2023年10月31日掲載

女性リーダー・管理職が育つ企業の条件 - 第3回・完 女性リーダーの輩出に向けた具体施策5選

東宮美樹 とうみや みき
株式会社ジェイック 取締役
株式会社Kakedas 取締役

 第2回では、「経営方針で女性活躍プロジェクトを立ち上げたが、うまくいかない」という会社の“よくある失敗事例”として、下記の3ケースをピックアップした。

目標はあるが、方針がない

当初は反応が良かったが、次第にパワーダウンしている

働きやすくなったが、女性リーダーが増えない

 さらに女性リーダーが活躍する組織づくり「三つのポイント」として、

「時間」の観点:両立可能性の問題

「展望」の観点:未来展望の問題

「経験」の観点:育成の問題

──を取り上げ、それぞれの論点と対応のポイントについて解説した。

 では、女性リーダーの輩出を考えたとき、実際にどのような手順・施策を掲げれば社員に響き、効果が期待できるのか。最終回となる第3回は、第1~2回で検討してきた課題の“解決編”として、女性リーダーの輩出に向けた具体策のうち、ぜひ押さえておきたいプロセス・取り組みを五つに絞って紹介する。

【女性リーダーの輩出に向けた具体施策5選】

1.制度整備:制度整備とともにすべきメッセージ発信とは

2.強みを活かしたリーダー教育:自分らしさと「パーツモデル」の考え方

3.個別のキャリア相談:懐疑心の払拭とマインドセット

4.イクボスの育成:善意・無意識の“肩たたき”を排除する

5.早期選抜:リーダーポジションの経験が次につながる

1.制度整備:制度整備とともにすべきメッセージ発信とは

 女性活躍を推進していく上で、制度整備はやはり基盤となる。第1~2回で紹介したように、制度整備だけを進めると「職場がぬるくなった」と受け取られることが起こりがちである。

 一方で、時短勤務、時間単位年休の付与、リモートワークなど、仕事と家庭を両立させるための制度整備は大切になる。これらの制度は育児だけでなく、例えば介護との両立など、女性活躍以外にもつながるものとなる。
 そして、制度を整備していく上で重要なのは、内発的なモチベーション、つまり仕事のやりがいや達成感、チームメンバーと一緒に仕事をすることによる一体感などを高めることだ。

 そのために有効なのが、仕事と家庭を完全に切り離すのではなく、「どちらも大切で、どちらも応援する」というスタンスを会社から示すことだ。「制度整備」と「社員に寄り添いながら、主体性の発揮を促すメッセージを発信すること」の両輪に目を向けることが必要である。
 そして、制度を整備して柔軟な働き方を許容しつつも、「短い時間できちんとアウトプット(成果)を出す必要がある」「成果が平等・公正に評価される」という意識を浸透させることだ。

2.強みを活かしたリーダー教育:自分らしさと「パーツモデル」の考え方

 これまでも伝えてきたとおり、女性活躍を進める上で女性のリーダー候補から「ロールモデルがいない」という意見が上がってきて困っているという人事や管理職の声はかなり多い。
 「これから女性活躍を推進していくのだ!」という場合、確かに先駆者となるロールモデルはいないことが多いだろう。そこで有効なのが、「パーツモデル」という考え方を浸透させることだ。

 人は無意識にロールモデル、つまり「そっくりそのまま自分のモデルになる人」を探してしまう傾向がある。これに対してパーツモデルは、さまざまな人の良い点を「パーツ」として取り入れ、それぞれを自分なりに組み合わせて自分らしいキャリア像を描いていく考え方だ。
 良い点についてだけではなく、「こういう上司にはなりたくない」「こういう働き方はしたくない」と思う人物であれば、反面教師としてのモデルになり得る。同様に、これもパーツとして取り入れることができる。

 「パーツモデル」を取り入れて、キャリア展望を描いてもらう上で有効なのが「強みを活かす」という考え方に基づくキャリア研修だ。
 強みを活かすためのツールや研修にはさまざまなものがあるが、例えば当社では、米国ギャラップ社が開発した「ストレングスファインダー®」という才能診断ツールを基にして実施している。
 ストレングスファインダー®における「才能」とは、無意識に繰り返し現れる思考、感情、行動パターンを指す。自分の思考・感情・行動の特徴そのものが才能=「強みの種」であり、研修では、才能を「強み」=「成果を生み出す力」にどう変えるかを学んでいく[図表1]

[図表1]米国ギャラップ社「ストレングスファインダー®」における「才能」の捉え方

図表1

 「強みを活かす」というアプローチは本人の自己肯定感を高めるため、将来のキャリアや「自分らしいリーダー像」といった未来展望を描きやすくする効果がある。
 また、「強み」という自分自身のパーツがベースとなるため、「同じような強みを持っている人は誰か」「それをどのように活かしているのか」といった形で、パーツモデルの考え方にもなじみやすい。

 「強みを活かす」という価値観は、女性のみならず、Z世代など今の若手世代にも非常に有効なので、新卒採用の入り口から女性活躍を推し進めている会社にも相性がいいだろう。

3.個別のキャリア相談:懐疑心の払拭とマインドセット

 施策の三つ目として、個別のキャリア相談を挙げたい。これは懐疑心を払拭して前向きなキャリアビジョンを描くために重要な施策といえる。

 2.で取り上げた強みを活かすリーダー教育は、自分らしいリーダー像や未来展望を考えてもらう上で大切なきっかけとなる。ただし、いくら個人ワークやグループワークをしても、「1対多数」で行われる研修には限界があるし、参加者がどこまで本音を話せるかという問題もある。
 だからこそ、1対1のキャリア面談を通じて、自分ごとにしてもらう、しっかりと考えてもらう、悩みや願望の本音を言葉にしてもらう──ことを心掛けたい。

 なお、キャリア面談の相手を上司とすることは、次の観点からあまりお勧めしない。

  • 上司は本人の利害関係者であり評価者でもあるため、「悩みや願望の本音」を引き出しづらい面がある
  • まだまだ男性上司が多い点も、フランクな対話を行う上でネックになり得る。また、上司が十分な面談スキルを有していない場合、個別面談がかえって女性部下のモチベーションを損なう原因となることもある

 したがって、キャリア面談の実施に当たっては、利害関係がなく本音を話しやすい人事担当者や外部のサービス機関に依頼するのがよいだろう。
 一方で、本人のキャリア意向が整理された後に現場で支援しやすいのも、また上司であることは間違いない。そこで、キャリア面談の後に、上司との共有ステップを組み入れる流れをお勧めする。

 なお、女性活躍に向けたキャリア面談で大切なのは、個別の対話を通じて本人の当事者意識を引き出すと同時に、そこで抽出した本音をしっかりと組織開発に活かしていくことだ。
 社員満足度等のアンケートやサーベイでは抽出できない、対話によって引き出される本音を組織開発に活かしていくことで、打ち手の精度が向上する。

 例えば、当社ではグループ会社が展開するキャリア相談プラットフォーム「Kakedas」というサービスを使って、社員のキャリア面談を実施している。
 Kakedasでは、本人の性格診断や相談テーマ、経歴を通じて、約2000人のキャリアコンサルタントの中から相性の良い人物をピックアップして、キャリア相談できる仕組みになっている。また、対話で得られた情報が、個人を特定しない形の分析レポートとして人事にフィードバックされ、組織開発に反映することができるようになっている。

 このような外部サービスを使ってもよいし、あるいはキャリアコンサルタント資格などを持っている人事担当者が対応する形でもよいので、まずは社員と対話することから始めたい。

4.イクボスの育成:善意・無意識の“肩たたき”を排除する

 厚生労働省が育成を後押ししている「イクボス」をご存じだろうか。イクボスとは、出産・育児、介護などを含む部下のキャリアを尊重しながら成果を上げる上司(男女を問わない)のことをいう。

※厚生労働省「イクメンプロジェクト」サイト
https://ikumen-project.mhlw.go.jp/

 これからの管理職像としては、この「イクボス」の概念が有効だ。会社としてイクボスを育てていくことで、女性活躍を下支えしていくことができる。キャリア自律などの概念も浸透し、転職が当たり前となっている中で、「イクボス」の養成は女性活躍のみならず、若手社員のエンゲージメント強化などにも有効だ。

 当社でもイクボス研修サービスを提供しているが、従来のようなマネジメントのハウツーを教授するものではない。時代が変わり部下の価値観も多様化する中で、“これからの管理職は「イクボス」としてどうあるべきか”をまず学んでいく内容になっている。

 間違ってはいけないのが、イクボスの養成は、今のマネジメントの在り方を否定するものではないということだ。時代が変化している事実を冷静に受け止めながらも、管理統制型のマネジメントを否定することなく、「これからの時代に即して、部下のキャリアや人生を支援し(善意・無意識の“肩たたき”などすることなく)、組織の結果を出せる管理職」を目指してもらう。こうしたマネジメント志向・スキルを伸ばし、活躍を支援する研修が必要である[図表2]

