本書は、70歳定年が現実味を帯びつつある一方で、AIによる自動化、デジタル人材不足など、中高年を取り巻く労働環境の変化が厳しさを増す中、将来の選択肢をどう増やしていくか、どのような人生戦略を描き挑戦すべきか、そのためにはどのような能力を身に付け何に投資すべきかを、「中高年リスキリング」というキーワードを軸に解説した本です。
第1章では、急激なテクノロジーの進化が従来の「定年」の概念に変化をもたらしたとし、雇用の削減と格差を生むと指摘します。人手不足の時代とはいえ、それが当てはまるのはもっぱら肉体労働などエッセンシャルワーカーであり、AIによる仕事の代行が進むホワイトカラーについては、やがて人員過剰になると著者は警告し、これから始まる「AIリストラ」に備えるためにリスキリングは欠かせないものであるとしています。
第2章では、リスキリングによって雇用寿命と労働寿命を延ばすことが可能であるとし、リスキリングにどう取り組むか、その進め方を説きます。また、これから注目される成長分野として、グローバル、デジタル、グリーン、宇宙の四つの分野を挙げています。さらに、AI時代には「学際的スキル」が求められるとして、複数の専門性に長けるダブルメジャーの強みに着眼し、副業から始めて、別の本業を生み出す「二刀流キャリア」や、個人事業主(フリーランス)として新たな人生を切り開く道なども勧めています。
第3章では、リスキリングを開始・継続するために何に投資すべきかについて述べます。「スキルと学び」に投資してIDスキルの形成を目指すこと、「健康」に投資して労働寿命を延ばすこと、「お金」に投資してリスク許容度を上げること、「人間関係」に投資してチャンスを増やすことを推奨しています。そして最後に、何から始めるかについて、「とにかく人に会って話を聞きまくる」「師匠・理解者・仲間を見つける」の二つを勧めています。
ビジネスワーカー、とりわけ「現在の仕事に慣れてきて、新しいことを学ぶ姿勢がなくなってきている40代以上」のホワイカラー層を対象に「学ばないままでいることのリスク」と「学ぶための手法」を説いた本であるといえます。人事パーソンの目線からでも読める本です。
リスキリングを、「新しいことを学び、新しいスキルを身に付け実践し、新しい業務や職業に就くこと」と定義しており、リスキリングというより「リカレント」的な内容であるように思いました(企業でも最近、リスキリングにとどまらず、リカレント教育を導入するところが増えていますが)。
自身が「リスキリング」を専門とするに至った経緯を語るなど、体験談的な要素も随所にあって、「個人事業主が報酬をもらうための能力」から「脳ドック受診」の勧めまで、著者自身の経験も織り込んだ啓発書や指南書という印象です。現状分析や将来予測については特に目新しいことが書かれているわけではありませんが、方法論の部分で、リスキリングを始める準備としての「アンラーニング」など、興味深い記述もありました。ただし、網羅的(総花的)な分、個々の記述がやや浅かったようにも思います。
以上から、読む人によって合う・合わないがある本といえるかもしれません。
<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年10月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー
