2024年02月19日掲載

人事パーソン要チェック! 新刊ホンネ書評 - [273]『誠実な組織 信頼と推進力で満ちた場のつくり方』

(ロン・カルッチ 著 弘瀬友稀 訳 ディスカヴァー・トゥエンティワン 2023年10月)

 

 組織行動学の専門家である著者による本書では、15年の研究と3200件以上のインタビューから導き出された結論として、これからの組織にとって「誠実さ」こそが大切であるとしています。その上で、組織にとって誠実さがなぜ大切なのか、誠実さは組織にどのような影響を与えるのか、誠実さをビジネスの中で実践していくにはどうしたらよいのかを説いていきます。

 本書ではまず、組織の誠実さを構成する三つの条件として、①目的(よりよい善を()す)、②公正(正しく公平な行いをする)、③真実(相手を尊重しつつ、妥協せず率直に真実を伝える)の三つを挙げます。この三つが同時に働くことで誠実さは生まれ、三つのうちのどれか一つ欠けても誠実さは成り立たないとしています。

 さらに、組織に誠実さをもたらすために必要な四つの行動として、①アイデンティティにおける誠実さ(言葉と行動を一致させる)、②アカウンタビリティにおける公正(尊厳を第一に考える)、③ガバナンスにおける透明性(誠実な対話を通じて、信頼できる意思決定を行う)、④グループ間の一体感(全員をひとつの大きな物語へ導く)を挙げています。

 冒頭の第1章では、誠実さは人間の生まれつきの機能であり、人は誠実でいることを好み、相手にも誠実さを求めるとしています。また、希望があると組織の雰囲気は明るくなるが、その逆だと空気は重くなること、そして希望は情熱、忍耐力、信念の三つの要素が交わることで生まれることを説明します。以下、第1部から第4部にかけて、組織に誠実さをもたらす四つの行動について解説しています。

 第1部では、アイデンティティにおける誠実さについて述べています。言葉と行動を一致させることを説く第2章では、どれほど巧みに書かれたミッション、ビジョン、バリューであっても、言葉を掲げるだけではだめで、組織が言葉通りに行動できるかどうかが重要であるとしています。さらに第3章では、個のパーパスと組織のパーパスが結び付いていることの重要性を説いています。

 第2部では、アカウンタビリティ(評価)における公正について述べていきます。第4章では、人は自分が公平に評価されていないと感じると、自己保身のために自分の業績を過大に表現することがあるとし、第5章では、失敗を学びの機会として受け入れる文化があると、従業員は自分の業績を正直に報告し、他者に対しても公平に接すると述べます。

 第3部は、ガバナンスにおける透明性を取り上げます。第6章では、透明性のあるガバナンスとは、ただ意思決定のプロセスを可視化することではなく、明確さ、機敏さ、思いやりの三つが伴ってこそ、信頼ある意思決定が生まれるとしています。第7章では、活気ある声に満ちた組織文化を育てるにはどうすればよいか、反対意見や厳しいフィードバック、型破りなアイデアを受け入れるにはどうすればよいかを説いています。

 第4部では、グループ間の一体感について述べています。第8章では、異なる部署の相手との関係性を強化し、シームレスな組織をつくるにはどうすればよいか、第9章では、“部族意識”を排し、受け入れ難い違いを持つ相手とより深いつながりを築くにはどうすればよいか解説しています。

 著者は、誠実さは組織の能力であって、身体の能力を伸ばすためには鍛えねばならないように、誠実さとは筋肉のようなものである以上、定期的に鍛えていく必要があると主張します。「誠実さ」というものを戦略として打ち出している点が目を引きます。組織のあるべき姿への方向性なども、企業事例を挙げて説明されており、日米の企業文化の違い等はありますが共通点も多く、参考になるかと思います。

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※本記事は人事専門資料誌「労政時報」の購読会員サイト『WEB労政時報』(有料版)で2023年11月にご紹介したものです

【本欄 執筆者紹介】
 和田泰明 わだ やすあき

 和田人事企画事務所 人事・賃金コンサルタント、社会保険労務士

1981年 中堅広告代理店に入社(早稲田大学第一文学部卒)
1987年 同社人事部へ配転
1995年 同社人事部長
1999年 社会保険労務士試験合格、2000年 行政書士試験合格
2001年 広告代理店を退職、同社顧問(独立人事コンサルタントに)
2002年 日本マンパワー認定人事コンサルタント
2003年 社会保険労務士開業登録(13030300号)「和田人事企画事務所」
2004年 NPO生涯教育認定キャリア・コンサルタント
2006年 特定社会保険労務士試験(紛争解決手続代理業務試験)合格

1994-1995年 日経連職務分析センター(現日本経団連人事賃金センター)「年俸制研究部会」委員
2006年- 中央職業能力開発協会「ビジネス・キャリア検定試験問題[人事・人材開発部門]」策定委員
2009年 早稲田大学オープン教育センター「企業法務概論」ゲストスピーカー