生成AIがビジネスの現場に浸透し、じっくり読んだり考えたりする「読書」の意味が変わりつつある中、「本」の力を信じ、その可能性を最大限に生かしている企業の存在が示唆するものは何か——。本書は、創業13年で急成長を遂げたマネーフォワードにおいて、読書がどのように活用され、文化として定着してきたかを、1年近くにわたる取材を通して明らかにした本です。
第1章では、同社の飛躍の秘訣は本にあり、同社では読書が経営層から現場まで組織全体に浸透しているのだとしています。社内チャットツールに、社員同士で「この本読んだ?」といった読書体験を分かち合うスレッドが並ぶなど “空気としての文化” があるといいます。さらには、経営陣が講師役を務める「読書セッション」があり、本をどのように読んだか、そこから何をするかを問うことで、読書からの学びを実務につなげるようにしているとのことです。
第2章は、同社創業者で代表取締役社長 グループCEOの辻庸介氏のインタビューです。辻氏は自身の読書歴を、起業してから今日までの歩みの節目ごとに顧みつつ、「僕は本によって “経営者” になれた」と公言し、また、読書は経営課題を乗り越えるためのものだとしています。
第3章では、読書を基盤とした社内のリーダー研修の定番書としてアンドリュー・S・グローブの『HIGH OUTPUT MANAGEMENT 人を育て、成果を最大にするマネジメント』などを紹介するとともに、トップが率先する姿勢が読書文化を築くとしています。
第4章では、読書セッションで、各部門のトップはどのような本を「課題図書」として選び、何を社員に伝えたかを紹介しています。また、ここに登場する4人の経営幹部も、辻氏同様に自身の読書経験を語るとともに、リーダーを目指す人たちに読んでほしい本をインタビュー末尾にリストアップしており、この箇所はブックガイドとして参考になると思います(巻末に改めて本書に登場した全部の本のリストを添えているので便利です)。
第5章では、時間がなくとも本から学べる、同社経営陣の読書術を紹介しています。例えば、辻氏は複数の本を買って「細切れの時間でも開く」と言います。“本は社外取締役のようなもの” であるとしており、本は読みっぱなしにせずにチームで共有することが経営陣の共通点になっているとも書かれています。
第6章では、社員自らが主催し、活発に行っている読書会として、「1冊を深く読み、実務に落とし込む読書会」と「哲学的対話と内省の場をつくる読書会」の2例を紹介しています。後者では、プラトンの『ソクラテスの弁明 クリトン』やジョージ・オーウェルの『一九八四年』などが取り上げられており、読書文化の幅の広さ、深さを感じます。
こうした読書文化の形成は新興企業だから実施・浸透したとの見方もあるかもしれませんが、一朝一夕で行えたわけではなく、トップや経営幹部も最初から “出来上がった読書家” だったわけではないことが本書を読んで分かります。
課題図書を設けて社員に読ませる企業はあると思いますが、ここまで徹底して、しかも仕事に生かすところまで(この点が肝要)やり切っている会社は希少でしょう。本を通じて同じ概念を共有し、そのことで社員みんなが成長し、それが企業の成長にも結び付くということを同社自らが見本となって教えてくれる書籍であり、示唆に富むものです。
<本書籍の書評マップ&評価>

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2025年11月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー