2024年07月22日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [283]『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』

(金間大介 著 PHP研究所 2024年1月)

 

 本書によれば、1on1ミーティングを実施する企業が増えている一方で、笑顔で1on1ミーティングをしたばかりの若者が、その翌週に会社を辞めるということが、最近では少なからずあるとのことです。しかも、退職の意思表示を上司を通さず人事部経由で行ったり、退職代行サービスを使った退職であったりするようです。
 本書は、そうした状況を踏まえ、「若者との1on1の前に読む本」とのコンセプトの下、1on1を核とした世代間コミュニケーションの問題を切り口に、今どきの職場の若者を多面的に分析し、実像に迫ったものです。

 第1部「『1on1の前』に知っておくべきこと」では、日本企業の現場で1on1が求められている理由を探り(第1章)、1on1の基本原則とそのパターンや、見落とされがちな課題を整理した上で(第2章)、1on1に求められるスキルや、コーチングとの違いを解説します(第3章)。さらに、1on1を若者たちはどう捉えているのか、その受け止め方を六つのタイプに分類しています(第4章)。
 そして、その中でも特徴的な三つのタイプ――活用を望む〈積極志向〉、やらされている感がある〈表面志向〉、やりたがらない〈回避志向〉――について、その対応方法を解説しています。なお、〈積極志向〉だからといって良いことばかりではなく、部下の期待に応えるべく「上司としてできる限りの行動」をとらないと、逆に部下から見透かされてしまうというのは、鋭い指摘だと思いました。

 第2部「なぜ、若者は突然会社を辞めるのか?」では、退職代行サービスを使って辞める若者たちの考え方や(第5章)、「別の会社で通用しなくなる」と考えて辞める(いわゆる「ゆるブラック」を理由とする退職)若者の心理を探り(第6章)、アメリカで見られる「静かな退職」と言われる現象との比較を通して、現代の日本の若者が会社を辞める理由を四つ挙げています(第7章)。
 また、その背後にある今どきの「職場の若者像」に迫り、とにかく早く正解を教えてもらおうとする姿勢が見られることを指摘するとともに(第8章)、今の若者にとっての「理想の上司・先輩像」を調査データから探っていきます(第9章)。また、社内新人研修が“テンプレート化”しているという問題も指摘しています(第10章)。

 これらを踏まえて、第3部「提案:これからも若者たちと共に前へ進むために」では、著者が考える若者の育成のあるべき姿を検討していきます。上司や先輩が何よりも優先して鍛えるべきは「フィードバック」スキルであるとし、その理論と、効果的なフィードバックを行うための五つの原則を示します(第11章)。その上で、終章では「上司・先輩世代へ向けた5個の提案」をしています。

 本書の構成はしっかりしていて、データの裏付けもあります。一方で、非常に分かりやすく書かれていて、時に砕けた表現などもあり、肩が凝らずに読めます。帯に「職場のわかり合えないを乗り越える処方箋」とあるように、実践に供することを狙いとして書かれていることがうかがえました。
 どちらかと言うと、第1部の「1on1」についてのパートはテキスト的であり、今どきの「職場の若者像」について分析する第2部のほうが興味深く読めました。ただし、1on1を上司・部下の「双方の学びの場」としているのには共感させられましたし、コーチングとの違いなども分かりやすかったです。
 “絶対解は存在しない”との前提の下、お互いが理解を深め、楽しみながら寄り添える現場をどうつくるか、読者と共に考えていきたい――という著者の姿勢が謙虚であると思いました。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年4月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー