2024年05月27日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [280]『再生・日本の人事戦略 失われた30年を取り戻す実践手法』

(内藤琢磨 著 日本経済新聞出版 2024年1月)

 

 グローバル人事、コンピテンシーモデル、ジョブ型人事、そして昨今は人的資本経営。この30年間、新たな「人事制度ブーム」が登場しては各企業で取り入れられてきたものの、それらに振り回された結果、日本企業の競争力は奪われることになったと、本書は指摘しています。その上で、失敗のメカニズムを明らかにし、新時代に対応できる人事システムの再構築について語っている点が、本書の大きな特長です。

 本書は全8章で構成されます。冒頭の第1章では、1990年代以降、日本企業の多くは欧米発の人材マネジメントテーマを導入すること自体が目的化してしまい、本当に実現したい目的は実現できていなかったと振り返ります。

 第2章では、そうした人事改革がなぜ失敗に帰するのかを、「思い付き」に振り回される人事部門、日本の雇用システムからの制約、組織や人が有する変革を拒む「変化に対する免疫機能」といった観点から分析しています。

 第3章以降は、日本企業において取り組みが必要な“人事アジェンダ”として、
1 ジョブ型ありきではない人材戦略
2 お金だけではない人への投資
3 会社の付加価値増につながる「報酬引き上げ」
4 見えることではなく、「見るべきこと」を見える化する
5 人事部門を再活性化する
――の五つを掲げ、第7章までの各章で解説していきます。

 第3章のテーマは、資格等級制度(格付け制度)についてです。ジョブ型人事制度を「改革のおもちゃ」にしないようにするため、ジョブ型と職能型のハイブリッド型人事制度を紹介し、ジョブ型と職能型の両面から人を成長させるための人材マネジメントの在り方を提唱しています。

 第4章では、「人への投資」を取り上げ、人的資本の「開示」に終始するのではなく、目的を見据えた機会付与をすべきであると解説します。それに加えて、ジョブ型と職能型の機会付与の違いや、越境学習など新たな形の機会付与についても紹介しています。

 第5章では、「報酬引き上げ」を取り上げます。引き上げた報酬を、会社や個人の成長にどう結びつけるかを解説し、報酬水準の引き上げと高生産性を両立させている企業例を紹介しています。

 第6章では、人的資本について、見える化は目的ではなく手段だと提示します。“見える化することに意義があるもの”を、見える化の対象とすべきであるとしています。

 第7章では、社内における人事部門は弱体化傾向にあるとし、人事部門をどうやって再活性化するかを述べています。今、人事部門に何が求められているかを考察し、人事部門のリソースの強化・組み換えを提唱します。

 最終第8章では、本書のまとめとして、経営者が人的資本経営で同じ過ちを犯さないためには、「人に付加価値をつけ成長させること」に経営者自身がフォーカスすべきであるとしています。
 また、この章では、経営者自らが「施策」という手段を目的にすり替えてはならないと強調しますが、これは第1章の、“人材マネジメントテーマを導入すること自体の目的化”という過ちを繰り返さないようにする――という命題を受けるものです。そのことが、本書の全編を貫くテーマとなっています。

 掲げられている五つの人事アジェンダは、今後取り組みが必要なものであるのと同時に、「日本企業が過去に取り組んできた」ものでもあるとされていますが、確かに必ずしも目新しいものではないように思いました。ただし、手段にすぎない制度導入を目的化せず、本当に実現したい目的を実現するにはどうすればよいかを念頭に置いて読み進むと、多分に示唆的であると思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年2月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー