2026年03月23日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [323]『人事論ノート 人事管理の歴史と課題、その行く末』

(木谷 宏 著 労働新聞社 2025年11月)

 

 本書は、労働新聞社発行の労働新聞に連載された「人的資本経営期におけるHR用語集」の各項を、「はたらく」「いとなむ」「はぐくむ」「むくいる」という四つの主題に分類して体系化したものです。人の管理が人的資源管理から人的資本経営へ変化する時代の節目において、領域にこだわらずに幅広く人事管理の関連用語を取り上げ、その定義、歴史的背景、抱える課題、そして今後の在り方を解説した小論集となっています。

 最初の「はたらく」では、根幹となる人事管理論を展開し、今日の人事管理が抱える課題を指摘した上で、労働と余暇、感情労働、多様性と公平性、能力の管理といった個別テーマを扱っています。続いて人的資源と人的資本の違い、人的資本経営とは何か、能力の再開発(リスキリング)や職務の再設計(ジョブクラフティング)といったテーマに触れています。さらに、新たな働き方について、場所・時間・職務・勤務先・活動のそれぞれの柔軟性とはどういうことかを解説しています。

 「いとなむ」では、まず経営論を扱い、企業の社会的責任、理念経営、連結経営、国際経営、環境経営、人間らしい仕事(ディーセントワーク)などについて述べています。続いて組織論に入り、組織開発や組織づくりといったテーマを取り上げ、最後に指導者について、統率力(リーダーシップ)や補佐力(フォロワーシップ)とは何か、さらには、管理職と専門職(プロフェッショナル)のこれまでと今後を考察しています。この中で、管理職の数は将来間違いなく削減されるだろうとしています。

 「はぐくむ」では、まず人手不足の問題を取り上げています。離職防止(リテンション)について考え、多能工化や仕事の分かち合い(ジョブシェアリング)を提唱しています。続いて人手不足問題の解決策としての採用と人材育成について考えていきます。採用については、採用管理の基本を押さえた上で、新卒一括採用、採用手法、就業体験(インターンシップ)などの現況を俯瞰(ふかん)し、求める人材像や退職者採用(アルムナイ)について解説しています。人材育成については、職業能力、教育訓練、職場内訓練(OJT)、職場外研修(Off-JT)、自己啓発について述べ、企業内大学や職業訓練施策などにも触れています。

 最後の「むくいる」では広く報酬について検討し、総報酬、福利厚生などについて述べ、究極の報酬とは何かを考察しています。さらに賃金について賃上げ、賃金曲線、標準生計費、初任給を取り上げた後で、配偶者手当や住宅手当などの今後について考察し、財形貯蓄や退職金にも言及しています。ここでは、生活関連手当はおおむねその役割を終えたとしています。評価については、人事評価制度を概説した上で、評価過誤、評価者会議、多面評価、昇進評価などについて解説しています。

 元の連載が用語集というスタイルであったため、知識と情報を提供するだけと思いましたが、いざ読んでみると、働くとは何か、仕事とは何か、人の管理とは何かということについて、最近の潮流も踏まえた上での著者の深い考えが示されていることがうかがえました。

 今回、書籍化により再構築されたことで、そのことがより明確になったように思います。もちろん、人事・人材開発の入門書としても読めますが、一方で、ベテランの人事パーソンにとっても、普遍的・根源的思索を促すものとなっています。三木清の『人生論ノート』に託したタイトルからも著者の熱量が感じられる本であり、広くお薦めします。

<本書籍の書評マップ&評価>

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2026年1月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー