2026年05月01日掲載

問題研究 - 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における「年間賞与」の正しい見方・使い方

労働経済・労働統計専門家
白石栄司

【編集部より】
自社の賃金水準の検証や給与制度の設計、賃金改定を行う上で広く利用されている統計調査の一つとして、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」があります。しかし、同調査中の「年間賞与」データを活用する際にはあまり知られていない大きな留意点があり、これを踏まえずに自社賃金の検証等を行うと、誤った結論に至る可能性があります。そこで、労働経済・労働統計分野の専門家である白石栄司氏に、同調査における「年間賞与」の正しい見方・使い方について解説していただきます。

「年間賞与」には “1年未満の賞与” も含まれている

 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」は、毎年6月分の給与について、「きまって支給する現金給与額」と時間外手当等の「超過労働給与額」を調査するとともに、前年1年間に支給された賞与・期末手当などの特別給与額も調査しています。賞与については、調査票において「年間の支給額であり、毎月支給されるものは含みません。3カ月を超えて算定されるものは含みます」と記載されています。ここでは、賃金構造基本統計調査における賞与は「年間の支給額」である点を押さえておいてください。また、この賞与は、報告書では「年間賞与その他特別給与額」として統計値が掲載されています。
 この「年間賞与その他特別給与額」(以下、年間賞与)について、報告書の用語説明では次のように記されています。

昨年1年間(調査前年の1月から12月までの1年間。ただし、調査前年の1月2日以降において雇用された調査労働者のうち、7月1日以前に雇用されたものについては、雇用の日から1年間、7月2日以降に雇用されたものについては、雇用の日から調査年の6月30日までの期間)における賞与、期末手当(いわゆるボーナス)等の特別に支払われた給与の合計額をいう。
(以下略)

 注目すべきは、「ただし」以下の部分です※1。まず、1月2日以降7月1日以前に採用された労働者については、調査対象期間が若干ずれるものの、賞与は「年間の支給額」を調査しています。しかし、7月2日以降に採用された労働者についてはどうでしょうか。調査期間は1年未満となるために、「年間の支給額」とは言えない賞与が「年間賞与」に含まれてしまうのです。

※1 これらは「調査票の記入要領」に基づき記入することが指示されています

 具体例として、4月に入社した新規学卒者を考えると、前年1年間の賞与欄には、その年の4月から6月までの3カ月間に支給された賞与が記入されることになります。
 賃金構造基本統計調査の「年間賞与」を利用する際には、この点を理解しておく必要があります。しかしながら、多くの利用者はこの事実を知らないままデータを使用しています。利用者が「年間賞与」に求めているのは、本来1年間に支給された賞与の総額であり、“1年未満の賞与” の支給額を含んだ数値ではありません。以下では、“1年未満の賞与” を含めない、より純粋な「年間賞与」を求める方法について説明します。

“1年未満の賞与” はどれだけ存在し、「年間賞与」の平均額にどう影響しているのか

 まず、「年間賞与」の中に本来の “年間の支給額” ではない賞与がどの程度含まれているのかを確認します。以下で使用するデータは、令和7年賃金構造基本統計調査の結果です。
 労働者数は令和7年6月末時点ですが、「年間賞与」は原則として令和6年1月から12月までの1年間の支給額を指します。
 [図表1]は年齢階級別の労働者数を “勤続年数計” と “勤続年数0年” で比較したものです。勤続年数0年とは勤続年数1年未満を意味し、この層の労働者は “1年未満の賞与” の額を記入することになります。勤続1年未満の労働者数は総数2892万人のうちの23万人で、割合は8.0%です。年齢階級別に見ると、19歳以下が62.9%、20〜24歳が31.1%と非常に高い割合を占めています。これは、この年齢層に新規学卒者が多く含まれていることを示しており、同時に「年間賞与」の中に3カ月程度という短期間の賞与が多く含まれていることを意味します。

[図表1]年齢階級別勤続年数計・勤続年数0年の労働者数[男女計・学歴計]

図表1

資料出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和7年)より筆者作成([図表2~4]も同じ)

 次に、勤続年数0年の賞与額はどの程度の水準にあるかを、[図表2]の勤続年数階級別「年間賞与」で確認します。年齢計で見ると、勤続年数0年の賞与額は6万4600円で、勤続1~2年が54万6900円、3~4年が76万5600円、5~9年が87万1500円と、勤続年数が⻑くなるほど「年間賞与」の水準は高くなっています。ただし、勤続0年と1~2年との差は非常に大きく、1~2年を100とした場合、0年は12にすぎません。特に若年層ではこの差は顕著で、19歳以下では5、20~24歳では6と著しく低い水準となっています。
 勤続0年は1年未満の支給額であるため、1年間の賞与額と比べて低くなるのは当然です。特に若年層では新規学卒者が多く、支給対象期間が3カ月程度と極めて短いため、その水準が著しく低くなってしまうのです。