[図表2]これからの人材・組織開発、マネジメントの方向性
──イクボスの浸透がカギを握る

図表2

5.早期選抜:リーダーポジションの経験が次につながる

 最後にお勧めしたいのが、シンプルに20代の早期からリーダー経験を積ませる施策だ。

 第2回で紹介したとおり、女性は男性と比較すると、管理職などのリーダー的ポジションへの就任意向はそれほど高くない。そして、男性は配偶者の結婚や出産を機に昇格・昇進意欲が高まっていくのに対して、女性では出産を契機としてそうした意欲がむしろ減退する傾向にある。
 その裏側には「諦め」があることが多い。特に、リーダー経験をせずに産休・育休に入り、復帰して時短勤務になると「ここから管理職として働くのは難しい」と考えてしまうのだ。

 このようなケースの解決策としてもっとも有効なのが、早期のリーダー選抜だ。
 若手で大きなライフイベントを迎える前、仕事に集中しやすい環境のうちに、早めに一度リーダー経験をさせておく。すると育休から復帰した後も「何とかやっていける」「今は難しいかもしれないけど、子どもがあと少し育ったらもう1回……」などと考えることができるようになる。

 日本における年功序列はかなり廃れたとはいえ、「若手のうちは平等に昇格させていく」という企業も残っている。これ自体は悪いことではないかもしれない。ただ、これにこだわっていると、女性は20代後半~30代前半に出産のライフイベントを挟んだ際、管理職意向の減退が生じやすくなる。
 したがって、20代のうちにリーダー経験を積ませることが、後のキャリア形成、管理職として活躍する意欲に良い影響を与えるといえる。

 当社では、20代でマネジャーに昇進する女性社員が多い。彼女たちは結婚や出産を経て、一時的には仕事から離れても、育児に慣れて時間的な余裕が出てくると、再び積極的に高い視座を持って仕事に取り組もうとする傾向がある。

 一方で、リーダー経験がないと、子育てに追われる中で「管理職を目指してほしい」と言われても「本当にできるのか……」という不安や心理ハードルが生じやすくなる。
 もちろんマネジメント経験に限らず、早い段階でキャリア教育を行うことも有効だ。管理職を目指すだけではなく、さまざまなキャリアの描き方があることを若手のうちに示しておくのがよいだろう。

 本連載では、「女性リーダー・管理職が育つ企業の条件」について、以下の3パートに分けてお届けしてきた。

 「新卒採用における女性比率が増えている」「新人や若手の活躍者にも女性が多い」といった声は多く耳にする。一方で、女性管理職となると、まだまだ育成がうまくいっていない企業が多い。

 ただ、この数十年で国内における女性活躍の事例は数多く蓄積されてきた。そうした先例を踏まえながら、まず課題や問題を見極めることが、女性リーダーの輩出を検討する際のカギとなる。
 その上で、社員と対話をして本音を抽出する。そして継続的に施策を展開していけば、状況は必ず改善する。

 一過性の掛け声で終わってしまわないようにしたい。仮にうまくいかなくても、そこから得た学びで軌道修正すればいい。こうした認識の下、自社・他社を問わず失敗ケースやボトルネックになりそうな点などを踏まえ、事前に一定の反発や停滞も織り込んだ上で、息の長い取り組みとして継続していくことが大切だ。

東宮美樹 とうみや みき
株式会社ジェイック 取締役
株式会社Kakedas 取締役

ハウス食品株式会社で営業職を経験、人材紹介会社で求職者(3000人)のカウンセラーを経験した後、2006年ジェイックに入社し、「研修講師」としてのキャリアをスタート。2014年には前例のない快挙となる、講師として「リピート率100%」を3年連続で達成。2015年社員教育事業の事業責任者に就任、組織開発相談など支援実績多数。2023年キャリア相談オンラインサービスKakedasの取締役を兼任。定着・活躍推進、キャリア自律、イクボス、女性活躍推進などを中心に活躍中。

株式会社ジェイックについて(女性活躍推進の取り組み)

1991年に教育会社として設立。現在、企業向け研修などの教育支援と、新卒や20代若手の採用支援を手掛ける(東証グロース市場上場)。現在241人の社員のうち、男性51%・女性49%と男女比はほぼ半々で、女性の管理職比率は35%。社員教育を行い、社員が定着して性別を問わず継続的に活躍することを組織づくりのゴールに定め取り組みを進めてきた結果、「日本HRチャレンジ大賞」(後援:厚生労働省、中小企業基盤整備機構〔中小機構〕、東洋経済新報社、ビジネスパブリッシング、HR総研〔ProFuture〕)を3回受賞し、「働きがいのある会社」(Great Place To Work® Institute Japan)に7年連続(2017~23年)で選出。「女性活躍推進企業」として国が認定する「えるぼし」も、2018年に3つ星の認定を受けている。