産業カウンセラーによる本書では、トラブルの原因や責任を何でも他人や環境のせいにする人を、「他責思考」の強い人と呼んでいます。「他責思考」が強い人には、①失敗やトラブルが起きたときに、自分の非を認めず、他人に責任を転嫁する、②自ら問題解決に動くことがなく、いつも誰かがなんとかしてくれるのを待っている、③言い訳が多く、被害者意識を抱えやすい、といった共通の特徴があるとのことです。
しかし、「他責思考」は誰もが持っているものです。一方で「他責思考」の対義語である「自責思考」は、あらゆる問題やミスの原因を自分のせいにしてしまいます。このような強過ぎる「自責思考」は、自分を責めるあまり心を病んでしまうリスクも生じるため、「ほどよく自責、ほどよく他責」というバランスの取れた思考が理想的であるといえます。本書では、その理想形を目指すために、本人がどうすればいいのか、周りの人がどのように対処すればいいのかを解説していきます。
第1章では、著者が産業カウンセラーとして相談を受けてきた事例を基に、「他責思考」のパターンを紹介しています。「私が不幸なのは親のせい」「給料が安いのは会社のせい」「私がちゃんと働けないのは政治が悪いから」といった七つのケースが紹介されていて、著者の長年の経験が生かされた内容です。
第2章では、「他責思考がクセになってしまう要因」は、大きく二つの心理があるとしています。それは、防衛機制に応用性がなく「合理化」一辺倒になっていることと、自責感情を恐れることからの「過剰な自己保護」= “自分に対する過保護” が根底にあるためではないかとしています。その上で、「他責グセ」のある人の特徴として、「謝ることができない」「自分より弱いものに対して強い攻撃性を持つ」など七つを挙げています。
第3章では、「他責グセの人」が増えている理由として、他人との適切な距離感がつかめず、ハラスメント認定を恐れているため、刹那的で保身第一の考え方をする人が増えたこと(保身の時代)や、誰もが幸せに生きるための手段の一つが自分らしさではあるものの、「自己中心的な生き方」と履き違える人が増えたことなど、七つの背景を挙げています。
第4章では、「他責思考」がもたらすデメリットと影響について、①孤立していく、②自己成長が鈍化する、③怒りの感情に支配される、④思考力の低下、⑤メンタルヘルスの悪化、⑥昼夜逆転生活のリスクを挙げています。「他責思考」は「相手が悪い」という結論ありきで考えが止まってしまうため、こうした悪循環に陥っていくのだということがよく理解できます。
第5章では、もし自分が「他責グセ人間」かもと思った場合にどうすればよいかについて、「『痛み』は誰かに代わってもらえないことを知る」「どんどん頼る」「気づいた自分を認める」「自分をいたわる」(「過剰な自己保護」とは異なる)などを挙げています。中でも、自分を「ナルシスト側に寄せてみる」(≓自分を肯定する)という対策はユニークに感じられました。
第6章では、「他責グセの人」との上手な付き合い方として、「相手の存在を認める」「謝罪を恐れない」「コーチングにおける『質問スキル』を活用する」などを挙げています。相手の言うことに妄想が入ってきたら、医療機関に相談すべきであるといったところまでフォローしています。
読みやすく書かれていて、「ほどよく自責、ほどよく他責」というバランスが大切であると説いている点にも共感(安心?)できます。特に人事の仕事では、「自責思考」が強過ぎて体調やメンタルに不全を来す人が多いのではないかと危惧されるため、本書が示すようなバランスの取れた思考は、人事担当者が自身を振り返るために有効なのではないでしょうか。
<本書籍の書評マップ&評価>

※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2025年10月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー