石綿救済変更、国が敗訴 「除斥」起算前倒し認めず 大阪高裁、一審取り消し

 アスベスト(石綿)を扱う工場で働きじん肺を患ったとして、兵庫県尼崎市の元労働者の遺族が国に約600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁(三木素子裁判長)は17日、請求を退けた一審大阪地裁判決を取り消し、国に賠償を命じた。請求額の全額に加え、遅延損害金も認めた。国が逆転敗訴した。
 賠償請求権が消滅する「除斥期間」(20年)起算点の取り扱いが主な争点。国が2019年、当事者に周知せず起算点を前倒しして救済範囲を狭め、元労働者は対象から漏れていたが、高裁は国の運用変更とは異なる判断を示した。別の同種訴訟でも25年2月、最高裁で国の敗訴が確定しており、国は起算点運用の見直しを迫られそうだ。
 厚生労働省は判決後「判決を精査し、対応を検討する」とのコメントを公表。弁護団は「もはや国の解釈に合理性も正当性も認められない。起算点の取り扱いを速やかに戻すことを求める」とする声明文を出した。
 三木裁判長は判決理由で、じん肺の症状や進行は個人差が大きく「現在の医学では症状が固定したか確定させられない」とし、起算点は「行政から健康被害を認める決定を受けた時」とした。
 国は審理の中で、石綿による肺がん当事者が争った福岡県の訴訟で、福岡高裁が起算点を診断日とする判決を19年に出したことを根拠に請求棄却を求めた。しかし大阪高裁判決は「医学的知見が確定した肺がんとは異なる。国の主張はじん肺の特質を理解していない」として退けた。
 石綿健康被害救済を巡っては、国の責任を認めた14年の「泉南アスベスト訴訟」最高裁判決を受け、国は一定の要件を満たした当事者と和解。除斥期間の起算点を労働局が健康被害を認めた時としていたが、19年に「石綿被害の発症が認められる時」に早めた。請求権が消滅する人が出るにもかかわらず、国は周知しなかった。
(共同通信社)