2024年02月29日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第16回 厚生労働省「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」をどう読むか

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 2023年12月22日、厚生労働省は「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」を公表した。花田光世 慶応義塾大学名誉教授を座長とする同検討会での議論を取りまとめたものである。
 2016年4月に、キャリアコンサルタントは名称独占の国家資格となったが、キャリアコンサルタント登録制度(以下、登録制度)は、キャリアコンサルタントの専門的な知識・技能に対する継続的な質保証を目的とする制度である。厚生労働省は、同報告書を踏まえ、登録制度や関連施策の運用改善などを行うとしている。企業領域で活動するキャリアコンサルタントに焦点を当て、登録制度について考えてみたい。

2.報告書のポイント

 報告書では、キャリアコンサルタントを取り巻く現状や課題を押さえた上で、キャリアコンサルタントが求められる役割を十分に果たしていくために必要な対応について整理している。
 ポイントは、以下のとおりである。

キャリアコンサルタント登録者数は増加している。一方、登録者の更新率は7割にとどまっている

リ・スキリングの選択、キャリアアップや転職に係る相談支援などキャリアコンサルタントへの期待が高まっている。求められる役割を果たすためには、質の向上の仕組みを整備することが必要である

キャリアコンサルタントの能力向上、活動促進のために、講習内容のアップデートの徹底、スーパービジョンの機会の拡充などを行うことが必要である

キャリアコンサルティングの普及促進のために、効果についての周知や、気軽に利用できる相談窓口の整備、企業におけるキャリアコンサルティングの促進などが必要である

今後に向けて、キャリアコンサルタントの能力要件・能力体系の見直し、更新要件の見直しなどについて、検討していくことが必要である

 キャリアコンサルタント登録者数(以下、登録者数)が増え、キャリアコンサルタントの役割に対する期待が高まっているが、その一方で、求められる役割を十分に果たしていくためには課題もある、ということである。いずれの課題も以前から指摘されてきたことと関係するものだが、社会環境の変化などに加え、登録制度の創設、能力要件・能力体系の見直しから一定の年数が経過したこともあり、見直しに言及しているところには、注目すべきだろう。

3.キャリアコンサルタントを取り巻く現状と課題

 登録制度創設により、キャリアコンサルタント国家資格試験合格者は、登録して初めて「キャリアコンサルタント」を名乗ることができることとなった。登録後は、5年ごとに更新講習(知識講習8時間以上および技能講習30時間以上)の受講を要する。登録、更新のほか、更新講習受講には費用が必要である。
 2023年12月末時点での登録者数は7万826人である。2014年7月に厚生労働省が策定した「キャリア・コンサルタント養成計画」では、当時のカウント方法(標準レベルのキャリア・コンサルタントおよびキャリア・コンサルティング技能士の累積養成数をもってキャリア・コンサルタント養成数とカウントすることとしていた)で2024年度末までに10万人を養成することとしていたが、2022年度末時点で、既に累積養成数はこれを約7000人上回っている。筆者は、キャリア形成支援室長として計画策定に携わったが、当時、10万人は、相当頑張らなければ達成できない数字だとみていた。それを考えると、よくぞここまで増えた、という思いもあるが、課題も指摘されている。
 まず、キャリアコンサルティングを行っていないキャリアコンサルタントの問題である。登録者数が増える一方で、キャリアコンサルティングを行っていない者が約3割おり、更新率は約7割にとどまっている[図表1]

[図表1]「キャリアコンサルティングに関連する活動の有無」の推移

図表1

資料出所:労働政策研究・研修機構(2023)「第2回 キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」労働政策研究報告書No.227([図表2~4]も同じ)

 次に、キャリアコンサルティングを行う仕組みが十分でないことである。令和4年度「能力開発基本調査」によると、労働者のうち前年度にキャリアに関する相談をした者は10.5%だが、キャリアコンサルタント等の専門家に相談した者はその5分の1である。キャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している事業所は45.3%だが、うち相談を受けるのがキャリアコンサルタントという事業所は10.7%と少ない。キャリアコンサルティングを行う仕組みがない事業所は、その理由として「労働者からの希望がない」(正社員44.3%、正社員以外45.3%)、「キャリアコンサルタント等相談を受けることのできる人材を内部で育成することが難しい」(正社員42.1%、正社員以外31.3%)などを挙げている。
 このような中、政府の計画などにおいては、キャリアコンサルタントの役割に対する期待が高まっている。リ・スキリングの選択に関する支援、キャリアアップおよび転職の相談に加え、給与所得控除におけるリ・スキリング費用の控除の仕組み(特定支出控除)における給与支払者の代わりに行う教育訓練の業務関連性の証明などの役割も求められるようになった。こうした役割を果たすためには、個々の業界や企業における職務内容や必要なスキルに係る深い知識が求められる。また、こうした知識に基づいて、適切な助言を行うためのスキルも求められる。

