月」の28%で、次いで「2019年7月以降」の26%が続きます。「2019年7月以降」は、当然複数回の締切を設けている企業ということになります。中堅企業では、「2019年3月」とする企業と「2019年4月」とする企業がともに20%で多く、中小企業では「2019年4月」とする企業が37%と突出して多くなっています。「2019年4月」までに締め切る企業で見てみると、比較的「2019年6月」や「2019年7月以降」が多い大企業では44%ですが、全体ではほぼ半数となります。
 続いて、「自社セミナー・説明会の開催時期」を見てみましょう[図表7]。自社セミナー・説明会を「開催しない」とする企業は意外にも大企業で多く、24%にも達しています。ほぼ4社に1社は自社セミナー・説明会を開催していないことになります。就職ナビや自社ホームページ、合同セミナー等で情報を発信し、「エントリーシート(適性検査)から面接」ということなのでしょう。「インターンシップから面接」というパターンもありそうです。

[図表7]自社セミナー・説明会の開催時期

 中小企業では自社セミナー・説明会を開催しない企業がさらに多く、30%にも及びます。学生を一堂に自社セミナー・説明会に集めるのではなく、個別に面談形式で説明している企業も多そうです。一方、中堅企業で自社セミナー・説明会を開催しない企業は10%にとどまり、全企業規模の中で最も少なくなっています。
 自社セミナー・説明会の開催ピークは「2019年3月」で、全体で57%、中堅企業に限れば8割近くにも達します。次いで「2019年4月」「2019年5月」と続きますが、いずれも中堅企業の開催率が他の企業規模を20ポイント近く引き離しています。「2019年7月以降」にも自社セミナー・説明会を予定している企業は、2割ほどしかありません。大企業では16%と最も少なくなっています。

7割近い大企業が3月までに面接を開始

 次に「選考面接の開始時期」を見てみましょう[図表8]。面接の開始時期として最も多いのは「2019年3月」で、全体の30%になります。大企業の32%、中小企業の23%に対して、中堅企業では43%と突出して多くなっています。全体で次いで多いのは「2019年4月」で、全体の18%になります。

[図表8]選考面接の開始時期

 大企業の動きを見てみると、「2019年3月」「2019年4月」に次いで多いのは、「2018年10月以前」と「2019年2月」でともに11%もあります。「2019年3月」までに面接を開始した企業を合計してみると、大企業は68%と7割近くに達し、中堅企業の65%とは大差はないものの、中小企業の51%よりもはるかに多くなっています。

内定出しでも大いに先行する大企業

 次はいよいよ「内定出しの開始時期」です[図表9]。株式会社ディスコの調査によれば、「4月1日時点の内定率はすでに26.4%に達し、前年から7.6ポイント上回る」とか、「10連休となるゴールデンウイーク前に内定を出し始める企業は51.4%で、前年から6.2ポイント高まる」と発表されていますが、その実態はどうなのでしょうか。ゴールデンウイーク前に内定を出すかどうかを調べた上記の調査は1月28日~2月6日に行われており、そこからさらに進んだ状況での今回の調査結果は、より実態に近いものになっているはずです。

[図表9]内定出しの開始時期

 内定出しの開始時期として最も多かったのは「2019年4月」で、全体の24%、大企業も同じく24%になります。全体では、次いで「2019年5月」(18%)、「2019年3月」(17%)と続きますが、大企業だけを見てみると「2019年5月」はわずか8%しかなく、逆に「2019年3月」は19%と全体よりも多くなっているほか、「2018年12月」が11%、さらには「2018年10月以前」と「2018年11月」がともにすでに5%もあるなど、全体よりも前倒し傾向が見て取れます。「ゴールデンウイーク前に内定を出し始める」、つまり「2019年4月」までに内定を出し始める企業を合計してみると、「面接の開始時期」と同様、大企業の先行ぶりが如実に表れます。全体では55%ですが、大企業ではそれよりも10ポイントも高い65%に達しているのです。ちなみに、中堅企業が55%、中小企業は51%ですから、大企業の突出ぶりが分かります。「ゴールデンウイーク前に内定を出し始める」企業の割合を押し上げているのは、大企業にほかならないということです。
 経団連の指針の廃止はあくまでも2021年卒採用からであり、今年の2020年卒採用ではまだ指針は継続されているはずですが、実質的にはもはや「廃止」と言っても過言ではない状況になっています。今年ですらこの状況ですから、正式に「廃止」となる来年はどんな状況になるのでしょうか。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
http://www.hrpro.co.jp/