働く高齢者の増加に伴って相次ぐ労災事故に歯止めをかけようと、厚生労働省が研究班を立ち上げ、高齢労働者の身体能力や認知機能を測る本格的な調査に乗り出したことが24日、関係者への取材で分かった。国が高齢者の労災防止に関して多項目にわたり調査を行うのは初とみられる。
同省では現在、労働安全衛生法の改正に向けた議論が進められ、高齢労働者の労災防止対策を企業に努力義務として課す方向で検討中。同省は調査結果を労災防止のガイドラインに反映させ、職場環境の改善を促す。
同省によると、雇用者全体に占める60歳以上の割合は2023年は18・7%だが、休業4日以上の労災に遭った労働者に占める割合は29・3%と高く、労災の発生率が30代と比べて2倍近いとのデータもある。しかし、高齢労働者の身体能力を詳細に分析した調査は行われず、同省は主に1967年に民間研究所が公表した研究を参照し対策を取ってきた。
その当時から産業構造や働き方が大きく変化したことを踏まえ、同省は23年度から研究班を設置。さまざまな職種に就く主に60歳以上の男女を対象に、歩行やバランス能力、起立姿勢をどれだけ保持できるかや、集中力の持続時間などを調べる。調査は数百人規模で行われ、若年層グループと比較した上で25年度にも結果を取りまとめるとしている。
現在高齢者の労災防止として公表されているガイドラインも改定し、研究を踏まえ職場の照明の明るさや負荷の高い作業をさせる時間の目安などを示したい考えだ。企業が簡単な運動テストを通じて労働者の体力を把握することも有効とみており、テストの実施項目の策定にも研究結果を生かしたいとしている。
同省担当者は「60歳を過ぎても働く人が増える中、労働者も企業も思った以上に身体機能が低下していることに気付けていない。リスクを可視化するために重要な研究となる」としている。
(共同通信社)