4.企業領域で活動するキャリアコンサルタント

 報告書は、企業、就職支援機関、教育機関、地域(自治体、NPO)などすべての領域で活動するキャリアコンサルタントを念頭に書かれているが、企業領域で活動するキャリアコンサルタントの現状はどうだろうか。
 まず、企業領域で活動するキャリアコンサルタントの割合は2006年調査では24.2%だったが、2022年調査では41.7%まで増加している[図表2]。キャリアコンサルタント全体の人数が増える中で割合も高まっていることから、企業領域で活動する人数が大きく伸長しているといってよいだろう。

[図表2]キャリアコンサルタントの主な活動の場の推移

図表2

 企業領域での主な活動内容を見ると、「相談、面談、カウンセリング」が58.3%を占めるが、「セミナー、研修、授業の講師」が19.1%、「キャリア形成に関する制度の設計・運用」が11.8%となっている[図表3]。特に「キャリア形成に関する制度の設計・運用」は他の領域に比べ、割合が高くなっており、組織の成員のキャリア形成支援として制度の設計・運用に関わる幅広い知識・スキルが求められているといえそうだ。

[図表3]主な活動の場と活動内容

図表3

 企業領域で多い相談(複数回答)は、「現在の仕事・職務の内容」(24.8%)、「今後の生活設計、能力開発計画、キャリア・プラン等」(19.6%)、「職場の人間関係」(17.9%)、「部下の育成・キャリア形成」(8.9%)、「企業内の異動希望等」(7.9%)などである[図表4]。企業領域では現在就いている仕事とその将来に関する相談の割合が多く、他の領域では就職・転職といったキャリアチェンジの相談が中心といえる。企業と他の領域とでは、用いられるキャリアコンサルティングの技能・スキルが異なることが分かる。

[図表4]「主な活動の場」における「多い相談」(複数回答)

図表4

[注]クロス表は0.1%水準で統計的に有意。調整済み残差を求め、5%水準で値が大きい箇所に網掛け、小さい箇所に下線を付した。

 「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版」(令和5年6月16日閣議決定)などでも期待されているリ・スキリングは、「今後の生活設計、能力開発計画、キャリア・プラン等」に含まれると考えられる。企業領域で多い相談の一つだが、ここに焦点が当てられている。
 就業者の学びについて調査した労働政策研究・研修機構による「就業者のライフキャリア意識調査」(2021)によると、学習意欲はあるけれども学んでいない者が全体の51.6%を占める。学習の障壁(複数回答)については、時間(38.7%)、費用(35.2%)を挙げる者が圧倒的に多いが、さらに見ると、「継続できない」(18.9%)、「何を学んでよいかわからない」(17.1%)、「学習に関する情報が不足している」(14.5%)、「適切な指導者がいない」(13.0%)、「学習することを自分で計画できない」(12.7%)が続く。何を学べばよいかアドバイスし、必要な情報を提供し、伴走したり計画を立てたりしてくれる者がいれば学べる、という者は少なからずいるはずだ。
 ここにきて、ANAホールディングス株式会社など、リ・スキリングにキャリアコンサルタントが伴走する仕組みを設けた企業や、富士通株式会社のように、本部長にパートナーとして寄り添うキャリアコーディネーターと、一人ひとりの状況に寄り添うキャリアコンサルタントが、両輪となって従業員のキャリアを支援するような企業も出てきている。組織に対するキャリア支援は難易度も高いが、組織課題に沿った学習機会の企画やアドバイスなどができるキャリアコンサルタントが求められている。

5.おわりに

 報告書は、創設後8年がたとうとしているキャリアコンサルタント登録制度の運用状況や、最近の社会環境の変化、キャリアコンサルタントの役割に対する期待の高まりを踏まえ、必要な対応について議論し、提言を取りまとめたものである。
 厚生労働省は、この報告書を前提として、現行制度下でできることはもちろん、キャリアコンサルタントの能力要件・能力体系の見直し、更新要件の見直しなどについても踏み込み、必要な改定を行っていくようだ。議論の動向なども見つつ、キャリアコンサルタントは自身の取り組みをさらに進める。企業には、キャリアコンサルタントが企業領域で行えるキャリア支援について理解いただく。キャリアコンサルタントは、期待先行的なところも多かったが、期待されるだけでなく、期待に応えていくことが求められている。

【参考・引用文献】

・厚生労働省(2022)令和4年度「能力開発基本調査」

・厚生労働省(2023)「キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会報告書」

・労働政策研究・研修機構(2021)「就業者のライフキャリア意識調査―仕事、学習、生活に対する意識」JILPT 調査シリーズ No.208

・労働政策研究・研修機構(2023)「第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査」労働政策研究報告書No.227

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会専務理事、人材育成学会常務理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科兼任講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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