[図表2]年齢階級・勤続年数階級別年間賞与その他特別給与額[男女計・学歴計]

図表2

1年間で支給された純粋な「年間賞与」を求める

 このように、「年間賞与」に “1年未満の賞与” が含まれていることは、統計数値に大きな影響を及ぼします。そのため、勤続年数0年に該当する “1年未満の賞与” を除外した、より純粋な「年間賞与」を把握する必要があります。
 報告書の統計数値には、“1年未満の賞与” を含めていない「年間賞与」の数値もあります。それが、勤続年数1年以上の労働者に関する数値です。[図表2]に示されている勤続年数1年以上の各階級の値がこれに該当します。また、年齢1歳刻みで表章した標準労働者※2の統計表でも、勤続年数1年以上の年齢層の「年間賞与」には “1年未満の賞与” は含まれていません。

※2 標準労働者とは、学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者を指します。高校卒の場合は18歳入社のため、19歳以上の「年間賞与」には1年未満は含まれません。大学卒の場合は22歳入社に加えて23歳入社も標準労働者となるため、“1年未満の賞与” が含まれないのは24歳以上の標準労働者となります

 そこで、勤続年数1年以上の各階級の「年間賞与」の数値を用いることで、1年間支給分のみを反映した賞与の推計値を求めることができます。[図表3]は、年齢計の「年間賞与」と労働者数を勤続年数階級別に示したものです。この表から、勤続年数1年以上の「年間賞与その他特別給与額(B)」を労働者数による加重平均で算出します。表中の記号を用いると、下の式のようになります。なお、数値のない「-」は0として計算します。

画像1

 この「B」が、“1年未満の賞与” の支給額を含まない「年間賞与」の推計値となります。

[図表3]勤続年数階級別に見た年間賞与その他特別給与額、労働者数[男女計・学歴計]

図表3

 そして、[図表4]が男女別・年齢階級別・学歴別の “1年未満の賞与” の支給額を含まない「年間賞与」の推計結果となります。ただし、ここでは学歴別は高校卒と大学卒のみを示しています。
 男女計・年齢計についてみると、1年未満を含む公表値が100万9600円であるのに対し、1年未満を除外した推計値は109万1900円となり、その差は8万2300円に達します。これは全体平均での差ですが、新規学卒者の割合の高い若年層では、さらに大きな乖離(かいり)が生じています。特に、学歴別に見ると、入社時期を含む年齢階級での差が最も大きく表れています。

[図表4]男女別・年齢階級別・学歴別年間賞与その他特別給与額(公表値と推計値)[企業規模計(10人以上)]

図表4

“1年未満の賞与” の存在を多くの人に広める

 賃金構造基本統計調査は、月例賃金や年間の賞与の実態を、男女別・年齢別・学歴別など多様な労働者属性ごとに明らかにする貴重な統計であり、賃金や賞与の世間相場を把握する際に広く利用されています。また「年間賞与」については、その数値自体が参照されるだけでなく、労働者の年収や生涯賃金を推計する際の基礎データとしても活用されています。
 しかし、現行の「年間賞与」には “1年未満の賞与” が含まれているため、世間相場として利用される場合には、年間賞与の水準が実際よりも低く算出され、結果として労働者の労働条件を不利に導く可能性があります。さらに、年収や生涯賃金の推計に用いられる場合には、推計結果が過少となってしまいます。
 こうした点を踏まえると、[図表4]に示されているように、“1年未満の賞与” を除外し、純粋に1年間の支給額を反映した「年間賞与」の推計値は、推計値ではあるものの、より実態に近い数値として積極的に活用されるべきだと考えます。
 「年間賞与」に関する根本的な問題点は、その中に “1年未満の賞与” が含められているという事実が、利用者間でほとんど認識されていないことです。筆者としては、本稿を通じてこの点が広く知られるようになることを強く期待しているところです。

白石栄司 しらいし えいじ
労働経済・労働統計専門家

1971年に労働省(現・厚生労働省)入省。1990年日本労働研究機構(現・労働政策研究・研修機構)主任研究員(労働経済研究担当)。1992年労働省政策調査部統計調査第二課長(賃金構造基本統計調査を担当)、1995年統計調査第一課長、2000年静岡労働局長。2001年厚生労働省を退職。その後日本労働研究機構研究主幹等を務める。主な論文に「失業率、日米の定義に大差はない」(『エコノミスト』1993年10月12日号)、「雇用の改善はなぜこれほど遅れたのか」(『経済セミナー』1996年8月号)など。