2024年08月05日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [284]『職場を腐らせる人たち』

(片田珠美 著 講談社現代新書 2024年3月)

 

 精神科医としてこれまで多くの人を診察してきたという本書の著者によれば、最も多い悩みは、職場を「腐らせる」人絡みであるとのことです。本書は、「職場を腐らせる人たち」とはどのような人であるか、それに対する有効な対処法は何かを解説したものです。

 第1章では、「職場を腐らせる人たち」についてのイメージがつかみやすいよう、具体例を紹介。「根性論を持ち込む上司」「過大なノルマを部下に押しつける上司」「言われたことしかしない若手社員」や「完璧主義で細かすぎる人」「あれこれケチをつける人」など15の事例を挙げ、その精神構造や思考回路を分析しています。

 例えば「根性論を持ち込む上司」は次のように紹介されていて、いずれの事例も分かりやすいです。
  “食品会社で営業部長を務める50代の男性は、「営業で大切なのは気合と根性」と日々力説し、何軒訪問したか、何人に電話したかを毎日報告させ、少ないと「気合が足らん」と激高する。しかも、自分が若い頃気合と根性で営業成績をあげた話を何度も繰り返す。残業を暗に強要し、定時に退社した社員がいると翌日デスクを廊下に出したこともある。”

 第2章では、なぜ「職場を腐らせる人」は変わらないかのかを分析し、そこには、たいてい自己保身や喪失不安が絡んでおり、合理的思考ではなく感情に突き動かされていて、決して自分が悪いとは思わないとしています。そして、彼らは「ゲミュートローゼ」である可能性が高いとしています。「ゲミュート」とは、思いやり、同情、良心などを意味するドイツ語で、このような高等感情を持たない人を、ドイツの精神科医クルト・シュナイダーは「ゲミュートローゼ」と名付け、日本では「情性欠如者」と訳されるそうです(実は政治家などにも多いとのこと)。

 第3章では、職場を腐らせる人を変えるのは難しいということを踏まえた上で、どう対処すべきかを説いています。ここでは、まず、その人物が「職場を腐らせる人」であることに気づき、どのタイプか見極めることが大事だとしています。さらに、そうした人のターゲットにされやすい人の8の特徴を挙げ、ターゲットにされないためにはどうすればよいかを説いています。

 第1章の「職場を腐らせる人たち」の具体例を読むと、職場にそうした人がいることに思い当たる人も多いのではないでしょうか。終盤の対処法の項では、人事パーソン目線で見ると、組織がそうした人を抱えている場合どうすればよいかという視点も必要になってきます。「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という指摘は正しいと思いますが、見解レベルで終わっている点はやや物足りないように感じました(一般のビジネスパーソン向けに書かれているので仕方ないところですが)。

 個人的には、イジメ上司、卑劣な同僚、ムカつく部下……これらをどうするかを説いた、ロバート・I・サットン著『あなたの職場のイヤな奴』(2008年/講談社)という本をお薦めしたいです。この本では、そうした人物は職場からできるだけ早く追放すべきだと明確に提言しており、一方で、自分自身がそうした「イヤな奴」になってしまう危険性も説かれていて、経営組織論としても啓発書としても優れていたように思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年4月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー