本書は、40年以上読み継がれている新人マネジャーのための教科書であるとのことで、全6部・43章にわたって、「人の上に立つ人」の常識を説いています。初版刊行以来、8度目の改版であり、内容がその都度アップデートされているため、古さを感じさせないものとなっています。
第1部は、新人マネジャーに向けた総論であり、「マネジャーになるまで」「管理職としてのスタート」など、ある意味で大前提になる最重要事項が並んでいます。その中に、部下をちゃんと褒めることや、積極的傾聴をマスターすることなど、コーチング的な要素が含まれているのが興味深いです。
第2部は、マネジャーとしての新しい仕事にどう取り組むかを述べています。チーム・ダイナミクス(チームの中において、それぞれの個人の行動が影響を及ぼし合う力学のこと)というものを生かして強い職場を作ることを説くとともに、マネジメントとリーダーシップの違い、問題のある部下のマネジメント、採用と面接、解雇などについて解説しています。日本企業であれば人事部が担当するような仕事も多分に含まれている点が印象的です。
第3部は、部下の心を掴み、人を動かすにはどうすればよいかを説いています。部下のモチベーションを高めるための方法、自律的でイノベーティブな組織の作り方などを指南する一方、リモート勤務・拠点外勤務におけるマネジメントや、職場でのソーシャルメディアの利用といった近年のテーマについても述べています。
第4部は、人事評価をどう行うかについて述べていますが、業績評価だけでなく、職務記述書の作成や昇給の判断までがマネジャーの業務に含まれているのが、日本と比べ非常に特徴的です。近年話題になっている「ジョブ型人事制度」を導入した場合のマネジャーの在り方を知ることができるのではないでしょうか。また、その中で、特に振り返り面談について詳しく解説しているのが印象的でした。
第5部は、マネジャーとして成長し、さらに上を目指すにはどうすればよいかについて述べています。EQ(心の知能指数)を高めること、「成功する人」になること(相手への自分の見せ方も含め)、文章力を高めることを推奨した上で、会議のマネジメントやプレゼンテーション技術の高め方についても解説しています。
第6部は人としての総合力を高めることを説き、ストレスへの対処の仕方や、ワーク・ライフ・バランスの重要性、マネジャーの品格について述べています。誰もが人として成長すべきであり、マネジメントの技法だけでなく、人間としての総合力を高めることが重要であるという考えが、本書の根底に貫かれていることが見て取れます。
日本のビジネスパーソンにも共感を持って読める内容です。例えば第1部では、「褒めるのは人前で、叱るのは個別に」という原則は時に検討を要すると説明しています。同僚の前で褒められることをきまり悪く思う人もいるし、褒められなかった同僚の嫉妬を買うこともあるため、大いに褒めたい場合は個別に呼んで褒めたほうがいい――という理由が挙げられており、これなどは腑に落ちる読者も多いのではないでしょうか。
本書に書かれていることはマネジャーとしての「基礎の基礎」ですが、「一生役立つ」とのうたい文句のとおり、どの階層のマネジャーが読んでも、自身の振り返りに役立つように思いました。研修などにおけるテキスト的な意味での「教科書」というよりは、一人一人が自ら読みたいと思って読む「啓発書」の色合いが強いかと思います。
また、前述のとおり、米国企業では前線にいるマネジャーの役割として、日本企業でいう人事の仕事に含まれる部分がかなりあることが本書からうかがえます。そのため、人事パーソンが読んでも得るところが少なからずある内容となっています。
<本書籍の書評マップ&評価> 下の画像をクリックすると拡大表示になります
※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2024年1月にご紹介したものです
和田泰明 わだ やすあき
和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士
1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格
1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー