今日、人的資本経営が注目される中、人材戦略において重要性が高まっているのが「タレントマネジメント」です。従来、経営人材・次世代リーダーの選抜や育成、登用に向け、一部の優秀層に限定した取り組みと捉えられてきましたが、近年は対象を「全社員」に広げ、タレントマネジメントを行う企業が増えています。ただ、人材の獲得から育成、配置、キャリア開発に至るまで、タレントマネジメントに関わるあらゆる機能を有機的につなげ、一貫性のある仕組みとしていくことは容易ではないため、施策ごとの工夫や連携、運用に係るノウハウの蓄積が必要となります。
本特集では、全社員を対象とするタレントマネジメントに取り組む、以下の2社事例を取り上げるとともに、後段では、「全社員型タレントマネジメント」の施策モデルと導入目的に沿った設計・運用のポイントについて実務解説を掲載しています。
■ライオン
ライオンでは、多様な人材が自律的に動き活躍する組織に向け、自律的なキャリア形成や成長を促すために、全社員を対象としたタレントマネジメントを実施する。
2019年7月に開始した「ライオン流働きがい改革」の四つのテーマのうち「関係性を高める」施策を重視し、2021年に、横のつながりづくりの活性化を狙いタレントマネジメントシステムを導入した。全社員が閲覧できる「コミュニケーションページ」で社員が自身の情報を公開し、検索し合う仕組みで交流に活用している。また、キャリア自律を促す取り組みとして人事制度・人材開発体系の改定、各部所(部署)における業務内容等を示した「お仕事図鑑」の作成、人事(人材開発センター)内の組織体「キャリアデザイン・サポート」の設置、学習プラットフォーム「ライオン・キャリアビレッジ」の運用、360度評価やキャリア設計面談を実施。自律に向けたサポートとしては、年1回のキャリア設計面談に加え、少なくとも月1回は上長との1 on 1 を実施する。働きがい改革の実現による生産性向上と経営への貢献という最終的な目的を見据え、各施策を推進している。
■NEC
NECは、2018年から始まった経営改革に連動する形で、タレントマネジメントを加速させた。「会社を変えていくために、まずはリーダーから変わっていかなければならない」という考え方の下、次世代リーダー育成の取り組みを中心に推進。経営戦略に基づき、選抜・育成から任用まで、全社横断的なフレームワークとプロセスを確立している。
一方、全社員を対象として、人材に関するあらゆる情報を戦略的に定義し、意欲と能力を持った社員が挑戦できる仕組みも必要との認識の下、2018年からの変革の取り組みを統合して全社のエコシステムとして機能させ続けるべく、「ジョブ型人材マネジメント」を構築している(上位層から導入、2024年度より全社員に展開予定)。
これまでの変革に対して、社員エンゲージメントスコアの伸長(2020年度25%→2022年度36%)を見ると一定の納得感が得られたと評価されるほか、自ら手を挙げて異動していく社員が従前から倍増するなど、社員の意識・行動にも変化がうかがえるという。
[図表]掲載2社におけるタレントマネジメントの概要
[注]各社の概要を当研究所でまとめた。
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『労政時報』第4063号(23. 9.22)の特集記事 1.タレントマネジメントをどう設計・運用するか 2.資生堂の人事制度改定事例 3.メンタルヘルス判例研究シリーズ(第37回) ※表紙画像をクリックすると目次PDFをご覧いただけます |
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