2024年09月23日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [287]『組織不正はいつも正しい ソーシャル・アバランチを防ぐには』

(中原 翔 著 光文社新書 2024年5月)

 

 本書は、経営学者が、「組織不正はなぜなくならないのか」を考察したものです。本書によれば、組織不正は、いつでも、どこでも、どの組織でも、誰にでも起こり得るものであり、なぜなら、その組織ではいつも「正しい」という判断において行われるものであるからだ、として燃費不正、不正会計、品質不正、軍事転用不正の例を中心に、組織をめぐる「正しさ」に着目し考察しています。

 第1章では、組織不正は必ずしも意図的なものではないとしています。不正であるかどうかは〈第三者〉が判断するため、その視点においては組織にとっての「正しさ」が認められないこともあるということです。また、組織不正には、実際に被害が発生する「発生型不正」のほかに、(その時点で)被害が見られなくとも捜査機関が立件する「立件型不正」があると説きます。本書では、組織不正を “起こり得る” ものと考えた上で、第2~5章で実際の事例を取り上げ、この問題にどう対処すべきかを述べています。

 第2章では、三菱自動車工業、スズキなどの「燃費不正」問題を取り上げています。事件の分析を通して見えてくるのは、国の基準に沿ったテスト法に係るメーカーの “それを使えないものと考え、使えるテスト法を採用した” という対応であり、行政とメーカーがそれぞれ「正しさ」を追求したが、両者には差異があったということです(つまり、それぞれが「閉じられた正しさ」を主張していることになります)。

 第3章では、東芝の「不正会計」問題を分析しています。「利益」を追求した結果として起きた事件といえるが、根本原因は経営陣と各事業部との「時間感覚の差」にあり、経営陣が「短い期間」での利益達成を求めた結果生じたものである──として、利益を求める「正しさ」の中にある時間的「危うさ」を指摘します。

 第4章では、医薬品業界の「品質不正」問題について、小林化工や日医工の不正製造事件を扱っています。国の政策としての、ジェネリック医薬品のシェアを早期に80%以上にするという目標が高過ぎたために起きたもので、表面的には人出不足が招いたことだが、構造的には、「国-都道府県-製薬企業」間の対話の時間が少なかったことが原因だとしています。

 第5章では、大川原化工機事件における「軍事転用不正」問題を取り上げます。この問題は周知のごとく、そもそも犯罪が成立しない事案について、会社の代表者らが逮捕・勾留され、公訴提起が行われたものであり、警視庁公安部や検察が、なぜ無根拠な「正しさ」に()る暴走をしてしまったのかを考察しています。

 最終の第6章では、まとめとして、個人が「正しさ」を追求することで、いとも簡単に組織全体が崩れる「組織的雪崩」が起きることがあり、また、「組織的雪崩」の代名詞である組織不祥事や不正は、外部環境からの要求によって起きるとしています。その上で、従来の単一的=固定的な「正しさ」に、複数的=流動的な視点を取り入れ相対的に捉えることの大切さを説いています。

 折しも、トヨタ自動車など自動車メーカー5社の認証不正問題が明らかになりましたが、トヨタ自動車のトップの記者会見を見ると、今回の不正が「立件型不正」であり、社内では「不正」と認識されていなかったことがよくうかがえ、本書の内容に符合するものでした。そうしたことから、「不正の撲滅は無理」との発言もつい出てしまったのでしょうが、たとえ本音であるにしても、トップの記者会見における発言としてはマズかったように思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年6月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー